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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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41/67

41、喉元過ぎれば熱さを忘れるユリアーネ


「私にも覚えがございます。お話してもよろしいでしょうか」


 突然のハーバーの発言に皆が注目する。


 ハーバーは一人部屋の隅に控えていたのだ。アルベルトがハーバーも楽にしていいぞと椅子を勧めてもハーバーは断って壁際に控えている。壁と一体化できる特技があるようで、ハーバーは存在感無くそこに控えている。テオドールがやってくる時は秘密を要する話が多いため、使用人はハーバーだけだ。ユリアーネも従者であるが、ゴリアスがユリアーネだと打ち明けて以来、ハーバーは他の人の目がないところではユリアーネを令嬢として扱っていた。


「もう二十年以上前になります。マルティン・プラール伯爵令息、ニクラウス・アイベルク伯爵令息、モーリッツ・フラン・バッヘム侯爵令息は国王陛下、当時は王太子であったエドヴィン殿下の側近です。いえ、でした。ヨアヒム・ヴァッサ・ガルドゥーン公爵令息もエドヴィン殿下と親しくしておりましたな」


 ハーバーは伯爵家の三男でアルベルトが幼い頃はアルベルトの従者をしていた。アルベルトがこの国を離れる時に王宮を辞し、他の貴族のお屋敷で執事をしていたらしいが、アルベルトが帰国すると直ぐにはせ参じ執事長となったのだ。アルベルトを幼いころからよく知る、アルベルトがこの国で最も信用している人の一人だ。


「父上の側近だった? 僕は聞いたことがない……」


 テオドールが呟いた。と同時にユリアーネも不意に言葉がこぼれてしまった。


「あ……婚約破棄」

「そうです。ゴリアスは聞いていましたか」


 ハーバーがユリアーネを見て頷いた。


「私はしがない伯爵家の三男でしたから詳しい事は存じません。ただ、エドヴィン王太子殿下が婚約者のフリーデリーケ・エア・ファラー公爵令嬢を捨てて男爵家のご令嬢を婚約者にしたと当時は物凄い噂でした。その事で国王陛下がご立腹なされエドヴィン殿下は謹慎、側近の方々は全員首になったと聞いておりましたが……今この時に再びその方々のお名前を聞くとは思っておりませんでした」

「父上が……婚約破棄? 男爵令嬢と婚約? 母上はアショフ侯爵家の出では……」


 テオドールは思い当たったようだ。ソフィー王妃の振る舞いがとても高位貴族の令嬢として育ってきたものではないことを。ユリアーネとてそれは同じだが、辺境はまた事情が異なる。それにユリアーネは努力して優雅な立ち居振る舞いと言うものを身に着けた。今はそれはお休み中であるが。

 テオドールは何も聞いていなかった。寧ろ周囲の者がソフィー王妃の出身の事は耳に入れないようにしていた。でもテオドールは成長するにつれ疑問に思っていたのだ。ソフィー王妃の振る舞いはテオドールが知っているどの令嬢のものとも違っていたから。


「とすると、前国王陛下亡き後、側近だった者をまた呼び寄せたのですか」

「お茶会の本当の主催者は国王陛下なのか?」

「どうしてお茶会なんでしょう?」

「ソフィー王妃のお茶会という形を取った方が人目を引きにくいからじゃないですか?」


 シュテファン、ドミニク、ディルクが話し合っている。一番言葉使いがラフなのが一番身分の低いディルクなのだが、三人とも気にした様子はなかった。


「いや、あの場の主役は間違いなくソフィー王妃だった」


 三人は一斉にアルベルトを見た。


「俺はやはりソフィー王妃の意向でお茶会が開かれているのだと思う。兄上はそれを容認、いやむしろ応援しているのだろう」


「婚約破棄の詳細を知りたいですね」


 シュテファンが言うと「それは私が調べましょう」とドミニクが言った。


「当時、私は成人前でした。でもうっすらと記憶に残っています。私の妻は伯爵家の出身ですからそちらからも調べられると思いますし」

「私もそれとなくあたってみましょう」とシュテファンも同意した。


 ユリアーネはほんの概要だけど婚約破棄の事は知っていた。グラッぺ夫人がユリアーネの元を去るときに教えてくれたからだ。グラッぺ夫人は去り際にこうも言っていた。

『ユリアーネ様、十分お気を付けあそばしてください。ソフィー様は見た目通りの単純な方ではございません』


 それでもユリアーネは今までソフィー王妃の事をそんなに気にしていなかった。王宮生活でユリアーネに意地悪だったのはイゾルテだ。それと筆頭で一発殴りたかったのは今現在目の前にいるテオドールだ。しかしテオドールの印象はここ最近でがらりと変わってしまった。大体、ユリアーネは一発殴れば大概の事はすっきりしてしまうし、のど元過ぎれば熱さを忘れてしまう性格である。

 今は憐憫の目でテオドールを見つめていた。両親の知らなかった面を、それもあまり歓迎できないような面を次々と晒されてテオドールはどんな気持ちなのだろう?


