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死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
18/57

大将首になりました


出陣を控えた朝、薄曇りの空に霧がたちこめていた。砦の中庭では、兵たちが装備を整え、馬に鞍をかけ、最後の準備を進めている。そんな中、ゼイルとガロットもそれぞれの小隊の前で隊列を点検していた。


そこへ、ひとりの伝令兵が駆け込んできた。


「お届け物です! 第一軍より、師団長殿へ!」


ゼイルとガロットが首を傾げたその瞬間、背後から何かが飛んできた。


「……っと!」


「おわっ、あぶね!」


慌てて手を伸ばして受け取ったそれは、見慣れた軍服と、金の糸で縁取られた階級章だった。丁寧に畳まれた布の重み。胸元に輝く双剣と月桂樹の紋章――間違いなく、師団長の証だ。


「……おまえ、本気だったんだな……」

ゼイルがぽつりとつぶやいた。


「冗談だと思ってたぜ……」

ガロットも目を丸くしながら、手の中の軍服を見つめている。


「当たり前だろう。三度同じことを言わせるな」

セレンが歩み寄ってきて、涼しい声で言い放つ。


「さっさと着替えろ。今日からお前たちは“標的”だ」


「……標的?」

「……ああ……大将首、ってことか……」


二人の顔から血の気が引いた。


「師団長の首は高く売れる。前に出るなら、覚悟しておけ」


セレンはそれだけ言うと、くるりと背を向けて歩き去った。足取りは相変わらず静かで無駄がなく、言葉にも感情はこもっていない。


だが、後に残された兵士たちは別の反応を見せていた。


「ゼイル様、師団長って本当ですか!?」

「すげえ!ガロット隊長、ついにだな!」

「ほら、あの伝令も第一軍って言ってたし間違いないって!」


中庭が一気にざわめいた。歓声、どよめき、驚きと称賛が入り混じり、兵士たちの士気は一段と高まっていく。


ゼイルは軍服を見つめながら、口元をひきつらせた笑みでガロットに目配せした。


「……なあ、俺ら、どこで道を間違えたと思う?」


「たぶん、最初に“あの将軍の命令なら通る”って言った時だろうな」

ガロットがぼやく。


「撤回してぇ……けど、まあ……」

ゼイルは軍服を肩にかけながら、少し遠くのセレンの背中を見やった。


「仕方ねえな。ここまで来ちまったし、やるしかねぇか」


「せめて首を取られる前に、少しでもいいとこ見せてやるさ」


そう言って、二人は階級章を胸に留めた。

その背後では、部下たちが歓声を上げながら祝福を叫んでいた。


戦の準備は整った。

あとは、前に進むだけだった。

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