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死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
17/57

「死神の剣」現る


西王国・第三遊撃師団 副隊長リューゲは、夜の帳が下りる戦野に、苛立ちを募らせていた。

ここ数日で、あまりに仲間の姿が消えすぎていた。連絡が途絶えた斥候、戻らぬ前衛部隊。

気づけば、陣の周囲には、血の気を失ったような兵士たちが膝を抱えて座っている。


「……また一隊、連絡が途絶えました」


副官の報告に、リューゲは思わず舌打ちした。


「またか……ふざけるな。何も敵の本軍とぶつかったわけじゃないだろう!」


「は……いえ、その、噂によれば……“死神の手”の、右手が……」


「黙れッ!」


思わず怒鳴った。

その名を口にされるだけで、背中に冷たいものが走る。


――“死神の剣”。

白銀の髪を持つ“死神将軍”が遣わす、青き瞳の処刑者。

怒涛のごとき突撃で陣を穿ち、落雷をともなう剣を振るうその姿は、まるで神話の魔剣のようだという。


「そんな戯言を信じるな! あれは敵の情報操作だ。騙されてどうする!」


兵士たちは下を向き、誰も返事をしなかった。

……否、できなかった。

彼らも皆、見たのだ。三日前、隣の陣営を襲撃し、雷鳴とともに黒焦げに焼け落ちた砦の残骸を。


そこに残っていたのは、焼け爛れた兵士たちの骸と、剣で一刀のもとに斬られたと思しき深い切創のみ。


「伝令! 何をしている! 周辺の警戒を強化しろ。後衛に予備兵を回せ!」


「はっ! ……た、大変です! 南の林にて、火の手が──!」


「なにっ」


リューゲが顔を上げると、暗い地平線の端、南西の方角に、ぽうっと橙の炎が立ち上がっていた。


風向きに乗って流れてきたのは、焼けた木の匂いと、鉄の焦げた臭い。

そして――人の断末魔。


「敵襲ッ!! 陣の南西から敵襲!」


「バカな! そちらに味方の伏兵を置いていたはず──!」


その瞬間だった。

夜空に、紫電の閃光が奔る。

爆音と共に、突如として走った雷撃が、森の端をまるごと引き裂くように吹き飛ばした。


誰かが叫んだ。


「あれだ……あの剣……!」


「《死神の剣》が来たぞ!!」


その言葉を最後に、陣は完全に混乱した。

軍規も、編制も、もはや機能しない。


突撃する敵兵の先頭――長身の男の姿が、闇に紛れて近づいてくる。

その剣がひと振りされるたびに、雷鳴が落ち、兵が吹き飛び、地面が抉れた。


「止めろ! 止めろぉぉ!! 盾兵は前に出ろ! 後衛は魔弾を──!」


だが、声は空しく、部下たちは恐怖に染まった顔で逃げ散った。

剣はそれを追うように、冷酷な正確さで肉を裂く。


リューゲは己の足がすくんで動かないのを呪った。


「なんで……なんで、こんな、化け物が……!」


――死神は、銀の髪ではなかった。

だが、間違いない。

この剣こそ、“死神の手”が振るう、鋼の刃。

見上げる空の向こうで、誰かが笑っている気がした。


どこかで、雷が再び落ちた。


その光が、確かにリューゲの目に映したのは──


振るう剣の主の、真っ青な、目が燃えるように光る瞳だった。


「死ぬ……!」


その叫びは空しく、鼓膜にこだまするだけだった。

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