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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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31/67

31、テオドールを見直すユリアーネ


「そろそろ休暇を取ってください。総団長が休まないと部下も休みづらいですから」


 ドミニクにそう言われてアルベルトは今日は休暇である。


「ゴリアスも休みだ。街に遊びに行ってものんびり過ごしてもいいぞ」


 アルベルトにそう言われたがユリアーネは取り立てて行きたいところもない。お屋敷の図書室から本を借りてきて読書でもするかと廊下を歩いていた。

 それにしてもなんか周囲が慌ただしい。早足で歩くメイドの一人を捕まえて聞いてみた。


「先ほど先触れが来て王太子殿下がこれから見えられるそうですよ。ああ! この目で麗しの王太子様を見ることが出来るなんて!!」


 忙しそうだが嬉しそうに顔を赤らめてメイドが答える。

(テオドール殿下が?)ゲッと思いながらユリアーネは部屋に閉じこもっていようと足を早めた。









「叔父上、今日はゴリアスは?」


 応接室に落ち着いて早速テオドールはアルベルトに訊ねた。


「ん? なんだ? ゴリアスなら今日は休暇だが、あいつに用事があるのか?」


 アルベルトに告げられてテオドールは落胆した顔をした。


「いえ、あの夜会会場に彼もいたので彼からも話を聞きたいと思ったのですが」

「そうか、そういう事ならあいつも呼ぶか。ゴリアスは出かけたか?」


 アルベルトが部屋の隅に控えた執事長のハーバーに聞くと「いえ、部屋にいると思います」と答えが返って来た。「呼んできてくれ」と指示を出し、アルベルトは児童誘拐事件の概要をテオドールに話し始めた。






(ああ、外出していれば良かった……)

 うだうだと後悔しながらユリアーネは応接室の扉をノックした。


 中から「入れ」と声が聞こえ、一度息を吸い込んでから「失礼します」と入室する。


(ああ……やっぱりいた)


 テオドールに挨拶をしてアルベルトの後ろに立つ。


「いいから今日は俺の横に座れ」


 アルベルトに言われておずおずと隣に座った。


「ゴリアス、夜会ぶりだな」

「テ、テオドール殿下もお変わりなく」


 ユリアーネは引きつった笑みで言葉を返す。


「ゴリアスはテオドールと知り合いだったのか?」


 不思議そうなアルベルトの声にユリアーネはブンブンと首を横に振った。


「とんでもない! この前の夜会が初対面です!」

「そうか、まあいい、今テオドールにこの事件のあらましを説明していたところだ」


 さほど気にした風もなくアルベルトは話を進める。

 

「それでな、先日西地区の支所に行ってマルティン・ロンメルについて話を聞いてきたのだが……」


 初めてアルベルトは言い淀んだ。一旦は言葉を濁したが、テオドールの真剣な目を見て話を続けた。

 アルベルトが言い淀んだのはソフィー王妃がこの件に関係しているかもしれないという事だ。


「ロンメルが首謀者で間違いは無さそうですね、僕はここに来る前にマルティン・ロンメルについて調べてきたのですが」


 アルベルトの話を聞いた後、テオドールは口を開いた。


「プラール伯爵家の長男として生まれ、後にプラール伯爵の持っていた男爵位を貰ってロンメル男爵となった。前プラール伯爵の夫人はハイツマン公爵家の縁者でマルティン・ロンメルも風の魔術の保持者だった。魔力持ちで嫡男のマルティン・ロンメルがどうして家督を譲られなかったのか……それはまだ分かりませんが、マルティン・ロンメルは母と何らかの繋がりがあった。……そうでしょう?叔父上」


 テオドールの言葉にアルベルトは頷いた。


「ああ、全てではないにしてもマルティン・ロンメルは人身売買で得た金をソフィー王妃殿下に貢いでいたらしい。王妃殿下はロンメルの悪事を知っていたと思うか?」


 テオドールは考えながら口を開いた。


「母は……()()()()()なのでマルティン・ロンメルの裏の顔に気づいていたとは思えませんが……」


 テオドールの言葉にユリアーネは驚いた。五年前、初めて会った時、テオドールはソフィー王妃の事を無条件で信頼しているようだった。二年前、ソフィー王妃のお茶会に呼ばれた時もユリアーネがソフィー王妃を馬鹿にしたという言い分を一方的に信じていた。


