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二章 二 畏れ多いことだ

なるべく前作を読まなくてもわかりようにを心掛けていますが、新人教育については世界観もわかるのでチラ見いただけるといいかも。


これであなたも八卦マスター!


新人教育1限目

https://ncode.syosetu.com/n9840fc/4

新人教育2限目

https://ncode.syosetu.com/n9840fc/10

新人教育3限目

https://ncode.syosetu.com/n9840fc/17


 ホテルに戻った俺たちは、冬美と天花寺に刑天に聞いた話を伝えた。冬美は腕を組み、鼻から大きく息を吐く。


「『天吳(てんご)』が元凶なのね」

「知ってるのか?」


 俺が聞くと冬美は首を振る。


「山海経に伝わる首が八つで八つの尾と爪を持つという神だけど、実際は反地球人なんでしょう?なら見た目は私たちと同じってことよね」


 神話の時代の話だからあれこれ尾ひれがつくのはしょうがない。山海経は紀元前三世紀ごろに記載されたもので、そのころにはもう『天吳(てんご)』は封印されていたはずだから、言い伝えしか残っていない。


 天花寺(てんげいじ)は小さく手を上げる。


「そこまでわかっちゃったなら、もう私の出番無いですよね?」


 天花寺は戦いに参加したくないのだろう。しかし確かに黒幕もわかったわけで、必要性は薄れた。


「そうだなぁ。しかしまぁ手伝えることがあったら頼みたいが」

「そ、それはもちろん」


 天花寺は頷く。

 石橋はソファでスマホをいじりながら言う。


「再封印ってどうやるんや? 刑天(シンチィン)は何も言わんかったが」

「そういやそうだな」


 俺は考え込んだ。夢に封印・・・? そうか。


法雨(みのり)さん?」


 そうだ。特別国庫管理部のメンバーの一人である神子戸法雨(みことみのり)。『天地否(ツーデーフ)』の因果の使い手はかつて十年間もの間、刑天を夢に封じた。あぁ、それで刑天が俺達の所に来たのかと合点がいく。

 ・・・以前も思ったが、冬美はなぜ神子戸さんを下の名前で呼ぶのだろう。嫉妬しているわけではないが、冬美が苗字以外を呼ぶのは俺以外では神子戸さんだけだ。


「神子戸さんはかなりご高齢でお身体も良くないだろう? それに封じるためにまた一緒に眠ってもらうのか?」

「多分、今度は眠らずに済むわよ。神の施した封印の補助だけなら」


 俺の因果『風雷益(フーレーイ)』は周囲のパーグアの因果を劣化コピーして使えるようになる因果だ。だから神子戸さんに会ったことがある俺は『天地否(ツーデーフ)』を使えるが、俺が使っても少し迷わせる程度の効果しか得られないからほぼ使い物にはならない。(以前それで倒した神使もいたが)


「『天吳(てんご)』は誰の夢におるんや?」


 そう言われて気づいた。『天吳(てんご)』は三千年程前に封印されたと聞いたが、誰の夢なのかはわからない。俺たちが再封印するには『天吳(てんご)』がいる夢に侵入する必要があるのだ。紀元前数百年前だとどういう時代なのかも想像がつかない。


「それは知らないが、『影喰い』の夢に入れば『天吳(てんご)』に辿り着けそうだな」

「『影喰い』はレンブラントの弟子なんやろ? じゃあ、またレンブラントの夢から侵入すればええか」


 俺たちは四人で再度、東京国立近代美術館に行くことにした。「レンブラントのナイフ」の展示会まであと七日となっており、美術館はスタッフが大勢準備作業をしている。

 冬美は小芝館長にまたお願いをしてあの絵画がある部屋で眠らせてもらう許可をもらっていた。

 俺と天花寺、石橋は三人で倉庫に行く。倉庫には『振り返る黒髪の女』が静かに安置されている。


 天花寺は絵を見上げると口をぽかんと開けた。石橋は一度見ているから驚いてはいない。


「ホントにこれ所長に似てますね」

「モデルだからな」


 今日も小芝が一緒に寝るようだ。俺たちは倉庫に所狭しとベッドを六台も並べ、寝る準備を始めた。なんだかんだで時間は経過し、二十二時を回っている。俺は美術館の外あたりに因果を感じる。


