被告側の反論と錬金術師のデモンストレーション
弁護側の主張
裁判が佳境に入り、被告側はエリアスの公開実験による証拠を切り崩すため、雇われた錬金術師を召喚した。その錬金術師は堂々と証言台に立ち、エリアスの実験結果に対して冷静に反論を始めました。
「エリアス殿の実験は、加熱された辰砂から発生するガスが有毒であることを証明したに過ぎません。しかし、辰砂を常温で服用する場合、それが人体に即座に害を及ぼすかどうかは全く別の話です。」
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デモンストレーション
錬金術師は続けて、自ら辰砂を服用するという大胆なデモンストレーションを提案しました。傍聴席からは驚きの声が上がる中、彼は小さな銀の匙に赤黒い辰砂を一掬い取り、ゆっくりと口に運んだ。
「ご覧ください。これが辰砂です。私のように適量を服用する限り、人体に即座に有害な影響を及ぼすことはありません。」
彼は堂々と述べた後、水を一口飲んで喉を潤しました。
法廷内はしばらくの間、静まり返りました。人々は錬金術師の大胆な行動に驚きつつも、彼が平然としている姿を見てその主張に耳を傾けざるを得なくなったのです。
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弁護側弁護士の補足
続いて、被告側弁護人が声を張り上げ、さらなる主張を展開しました。
「グレゴリウス様は火災が起こる以前、長い期間にわたり辰砂を服用していましたが、その間は健康に何の問題もありませんでした。この事実が示すのは、辰砂そのものが有害なのではなく、火災による特殊な状況が原因であった可能性が高いということです。」
さらに、弁護人は手元の古い錬金術の写本を持ち上げ、裁判官に向けて語りかけました。
「ご覧ください。この写本には、水銀と硫黄を用いることで金が生成できるという記載があります。このような権威ある記録が残る中で、辰砂を危険物として一方的に断定するのは、錬金術の歴史と知識に対する侮辱に他なりません。」
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エリアスの対応
エリアスは、被告側の反論とデモンストレーションを冷静に見守りながら、再び立ち上がりました。裁判官の許可を得て、静かに言葉を紡ぎます。
「まず、辰砂の服用について申し上げます。被告側の錬金術師殿が服用されたのは、確かに少量であり、短時間では即座に影響を及ぼさないでしょう。しかし、水銀は蓄積性の毒を持つことで知られています。少量でも長期間にわたる摂取がどのような影響を及ぼすかについては、さらなる科学的検証が必要です。」
エリアスは一呼吸置き、弁護人の指摘した写本について語りました。
「そして、古い錬金術の写本に記された『水銀と硫黄による金の合成』についてですが、私はその歴史的価値を否定するものではありません。しかし、写本の内容がそのまま真実を証明するものではないということは、錬金術師であれば誰もが認めるはずです。科学は進歩します。その過程で、過去の知識が誤りであることが判明することもあるのです。」
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裁判官の介入
裁判官は、双方の意見を静かに聞き終えた後、エリアスに向けて質問を投げかけました。
「エリアス殿、辰砂が人体に与える影響については、現時点での科学的な知識が十分ではないという理解でよろしいですか?」
エリアスは頷きながら答えました。
「その通りです。ただし、加熱した辰砂から発生するガスが有毒であることは確立された事実であり、その危険性を軽視することはできません。」
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傍聴席の反応
法廷の空気は張り詰めていました。傍聴席に座る人々は、被告側の錬金術師のデモンストレーションに一時的に納得する様子を見せたものの、エリアスの冷静で科学的な説明によって再び考えを改める姿が見られました。




