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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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8、歩み寄ろうとして失敗したユリアーネ


 国王陛下が崩御された―—


 それは本当に突然の出来事だった。

 執務中に倒れられ、そのまま息を引き取ったのだ。高齢であるが故、誰もが健康を心配していた。それでも寝込むほどではなく数年のうちに王位継承の儀を行い王太子殿下に即位していただかなければと準備を始めようとしていた矢先の事だった。

 王太子はオロオロしているだけで役に立たず、宰相と三公爵家で全てを執り行い国王陛下の葬儀と、新国王の即位の儀が行われた。


 そうして三か月が過ぎた。


「え? 夜会? まだ国王陛下の喪中ではないの?」


 グラッぺ夫人の言葉を聞いてユリアーネは耳を疑った。

 成人前のユリアーネには関係ない事だが一か月後に王宮で盛大な夜会が開かれるらしい。


「ええ、私もせめて半年、本来なら一年は喪に服すべきだと存じますわ」


 グラッぺ夫人は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「王太子妃……いえ、王妃様の発案だそうですわ。喪中なので即位の儀は簡素に行われましたでしょう。三か月も経ったのだから盛大に貴族にお披露目してもいいでしょうと」


 三か月()、なのか()()三か月なのかは人によって違うだろう。でも国王陛下が崩御されたのだ。王族が亡くなった場合一年間は喪に服すことが義務付けられていたように思う。


「ここだけの話ですわ」とグラッぺ夫人は人差し指を立てた。


「王妃様は夜会で貴族の方々に新国王陛下と王妃様のお披露目をすることは喪に服す行為だとおっしゃったらしいですわ。新国王夫妻の晴れ姿を見ていただくことで前国王陛下もご安心なさり神の御許に旅立つことが出来るでしょうと。どうせ贅沢できない日々の生活に飽き飽きして……あら、失礼いたしましたわ」


 グラッぺ夫人はうっかり口を滑らせたていで王妃様への不満を漏らした。その言葉をユリアーネしか聞いていないことを承知の上で。それによってグラッぺ夫人が王妃様をどう思っているかユリアーネは推測することが出来た。




 その一か月後、夜会は盛大に行われた。

 ユリアーネは直接見たわけではないが、半数以上の貴族が喪に服す意味で黒を取り入れた装飾の少ない衣装で参加した中で王妃様はそれはそれは豪華な衣装で登場したらしい。

 そしてその場で宰相の引退とテオドールの立太子が発表された。


 グラッぺ夫人に聞いたところによると宰相は王妃様との度重なる意見の対立により引退に追い込まれたらしい。宰相は五十代、侯爵家の当主である。長年前王を支えた忠臣であり、新国王陛下の治世が安定するまで慣れない国王を導く政治の要であった。新しい宰相はガルドゥーン公爵に決まったそうで、そこだけはユリアーネは意外に思った。王妃様の実家はファラー公爵家の縁者のアショフ侯爵家と聞いていたからである。


 テオドールの立太子は発表されたものの正式には喪が明けた一年後になるらしい。

 それよりも夜会に出席したグラッぺ夫人が声高に言ったのはテオドールがガルドゥーン公爵令嬢のイゾルテをパートナーとして入場したことだった。


「べったりと寄り添ってまるで婚約者同士のようでしたわ。テオドール殿下の婚約者はユリアーネ様ですのに! テオドール殿下もガルドゥーン公爵令嬢もはしたのうございますわ!」


 憤懣やるかたない様子でグラッぺ夫人が話す。ユリアーネはつい笑ってしまった。


「ユリアーネ様、笑い事ではございませんわ!」


(グラッぺ夫人も案外感情的だしちょっと口も悪いわよね)

 なにしろユリアーネの淑女教育を行ってきたのは実質グラッぺ夫人なのだ。グラッぺ夫人は常々言っていた。『淑女は感情を露にしてはいけない。 殿方の言葉には素直に従いなさい。 常に慈愛の微笑みを』と。

 でもユリアーネは、グラッぺ夫人がそれらをかなぐり捨ててユリアーネの為に怒ってくれたことが嬉しかった。


 さて、とユリアーネは考える。夜会に仲睦まじく登場したのだから貴族たちはテオドールとイゾルテが新たに婚約を結ぶものと考えるのではないか。ユリアーネとテオドールの婚約は三年前に結ばれ貴族に周知されたが、二人とも未成年だったため夜会でのお披露目はまだである。式典の時には隣同士に並んでいたから遠目には目にした者も多いと思う。

 でも三年前のあのお茶会以来、テオドールとユリアーネは上手くいっていないという噂が絶えず流れているのをユリアーネは知っていた。


(正直、早く婚約解消してもらってテオドール殿下とあのボンキュッボンがくっついてくれてもいいんだけど)

 この三年で大いに成長したイゾルテの胸を見てユリアーネは心の中でイゾルテの事をボンキュッボンと呼んでいる。残念ながらユリアーネの胸は未だ発展途上だ。


 婚約が解消されることは正直構わない。ただ心に残るのは前王陛下との最後になってしまった会話だった。

 あの時前王陛下は「テオドールを頼む。あれが立派な王になるようにそなたに支えてもらいたい」と言った。それに対してユリアーネは返事を返すことが出来なかったのだ。それが罪悪感のようにユリアーネの心に居座っていた。