「神子戸さんが来たな」


 俺がそう言うと冬美が立ち上がった。小芝は首を傾げている。ちょうどそのタイミングで美術館裏口のインターホンが鳴り、小芝と冬美が迎えに行った。和装の翁、神子戸さんは車椅子で現れ、冬美に移乗を手伝ってもらいながらベッドに座る。


「突然すいません。法雨(みのり)さんの力が必要なんです」

「こんな老体を呼び出してまた眠りにつけというのか」

「恐らくは眠りにつくことは無いと思います。神の封印を強化する程度ですから」

「畏れ多いことだ」


 そう言いながら、神子戸さんはベッドに横になった。どうやら手伝ってくれるらしい。俺たちもベッドに横になる。


 遠い光を目指す。その(いただき)を目指すことしか考えない。昔、姉に聞いたことを思い出す。後ろには望天吼(ぼうてんこう)がいるから振り返ってはいけないと。

 光の中に入ると(もだ)となる。俺が俺である何かがそこでは全て。そうして、溶けあい、繋がる。

 

 気づくと俺、冬美、石橋、天花寺、神子戸の五人はネーデルランドのあの教会にいた。


「ここか」


 俺は教会の木製の長椅子から立ち上がると中央の通路に出る。今日はニュートンはいないようだった。


「どこですか、ここ」


 天花寺も椅子から立ち上がって辺りを見渡した。


「ネーデルランドの教会だ。ここから歩いてレンブラントのアトリエに行く」

「儂は『影喰い』を知らんが、気配はどうだ?」


 若い男の声がしたので振り向くと、見知らぬ男が立っている。男は驚くほどの美形だ。これほどの美男子は見たことがなかった。冬美も頬を赤らめてうっとりした表情で見つめている。おいおい。


「え? まさか神子戸さんですか?」


 俺が素っ頓狂な声をあげると美男子は頷いた。


「そうじゃが。あぁそうか。夢では初めてだったな。儂は二十歳でパーグアになったから、夢では二十歳じゃよ」


 パーグアは夢の中ではパーグアに覚醒した時の年齢となる。冬美も半年前までは十三歳時の姿だったのだ。冬美が神子戸さんを名前で呼ぶのは自分好みのイケメンだからか。俺は軽く冬美を睨むが俺の視線には気づかないようだ。


 石橋は今とほぼ姿は変わらない。髪が金髪ではないくらいだ。石橋も中央通路から教会の出口に向かった。教会の大きな扉に手をかけると俺たちを振り返る。


「『影喰い』の気配はわからんが、教会の外から『風』が吹きこんどる」

「花鳥風月」


 天花寺がつぶやく。「花鳥風月」は新人教育の授業で教える。鳥は夢の出口に向かって飛び、風を感じるときは「良くない事」が迫っている時、花と月は死人の魂が近くにある時。


 俺と石橋は教会の扉を押すと重い音と共に開かれた。それと同時に生ぬるく、カビくさい風が吹きつける。


「くっせぇ」


 石橋は鼻の前で手を振る。教会の前の大通りには不思議なほど人がおらず、百メートルほど先の道の中央に二つの影が見えた。


「あれは」


 俺が指をさすと石橋も気づいたようだ。他の三人も外に出てきた。


「二人は儂が守るから安心せぇ」


 神子戸さんが冬美と天花寺の前に出る。冬美は嬉しそうに神子戸さんを見つめた。おい。


 二つの影は近づいてきたがどうやら『影食い』ではなく手下の怪物のようだ。



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