 テオドールはユリアーネの視線に気が付くとにっこりと笑った。僕は大丈夫だよ、というように。


「おい!」


 脇腹を小突かれてユリアーネは隣に座るディルクを見た。


「何?」

「絆されるなよ、お前はチョロいんだから」

「何? 意味わかんないんだけど」


 ディルクと小声で会話する。ユリアーネはむくれた。

(絆されるって何? ディルクはテオドール殿下の事気の毒には思わないの?)

 ディルクを軽く睨むとディルクは小声でぽそっと言った。


「親は選べねえからな。でも奴は成人した男だ、自分の行動も自分の価値も自分で決めることが出来る。辛いことも自分で乗り越えて糧にしてこそ男だ」 













 季節は冬から春の息吹が感じられるようになってきていた。


 六人に増えた会合はこの冬の間に二回ほど開かれていた。今日は三回目の会合である。メンバーは業務が終わった夕刻に密かにアルベルトの屋敷に集まって来た。


 アルベルトはあの後ソフィー王妃のお茶会に数回招かれていたが、多忙を理由に断っている。実際、この冬は忙しかった。スラムの家は朽ちたり壊れたり隙間風が酷い。雪は降っても積もらない王都の気候がわずかな救いだった。緑の騎士たちや西の行政支所のコーマック達の手を借りてそれらの修繕をしたり、孤児院の様子を窺いに行ったり。

 白の師団長は黒の師団長のエーミール・コッペが就任し、ディルクが黒の師団長に就任した。緑のビゼンデル師団長は自分が白の師団長になりたかったらしく、しばらくアルベルトに付きまとい、アルベルトもユリアーネも辟易した。その白の騎士団は案の定騎士たちの実力が足りないらしく、エーミールはまとめ上げ鍛えなおすのに四苦八苦している。全てが伯爵家以上の出身である白の騎士たちはプライドも高く、エーミールが子爵家出身であるために素直に命令を聞かない者もいるため、アルベルトが何かとフォローしないとならないのが現状だった。

 通常業務も忙しく、冬は魔獣の出現は少ないが、食い詰めた者たちが盗みを働いたり、王都の治安は悪くなる。街路の人通りが少なくなるので追いはぎや恐喝などの防止のために王都の見回りも徹底しなければならなかった。

 アルベルトの手伝いでユリアーネもあちらこちらに忙しく飛び回った。


 二十数年前の婚約破棄騒動についての詳細は判明し、今回の会合で報告された。

 テオドールは吹っ切ったように落ち着いた態度でその報告を聞いていた。


 ドミニクは少し気遣ったようにテオドールを見た後、テオドールが頷くのを見て話しだした。


「婚約破棄の舞台となったのはバッヘム侯爵家の夜会です。比較的年齢層の低い、つまり若者たち主体の夜会で、バッヘム侯爵も出席しておらず、低位貴族も多く招かれた自由な雰囲気の夜会だったそうです。フリーデリーケ・エア・ファラー公爵令嬢は普段はこういったフランクな夜会には出席していなかったそうですが、当時の王太子殿下、エドヴィン陛下に呼び出されたとファラー公爵家のメイドの証言があります。当時、エドヴィン殿下と側近の方々は男爵令嬢のソフィー様とかなり密接な関係にあり、王宮中の噂の的でした。ファラー公爵令嬢は蔑ろにされており、ファラー公爵令嬢がソフィー様に嫌がらせを行っているとの噂もあったようです。エドヴィン殿下は公式な夜会以外はソフィー様を伴っており、バッヘム侯爵の夜会では久々にエドヴィン殿下からお召があったと言ってファラー公爵令嬢は嬉々として出かけて行ったそうです」

「喜んで出かけた夜会で婚約破棄をされたのか? 衆人環視の中で」


 アルベルトは少し怒っている口調で言った。


「はい。エドヴィン殿下はファラー公爵令嬢を衆人環視の中で呼びつけ、ソフィー様を苛めたと責め、婚約破棄を宣言いたしました」


次話予告『二十年以上前の婚約破棄』です。

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