裁判の幕開け
裁判の背景
火災から数か月が経過し、グレゴリウス・アウグストゥスの健康状態は一進一退の状態をたどっていた。彼の衰弱した姿を見るにつれ、一族の反対派は次第に声を強め、ついにはレオナルド・アウリウスを詐欺罪および謀殺未遂の疑いで訴えることを決意します。
グレゴリウス自身は、長年にわたり信頼を寄せてきたレオナルドを法廷に立たせることに消極的だったのですが、しかし、反対派の圧力、特にユリウス・アウグストゥスの説得により、やむを得ず原告側に名を連ねることとなりました。
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ユリウスの決断
ユリウスは、もともとレオナルドに対して消極的な反対派でした。彼は、科学の発展に寄与する可能性を否定しない冷静な人物であり、レオナルドの研究が本物である可能性も考慮していたのです。しかし、辰砂による健康被害が明らかになるにつれ、事態を看過できなくなりました。
「一族の名誉を守るためにも、ここで行動を起こさなければならない。」
そう自らに言い聞かせ、彼は裁判の原告責任者となる覚悟を固めました。
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ルキウスの立場
裁判が公に進む中、ルキウス・セレナスは表立って発言することができなない立場でした。彼はアウグストゥス家から養子に出された身であり、裁判に関与する法的な権限がなかったからです。しかし、彼の怒りと憤りは隠しようがありません。
「彼を許すなんてありえない。」
ルキウスはユリウスに向かって憤然と語りました。「あなたがようやく行動を起こしたことは評価するが、これが早ければ兄さん(グレゴリウス)はもっと良い状態でいられたかもしれない。」
ユリウスはため息をつき、冷静な口調で答えました。「ルキウス、君の怒りは理解する。しかし、今は感情に任せて行動するべき時ではない。裁判を確実に進め、真実を明らかにすることが最優先だ。」
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裁判の開始
プラハの裁判所で行われた公判には、多くの錬金術師や貴族たちが集ましました。裁判の焦点は、辰砂を「賢者の石」として処方したレオナルドの行為が、詐欺行為であるか、あるいは故意にグレゴリウスを傷つける意図があったかどうかという点でした。
レオナルドは毅然とした態度で法廷に立った。彼は弁護人とともに、辰砂が錬金術における正当な研究対象であり、毒性を含む可能性についても注意喚起していたと主張しました。
「私はあくまで錬金術師として、研究の成果を提供しただけだ。」
レオナルドは堂々と語ります。「辰砂がグレゴリウス様の健康を害する結果となったのは予期せぬ事態であり、悪意や故意は一切ない。」
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ユリウスの主張
一方、ユリウスは一族を代表して冷静かつ緻密にレオナルドの責任を追及しました。
「辰砂は、古くから錬金術に用いられる物質ではありますが、水銀を含む以上、その毒性は周知の事実です。」
ユリウスは静かな声で語り続けた。「レオナルド殿がこれを『賢者の石』と称し、兄グレゴリウスに摂取させたことが、兄の健康を著しく害した原因であることは明らかです。」
ユリウスの言葉は淡々としていましたが、法廷に集まった人々の心には深く響くものでした。
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証人たちの証言
裁判には証人として、錬金術師や医師たちが呼ばれました。中にはレオナルドの研究を擁護する者もいれば、彼の行為を批判する者もいました。
ある錬金術師はこう証言しました。「辰砂を賢者の石と呼ぶことは錬金術師の間で一般的だが、その毒性を考えると、摂取を勧めるべきではない。」
一方、医師はこう述べた。「グレゴリウス様の症状は典型的な水銀中毒の兆候を示しています。辰砂の摂取が原因である可能性は非常に高い。」
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レオナルドの孤立
公判が進むにつれ、かつてレオナルドを支持していた一部の貴族や錬金術師たちも、彼から距離を置き始めました。彼が長年築き上げてきた名声は、徐々に崩れ去っていきます。
裁判の席で、レオナルドは一人孤独を感じ始めていた。それでも彼は、自らの研究と信念を守るため、毅然とした態度を崩しませんでした。




