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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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55/67

55、大混乱の夜会Ⅱ~悲劇はまだ終わらない

短いです。

人を害するシーンがあります。苦手な人はご注意ください。


「すまぬ、間に合わなかった……」


 アルベルトがベアトリクスに頭を下げた。

 先ほどまでの喧騒が嘘のようにホールは静まり返っていた。いや、そこかしこですすり泣く声や、うめき声が聞こえる。

 アルベルトはまだやることがある。


「怪我人の応急処置を急げ! 宮廷医は来たか? 重篤な者から宮廷医の指示に従って運ぶように!」


 騎士はほとんどの者が傷を負っているが、比較的軽症の者と衛兵が協力して怪我人の応急処置にあたっている。

 それをひと通り確かめるとアルベルトはホールの奥、国王たちのいる方に足を進めた。


 


 そのあたりでも怪我人の手当てが行われている。

 ホール最奥の一段高い場所に呆けたように座りこむ国王とソフィー王妃。

 その前に横たわる一人の男が見えた。

 右を見るとテオドールは側近たちと怪我人の手当てをしたり気絶してしまった夫人や令嬢を運び出すように指示を出したり忙しく立ち働いている。その傍でズタボロのドレス姿のユリアーネとヘレーネもキビキビと動いている。

 左はヴァルツァー辺境伯夫妻とディルクが同じように働いている。シュテファンは傷の手当の為に自分で歩いて医務室に向かったそうである。

 この付近で一番重傷だったのは王族を守る護衛騎士たちだ。ブラッドウルフの傍で倒れ伏していた白の騎士二名が一番重傷だったが気絶していたものの命は取り留めたようでアルベルトはホッと胸を撫でおろした。

 もしアイベルクが師団長だった頃の白の騎士団だったら王族もろとも全滅していたことだろう。人員の入れ替えを行い、白の騎士たちを鍛えなおした新白の師団長エーミール・コッペのおかげである。彼も怪我を負って先ほど医務室に運ばれて行った。


 バタバタと走り寄る足音が聞こえてアルベルトは振り返った。

 髪を振り乱したイゾルテが立ちすくんで壇上を見ていた。逃げる時に転んだのだろうか、額には血が滲んでいる。


「え? お父様?」


 呆然としているイゾルテにヴァルツァー辺境伯が近づいた。


「イゾルテ嬢、ガルドゥーン公爵は王妃殿下を庇って魔獣の爪に引き裂かれたのだ。お悔やみ申し上げる」

「は? え? 嘘ですわよね」


 イゾルテは壇上に横たえられているガルドゥーン公爵に一歩、また一歩と近づく。

 いつも綺麗に整えられていた髪は乱れ、ドレスもあちこちが汚れている。額に血をにじませながら幽鬼のように近づくイゾルテに気圧されてソフィー王妃はガルドゥーン公爵の傍から立ち上がると後ずさった。


「お父様……そんな……」


 突如イゾルテはキッと顔を上げるとソフィー王妃を見据えた。


「あなたの! あなたのせいよ! あなたがお父様をおかしくして殺したのよっ!」

「イゾルテちゃん、そんなこと——」

「気持ち悪い呼び方しないでくださる? 前々から気持ち悪いと思っていたのよっ。お父様も馬鹿だわ、こんな女を庇って死ぬなんて。お父様が感じていた愛情なんてまやかしじゃない。この女が盛った薬のせいじゃない。なのにこんな女を庇うなんて……庇って死んじゃうなんて……」


 イゾルテはその場で泣き崩れた。

 ソフィー王妃はそれをただ立って眺めていた。慰めるでも謝るでもなくただ立って。国王はどうしていいかわからないというようにガルドゥーン公爵の傍でへたり込んだままだ。


「イゾルテ様、怪我の手当てをしてもらいましょう。まずは手当てをして落ち着いて、それからです」


 ユリアーネはイゾルテの肩にそっと触れるとイゾルテを立ち上がらせる。ヘレーネが「私が」と言ってイゾルテに付き添いホールから出ていった。


「な、何よ、何よみんなして! 私が悪いんじゃないわ! あんな恐ろしい化け物を引き入れたのはファラー公爵じゃないっ! 私の所為じゃないわ!」


 ユリアーネはソフィー王妃の前に立った。


「魔獣を引き入れたのは王妃殿下ではありません。横領をしたのも子供を誘拐したのも王妃殿下ではありません。でも……でも……一発殴っていいですか?」


 一発どころではユリアーネの気は収まりそうにない。何発殴っても収まりそうにない。ユリアーネよりこの王妃に腹が立っている人はたくさんいるだろう。でもユリアーネは全てを人の所為にする目の前の王妃をとりあえず一発殴りたかった。


「な、殴るならファラー公爵でしょう? 私は被害者だわ」


 必死に言い訳するソフィー王妃にアルベルトが告げた。


「ファラー公爵は亡くなった。満足か? 王妃殿下」

「満足かって……私は別に……」


「クククク……ハハハハハ……」


 笑い声が聞こえてここに居た全ての人間がその人物を見た。

 テオドールは目を見開いて傍らにいた側近、ハンネスを凝視する。この場に相応しくない笑い声だというだけでない、ハンネスが声を上げて笑うところなど見たことが無かったのだ。その向こうでもう一人の側近、エグモントがポカンと口を開けている。


「クククク……実に愉快だ。こんなことをしでかしてあの人はあっさり死んでしまったのか」


 ハンネスはゆっくりと歩き出した。テオドールの傍らから壇上に向かって。笑い声は収まらない。


「ハハハ、この女は生きているというのに。傷一つ負わずピンピンしているというのに。こんな騒ぎを引き起こした挙句、あの人はあっさり死んでしまったというのか」


 笑いながら歩きながら運ばれた騎士が落としたものだろうか、床に転がっていた剣を何気なく拾い上げるとハンネスはソフィー王妃に近づきスッと剣を突き出した。


 本当に何気なく。殺意も憎悪も感じさせず、その剣はソフィー王妃の腹に呑み込まれた。


「え?」


 自身の腹から生えているものが信じられずソフィー王妃はそれをじっと眺めた。


「ハハハほら、こんなに簡単だ。あの人は考え過ぎなんだ、最初からこうしていれば良かったんだ」


「ゴフッ」


 口の端から血を流すとソフィー王妃は国王に二歩ほど歩み寄った。


「エド、助けて……痛いの……エド……」


 誰もが固まったように動けなかった。

 王妃の近くにいたユリアーネもまさかハンネスがソフィー王妃を刺すなんて思いもよらなかった。人を刺すには相応の力が要る。それなのにハンネスはそれを感じさせずごく自然な動作でソフィー王妃を刺したのだ。


「ソフィー!! ああソフィー死なないでくれ!」


 ソフィー王妃に駆け寄り抱き留める国王の叫びで呪縛から解けたように皆が動き出した。


「ハハハ……アハハハハ……ああ愉快だ。こんなに簡単な事なのに」


 アルベルトに捕らえられ床に組み伏せられてもハンネスは笑っていた。





次話予告『それぞれの処遇』です。

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