表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
12/57

氷の死神あるいは死神将軍


 その異名を最初に耳にしたのは、ある戦の最中だった。

 敵軍の斥候が、恐怖に顔を引きつらせながら叫んだという――「あの銀髪の死神が来るぞ」と。


 セレン・カリス・レオント――

 その名を知らぬ者は王国にはいないが、彼女の「顔」を知る者は少ない。

 銀糸のように光を放つ髪、陶器のように白く滑らかな肌、まるで絵画か彫刻かと見紛う整いすぎた顔立ち。だが、それはあくまで静止しているときの話だった。


 表情が乏しい。喜怒哀楽の輪郭がほとんど動かない。

 氷のように冷たく、理知の刃で戦場を切り裂く彼女に、人は「氷の死神」と名をつけた。


 その異名の由来は美貌だけではない。

 敵軍が築いた要塞陣地を、僅か三日で潰した電撃戦。

 自軍の損耗を最小限に抑えつつ、敵の動きを読み切り、まるで予知していたかのように最善手を打ち続ける采配。

 情け容赦のない撤退判断と、援軍の切り捨て。

 仲間であろうと、王命であろうと、自らの正義に反すれば淡々と切り捨てる冷徹さ。


 ――その冷たさと、無数の敵兵の屍が積み上がる戦場を背景に立つ姿は、まさに「死神」そのものだった。


「死神将軍」「氷の死神」

 彼女のことを、兵たちは恐れと敬意を込めてそう呼んだ。

 だがそれは、恐怖ではない。ただの畏怖ではない。


 彼女は――「勝つ」からだ。

 どんなに劣勢でも、彼女が戦場にいると信じる者たちは戦える。

 どれほど戦況が厳しくとも、あの銀髪が風になびく背を見れば、自分たちは生きて戻れると信じられた。


 それが、セレンという存在だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