表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/338

プロローグ:愚者の黄金

もしかしたら、あり得たかもしれない錬金術のお話

1665年、プラハ郊外。冬の終わりを告げるように、白い息が暖かな日差しの中で舞い上がっている。少年エリアスは、工房の片隅で木の端材をいじりながら、父の仕事が終わるのをじっと待っていました。

「エリアス、こっちに来なさい。」

父の低く温かな声が工房に響きます。少年は木屑を手にしたまま跳ねるように駆け寄りました。父の手は固く、作業で荒れているが、その手が差し出すものは、どこか異様な輝きを放っています。

「これが何か分かるか?」

父の手のひらには、小さな黄鉄鉱の結晶が乗っていました。金のような光沢を持つその結晶は、太陽の光を受けて煌めき、まるで魔法のような輝きを放っている…

エリアスは目を見開き、小さな手で慎重にそれを掴みました。

「金?」彼は期待に満ちた声で尋ねます。

父は穏やかに笑いながら首を振ります。「いや、これは『愚者の黄金』だ。本物の金じゃない。でも美しいだろう?」

エリアスは結晶をじっと見つめ、指でそっと撫でました。ごつごつした表面と冷たい感触が、彼にとっては何か神秘的なものに感じられたのです。

「愚者の黄金……?」

「そうだ。世の中には、これを金だと思い込む人もいる。だが、本物の金でないからと言って、価値がないわけじゃない。この石は、鉱山からやっとの思いで見つけ出される。そして、そこにはまだ知られていない秘密が隠れているかもしれない。」

少年の瞳は、結晶の輝きと同じように光を帯び始めました。

「秘密……?」

「そうだ。いつか、お前が大きくなったら、この石が何のためにあるのか、自分の力で見つけてみるといい。」

エリアスは嬉しそうに笑い、結晶を胸に抱きしめました。「分かった!この石を大事にするよ!」

父はその姿を見て、少しだけ感慨深い表情を浮かべます。職人として世の中の現実を知る彼は、この結晶を通じて、息子に「知ること」の喜びと、「探求すること」の重要性を伝えたかったのです。

その瞬間、少年エリアスの心に、初めて「何かを見つけ出したい」という小さな種が蒔かれました。それは、彼が後に歩む道の始まりであり、光と影の入り混じる旅路への第一歩でした。

結晶を握りしめながら、エリアスは外の光へ駆け出していく。その背中を見送る父の瞳には、一抹の希望と微かな不安が宿っていました。彼が進む未来が、父の想像を超えるものであることを、今はまだ誰も知りません。

________________________________________

こうして、愚者の黄金が少年エリアスの手に渡り、彼の探究心と未来への希望を宿すきっかけとなったのです。この小さな出来事が、彼の物語の扉をそっと開けることになりました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