法廷での応酬
レオナルドの主張
裁判の場で、エリアスによる辰砂の公開実験が証拠として提示された後、弁護側に立つレオナルドは冷静な口調で反論を始めました。
「エリアス殿の実験は確かに興味深いものでした。しかし、私が主張したいのは、ニワトリが死んだ原因が水銀の毒性そのものではなく、硫黄が燃える際に発生するガスである可能性が高いということです。辰砂はただ燃えただけでは水銀を放出するわけではなく、これは熱による化学反応の結果です。よって、この実験は辰砂そのものの安全性を否定するものではありません。」
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エリアスの再反論
エリアスは、一瞬沈黙し、裁判官と傍聴人を見渡した後、はっきりとした声で答えました。
「たとえ原因が硫黄ガスであれ、水銀蒸気であれ、辰砂を熱することで命に関わる毒性が生じるという事実は変わりません。この物質を人に与え、しかも賢者の石として服用させることが、どれほど危険であるかは明らかです。人間の健康にこれほど深刻な影響を与える可能性がある物質を慎重に扱うことは、錬金術師としての責務ではありませんか?」
エリアスの言葉が響く中、法廷には一瞬の静寂が訪れます。しかし、すぐに弁護側の弁護士が再び立ち上がり、反論を展開しました。
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弁護側の反論
「エリアス殿のおっしゃることは一理あるように聞こえますが、それは物質全般に適用できる話ではないでしょうか?わらを例に挙げましょう。わらは無害な物質ですが、それを燃やして発生する煙を吸えば、命に関わる危険が生じるかもしれません。だからといって、わらそのものを危険物として遠ざけるべきだと主張するのは妥当でしょうか?」
弁護側の反論に、傍聴席からはざわめきが上がった。レオナルドはわずかに微笑みながら、勝利を確信したように腕を組みます。
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エリアスの最終反論
エリアスは裁判官を見据え、冷静に語り始めました。
「確かに、わらは燃やすと煙を発生させます。しかし、その煙の毒性は、辰砂から発生するガスとは全く次元が異なります。硫黄が燃える際に生じるガスが極めて危険なものであることは、先ほどのニワトリの実験で証明されました。わらの煙が健康に与える影響と、硫黄や水銀から生じる毒性を同列に語ることは科学的に間違っています。」
彼は一呼吸置き、さらに強調するように続けました。
「辰砂は、わらのような無害な日用品ではありません。それは非常に繊細かつ危険な化学物質であり、扱いを誤れば命に関わる事態を引き起こします。この事実を無視し、あたかも日常的な物質と同等であるかのように主張することこそ、無責任であると考えます。」
法廷内は再び静寂に包まれました。傍聴席にいた人々の表情からは、エリアスの言葉が深く刺さったことが伺えました。
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反応
裁判官は深く頷きながらエリアスの言葉に耳を傾けていました。そして、補足的な質問を投げかけた。「エリアス殿、つまり、辰砂を熱する行為そのものが非常に危険であり、人間がそれを扱うには特別な注意が必要だということですね?」
エリアスは即答します。「はい、その通りです。」
ユリウスはエリアスの冷静な反論に満足げに頷き、彼の証言が裁判を有利に進める重要な要素となることを確信しました。
一方で、レオナルドは動揺を隠しきれませんでした。彼は自らの主張が次第に論破されつつあることを感じ、法廷での立場がさらに危うくなる恐怖を覚えます。