 ユリアーネの呆気にとられた顔を見てテオドールが呟いた。


「そんな顔をしないでくれユリアーネ……僕だって少しは成長したんだ……」

「何だって?」


 よく聞こえなかったアルベルトが聞き返すとテオドールはハッと我に返り自嘲の笑みを浮かべながら言った。


「失礼、少し錯覚を起こしてしまって……その、僕の婚約者がいなくなっていろいろな事が明るみに出たんです。僕が無条件に信じていた人、よく調査もせず鵜呑みにしていたことが真実ではなかったことに気が付いて……僕は僕に助けを求めていた婚約者を蔑ろにしていたことに気が付いたんです。彼女には僕しかいなかったのに……僕が味方になってあげなくてはいけなかったのに……あ、いえ、コホン、それで、母の事も冷静な目で見たんです。母は……自分の事しか頭にない。自分が楽しければその背景は気にしません。ですからマルティン・ロンメルが身分に合わない高価な贈り物を母に贈っても疑問には思わないでしょう」


(ちょっと待って……私がいつテオドール殿下に助けを求めたの?)

 ユリアーネは今すぐテオドールに問いただしたかったがそんなことを言えるはずもない。不満を心の底に押し込めて僕には関係のない話ですとばかりに無表情を装った。時折、右の拳がピクッと動いたが左の手で押さえ込んだ。


 ユリアーネの心情などテオドールがわかる筈も無く話を続ける。


「僕が気になったのは、母のお茶会でロンメルの顔を見たことがあったような気がしたからです。僕も母の交友関係についてそれほど詳しい訳ではありませんが……」

「お茶会? 令嬢たちがよくするあのお茶会か?」


 騎士団のむくつけき騎士たちとの交流はもっぱら酒場で行っているアルベルトが変な顔をした。


「はい、貴族の御夫人たちとのお茶会も母はよく行っておりますが、それとは別に定期的に数名の男性を招いてお茶会を行っているのです。御夫人や令嬢とのお茶会には僕も顔を出すように言われますが、定期のお茶会には呼ばれたことがありません、父や宰相はよく参加しているようですが。偶々用事があってそのお茶会の場に出向いたことがあったのです。その時ロンメルの顔を見かけたような気がして」

「ふうむ……そう言えば西地区の副所長もマルティン・ロンメルが王妃殿下のお茶会に行ったと自慢していたと言っていたな。そのお茶会には他に誰がいたんだ?」

「それが……父に用事があったので父がいたことは覚えているのですが……」


 国王が同席していたのなら男性ばかりのお茶会と言っても疚しい事はないのだろう。しかしアルベルトはそのお茶会が気になった。


「メンバーを調べられるか?」

「任せてください」


 アルベルトの言葉にテオドールはしっかり頷いた。

 

「それでは僕はこれで。また近いうちに伺います、叔父上」


 テオドールが立ち上がる。王太子としての執務が立て込んでいるらしく、やっと午前中の数時間を捻出してやって来たらしい。


(テオドール殿下は本当に忙しいのね。王宮にいた時は忙しぶって私を避けているのかと思っていたわ)


「そう言えば、王太子殿下は側近の方を連れていらっしゃらないのですか?」


 ユリアーネが聞くとテオドールはなぜか顔を赤らめて答えた。


「あっああ。護衛は外で待たせているがな」


 そして余計な一言を言った。


「ゴリアスは声も可愛いな。まるで……いや、なんてもない」

「なっ!! 僕は変声期が遅くてっ。その内に野太い声になります!」


(危ない! 普通に話してしまっていたわ。私の声はそんなに高い方じゃないけど……気を付けなくちゃ)


 ユリアーネが焦っている傍らでテオドールは側近の事を考えていた。秘書のイゾルテはテオドールを見事に騙していた。そして……残りの二人も全面的に信用することが出来なくなったテオドールだった。誰かがテオドールに会いに来たユリアーネを追い返したのだ。そのほかにもいろいろと画策されていた可能性がある。なんとなくユリアーネを遠ざけるように誘導されていたような気がするのだ。だから今回は側近の二人を置いてきたのだった。


「叔父上、ユリアーネの捜索をよろしくお願いします」


 アルベルトに頼んでテオドールは帰って行った。








「調子狂う――!!」


 自室に帰ってベッドにダイブしてユリアーネは先ほどのテオドールを思い浮かべる。

 相変わらずユリアーネがテオドールの事を好き設定は健在なようだが、それを抜きにすればテオドールは穏やかで理知的で話しやすかった。臣籍降下したアルベルトに対して敬意の念を持って接し、従者であるゴリアスに対しても不遜な態度をとらなかった。

 王宮でユリアーネに対してしていた高飛車で意地悪で幼稚な態度とは雲泥の差だ。


(あんな風に接してくれていればいい友達になれたかもしれないのにー)


 あくまで()()で恋愛対象ではない。だってテオドールはユリアーネより弱いから。

 物理的に強いか弱いかで男性を測ってしまうあたり、ユリアーネはまだ恋を知らない。







次話予告『チョロ過ぎるユリアーネ』です。

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