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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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40/67

40、青ざめるテオドール


 その日の夕刻、アルベルトのお屋敷には四人の人間が集まって来ていた。

 テオドール、シュテファン、ドミニク、ディルクの四人だ。ユリアーネはサロンに集まった彼らに紅茶を入れると順に置いていく。


「ありがとう。ゴリアスが入れてくれる紅茶はいつも美味しいよ」


 テオドールに甘い顔でお礼を言われてユリアーネは戸惑いつつも「どういたしまして」と返した。

 テオドールとの関係はユリアーネとして接していた頃と比べると雲泥の差だ。それも最近は特に甘い顔をテオドールが向けてくる。もしやテオドールはボンキュッボンに騙されていた反動でいけない扉を開いてしまったのではないかと少々心配なユリアーネである。


 紅茶を配り終えるとユリアーネは末席であるディルクの隣に座った。


「ゴリアス、こっちに……いや何でもない」


 テオドールがそれを見て何か言いかけたが、結局は口をつぐんだ。


「王妃殿下のお茶会とは……私は初めて聞きました」


 シュテファンの言葉に頷いてアルベルトが話し始めた。


「王妃殿下のお茶会はここ二年くらい定期的に開かれている。俺もテオドールに聞くまで知らなかったのだがな。メンバーは国王陛下、宰相ガルドゥーン公爵、マルティン・ロンメル男爵、白の師団長ニクラウス・アイベルク伯爵、それと財務庁第一部長官モーリッツ・ベルク子爵」

「なんと!! 渦中の人物ばかりではないですか!」


 シュテファンは目を丸くした後に「すみません」とテオドールに向かって頭を下げた。


「いや、謝らなくていい」


 そう言った後、テオドールは皆を見回し、瞳に決意を込めて言った。


「子供を攫い奴隷として他国に売っていたロンメル男爵、母上とお忍びで王都に出かけ魔獣と遭遇したばかりでなく何者かに襲われて重傷を負ったアイベルク師団長、ガルドゥーン公爵とモーリッツ・ベルク子爵は現在我々が横領の疑いを掛けている人物だ。母上のお茶会にこれらの人物が集まるなど、偶然とは思えない。母上のお茶会には何かある、それは僕も確信している。だから僕に遠慮などせず、思ったことを言って欲しい。僕はここでのことを母上にも父上にも話さないし、もし父上や母上が悪事を働いていたならば、王太子として糾弾する覚悟だ」


 テオドールの決意に皆黙って頭を下げた。

 周囲にちやほやされて傲慢に育った。物事を一方からしか見ることが出来ず、偏った判断をしたことも多い。それでもテオドールは真面目に教育に取り組み、執務に取り組み、王太子としての責務を果たそうと頑張って来た。そして今、間違ったことをしたのなら自身の両親も断罪すると言ったのだ。ただの両親ではない、この国の国王と王妃だ。その両名を王太子であるテオドールが断罪する、それは国を揺るがす決意である。


 ユリアーネはふと前国王陛下との最後のお茶会を思い出した。


『テオドールは勤勉だ。あれは自分の責務をわかっておる。努力もしておる。しかしな、あれの環境が悪すぎる』と前国王陛下は言った。『わしはな、そなたにあれの鼻っ柱をへし折ってもらいたかったんじゃ』とも。そしてユリアーネは頼まれたのだ『テオドールを頼む。あれが立派な王になるようにそなたに支えてもらいたい』


(前国王陛下、私には無理だったけどテオドール殿下はちゃんと自分で学習しました。傲慢なテオドール殿下はもういません。それに私じゃなくてもアル団長をはじめここに居る人たちがテオドール殿下を支えてくれると思います。だから安心してください)


 ユリアーネが前国王陛下に心の中で話しかけている間に、アルベルトの話が始まっていた。


「お茶会のメンバーは先ほど言った通りだが、当然、ロンメル男爵とアイベルクはいない。王妃殿下はメンバーが減ってしまって寂しいので俺を呼んだと言っていた」

「そもそもお茶会のメンバーはどういう基準で選ばれるのでしょう」


 シュテファンが質問したが「先にお茶会の様子を聞こう」とテオドールに言われ頷いた。


「なんというか……奇妙なお茶会だった」


 アルベルトが話を続ける。


「いや、俺はお茶会なんぞに出たことはないからな、普通のお茶会がどんなものかわからん。だが、お茶会とは令嬢や夫人が集まってキャッキャと話をしたり甘いものを食べたりするんだろう? 大の男、それも俺よりも年上のおっさんばかり集まって王妃殿下を褒めたたえるんだ。酒など一滴も入っていないのにあそこまで褒め言葉を並べることができるなど……異様だったぞ」


 アルベルトがしかめっ面をする。


「女性は母上だけですか。そして皆で母上を褒めたたえる?」

「ああ。紅茶を飲んで王妃殿下の手作りのクッキーを食べながらな」


 瞬間、アルベルトの表情が少し変わったが、気づくものはいなかった。続けてテオドールが質問する。


「母上の手作り? そんな事聞いたこともないが……それより叔父上、ガルドゥーン公爵やベルク子爵が母上を褒めたたえてそれを父上はどんな顔で聞いているんですか?」

「ああ、ニコニコしながら聞いていたぞ。俺は兄上は嫉妬などしないのだろうかと不思議だったが……そうか……そのこともあれが……」


 アルベルトの言葉の後半はとても小さな呟きだったので誰も聞き取ることが出来なかった。ユリアーネを除いて。しかしユリアーネは聞き取れてもアルベルトの言葉の意味がわからなかった。それよりもユリアーネは気になっていることがある。昨夜のアルベルトの様子だ。しかしこの場で口にしていいものかと躊躇っていた。