 今までは意地になっていたけど、もう少しテオドールに歩み寄っても良かったのではないか? と思い始めていたところだったのだ。テオドールと結婚することに今までは現実感が無かったが、結婚するのならばもう少し友好的に、愛するまではいかなくても信頼関係を築いた方がいいだろう。(少し話しかけてみようかしら。けんか腰でなく、うん、あくまで友好的に)と考えていたのだ。





 それから数日後、この日は定例のテオドールとのお茶会である。

 イゾルテがテオドールのパートナーとして夜会に出席した以上、近いうちに婚約解消の話が出るのではないかと思っていたが、特に何の知らせもなくユリアーネはいつも通りテオドールとのお茶会会場であるサロンに向かっていた。


(友好的に、にこやかによ、ユリアーネ。頭にくることがあっても絶対に怒らないこと)

 自分に言い聞かせながらサロンに着くといつものようにテオドールがソファーに座っているのが見えた。

 婚約した三年前からお茶会の時は必ずテオドールは先に来てユリアーネを待っている。終始無言でユリアーネを睨んでいるだけなのだが、お茶会を欠席したこともない。そういうところは真面目らしい。


「お待たせいたして申し訳ありません、テオドール殿下」


 ユリアーネが挨拶してそう詫びるとテオドールは「まだ時間前だ」とだけ言ってそっぽを向いた。

 それからしばらくは無言でお茶を飲みお菓子を食べる。


(さあ、ユリアーネ、話しかけるのよ!)


 深呼吸をしてユリアーネは口を開いた。


「テオドール殿下、今日はお天気がいいですわね」

「ああ」

「あともう少ししたら暑くなりますけど今が一番いい季節ですね」

「ああ」

「……」


(馬鹿ユリアーネ! 天気以外の話題はないの?)

 必死に探すけれどユリアーネはテオドールの趣味も知らない。好きな物もわからない。ついでに成人前なので社交界の話題もわからないし、王宮から出たこともないので王都の流行も知らない。同じ年頃の令嬢とは最初のお茶会以来交流がない。


「……るか?」

「え?」


 必死になって話題を探していたらテオドールの言葉を聞き逃した。まじまじとテオドールの顔を見る。


「だから! 偶には庭でも散策するかと言ったんだ」

「……それは二人で?」

「嫌なら僕は部屋に戻る!」


 真っ赤になってテオドールが立ち上がる。

 ユリアーネも急いで立ち上がった。


「いえ嬉しいですわ、テオドール殿下。是非ご一緒させてくださいませ」








「まあ! 可愛らしい! ピンクや白、紫など色々な色があるのですね」

「それはシャクヤクだ」

「あちらの花は?」

「あれはゼラニウム」

「あら、こちらは薔薇が沢山咲いておりますわ」

「クク……薔薇は分かるのか」


(うん、いいよユリアーネ。テオドール殿下との会話が続いてるわ)

 二人で歩く初夏の庭園は気持ちよかった。

 テオドールもユリアーネを睨むことなく淡々と花の名前などを教えてくれる。


「テオドール殿下、殿下は何色の薔薇が―—」


 二人で薔薇のアーチをくぐりながらユリアーネが隣のテオドールを見上げた時だった。


「まあ殿下、こちらにいらしたのですか」


 二人の男性と共に近寄ってきたのはイゾルテだった。


「殿下、御歓談中失礼いたします」


 一人の男性がテオドールに耳打ちをする。


「そうか、わかった」


 頷いたテオドールはユリアーネに向き合った。


「急用が出来た、今日はこれで失礼する」

「え? ガルドゥーン様と?」


 思わずつぶやいてしまったユリアーネを見てイゾルテが優越感に満ちた笑みを向けた。


「別にイゾルテ嬢とという訳ではない。仕事だ」

「ごめんなさいねヴァルツァー様。成人前のあなたと違ってテオドール殿下はお忙しいのです。偶にしか殿下に会えないヴァルツァー様にはお気の毒ですけどテオドール殿下をお返しくださいませ」


 テオドールは仕事だと言ったがユリアーネはイゾルテの言い方にカチンときた。仕事の話ならどうしてイゾルテが迎えに来るのだ? テオドールを返せってどうしてイゾルテのもののような言い方をされなくちゃいけない?


 ユリアーネはイゾルテを無視してテオドールの方を向いた。


「お仕事にガルドゥーン様が関係あるのですか? それに先日の夜会でガルドゥーン様をパートナーにしたと伺いましたわ。テオドール殿下がそのおつもりならば―—」

「仕事だと言っただろう!」


 テオドールがイゾルテに好意を持っているならば婚約を見直してもらって構わない。そう告げようとしたユリアーネの言葉はテオドールに遮られた。


「イゾルテ嬢は僕の秘書になったんだ。だから夜会も成人前の君の代わりにパートナーとして出席した、それだけだ。僕が一人で出席すると女性に群がられて身動きできなくなるからね、イゾルテ嬢が防波堤になってくれたんだ。それは君の為でもあるだろう? わかったら妙な嫉妬は止めてくれ!」


 そう言い捨ててテオドールはイゾルテと二人の男性と足早に去って行った。


(別に嫉妬なんてしていないのに。そしてやっぱり女性はみんな自分の事が好きだと思っているのね)

 ユリアーネは肩をすくめた。


 



次話予告『みみっちい意地悪をされるユリアーネ』です。

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