「横領を匂わせる会話や、ロンメル男爵の悪事を知っていたようなそぶりはなかったのですか?」


 シュテファンの質問にアルベルトは考えながら答えた。


「明確な言葉は出なかった。もちろん俺という部外者がいたのだから当たり前だろう。それに……」


 躊躇ったのちにアルベルトは話す事にした。


「俺は途中で気分が悪くなり、早々に退席したからな、その後で彼らがどんな話をしていたかはわからん」

「叔父上が?」

「「アル団長が?」」


 テオドールとドミニク、ディルクの声が被った。それだけ異様な事なのだ。ユリアーネも昨日のアルベルトを見ていなかったら一緒に声を上げていただろう。


「叔父上……まさか毒が?」


 テオドールが震える声で言う。アルベルトに毒が盛られたとしたら一番怪しいのはソフィー王妃だ。


「いや、毒ではない。毒ではないが……」


 アルベルトの答えは煮え切らない。


「俺は出来るだけ普段と変わらないふりを続けていたのだが王妃殿下が心配して王宮に泊まって行けとしつこかった。俺はそれを振り切って帰って来たのだが……」

「やはり毒ではなくても何らかの薬を飲まされていたのではないですか?」


 シュテファンが聞くとテオドールは先ほどの自らの言葉を否定する話をした。


「しかし……王族が食べる飲み物、飲み物は全て毒見をされる筈。それは母上手作りのものであっても変わりません。僕には手作りの菓子などがよく届くのですが、僕の元に届けられるのは三分の一以下です」

「は? テオドール殿下は毒を盛られる危険があるのですか?」


 反応したのはディルクだ。苦笑してテオドールは返した。


「毒……はないんだけどね。まじないとやらの紙の切れ端とか、髪の毛、巷で売られている怪しげな媚薬とかもあったな」


 皆、うげっという顔をしたがディルクだけは青い顔だ。


「俺……差し入れとかで貰う菓子は全部同僚に配っちまった……」

「まあ……紙や髪の毛などの異物混入は直ぐに気が着くし、媚薬入りのクッキーも毒見係が腹を壊しただけだったから」


 慰めにもならない言葉をテオドールがディルクにかけた。


「もてる男は大変だな」とアルベルトが言うと全員微妙な顔をする。アルベルトも令嬢に人気があるのだ。ただし、王弟という身分の高さ、三十代半ばという大人であること、騎士団の総団長であるという硬派なイメージで近づけないだけなのだ。


 コホンと咳払いをしてシュテファンが話を元に戻した。最愛の婚約者と結婚したばかりのシュテファンは贈り物の類は身内以外は断ることにしている。


「グラッツェル侯爵は、お茶会で出されたものの中に何かが混入されていたと考えていますか?」


「アルベルトでいいぞ」と前置きしてからアルベルトは答えた。と言っても明確な答えではない。


「それについては今は保留にしてくれ。一つ考えていることがある。俺の予想が当たれば今回の俺の体調不良も納得がいくし、お茶会に出ていた彼らの異様さも納得がいく。しかし……信じられないのだ。それが本当なら……いや、やめておこう。推測で話すべきではない」

「いつまでですか?」

「今、あるところに手紙を出している。それの返事が来たらはっきりする」

「わかりました」


 シュテファンが了承の意を示し、一同も頷く。テオドールは終始青ざめていた。


 ユリアーネは彼を気の毒に思う。もし、自分の父様や母様が犯罪を犯した疑いがあるとして自分はそれを糾弾できるだろうか?


(絶対に無理。それなら私は父様と母様とクリストフを連れて逃げる!)


 もちろん辺境で育った自分と王家とは親子の形は違う。国王陛下とソフィー王妃は王太子妃夫妻だった頃からよそよそしかった。それはユリアーネにだけでテオドールとは親密な親子関係を築いていたのかもしれないが、なんとなく違うような気がした。本当の意味でテオドールの事を案じていたのは亡き前国王陛下だけかもしれない。ユリアーネも王宮で孤独だったがテオドールも実は孤独なのではないだろうか。


「お茶会のメンバーの共通点ですが」


 今まで黙って話を聞いていたドミニクが声を上げた。


「確か、ロンメル男爵は元はプラール伯爵家の出身でしたね。アイベルクも伯爵家、ガルドゥーン公爵はもちろん公爵家、そうするとベルク子爵だけが下級貴族という事ですか?」

「ああ、ドミニク副団長は知らないかな。ベルク子爵は婿養子で生家はバッヘム侯爵家だよ」


 シュテファンが説明する。ドミニクはシュテファンとの会合の際、レストランの外で警護をしていたので話を聞いていないのだ。


「プラール伯爵家、アイベルク伯爵家、バッヘム侯爵家……その名前に聞き覚えがあるのですが思い出せなくて……」


 ドミニクが眉間を揉んで考えていると壁際に一人静かに控えていたハーバーが進み出た。


「私にも覚えがございます。お話ししてもよろしいでしょうか」


 

次話予告『喉元過ぎれば熱さを忘れるユリアーネ』です。

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