表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/67

12、糾弾するユリアーネ


 ヘレーネと親しくなってユリアーネは毎日が少し楽しくなった。自室では心を許せる人はマルゴットしかおらず、メイドたちの嫌がらせは続いている。ユリアーネとマルゴットで未然に防いでいるので大事には至っていないが。

 自室以外は図書館くらいしか行くところを思いつかなかったが、そこに週一回程度、ヘレーネとのお茶会が加わった。ヘレーネは父親の侯爵や従兄妹のハイツマン公爵令息の用事で時折王宮に来ていたのだが、ユリアーネと友達になりユリアーネを訪ねてくるようになった。

 ヘレーネの紹介でハイツマン公爵令息、シュテファンとも知り合いになった。ヘレーネの言った通り、優し気な美丈夫だ。ただし、ユリアーネの感想は、弱そう、だった。

 シュテファンは財務庁第二部長官補佐という肩書を持っており、若手の有望株らしい。ユリアーネの五つ年上で大人の落ち着いた雰囲気は好感が持てた。ヘレーネの話では大恋愛の末、もうすぐ結婚するらしい。


 今までほとんど出なかった奥宮から出て本宮の図書館やカフェに出かけるようになってから時折テオドールを見かけるようになった。

 ほとんどの場合は背後に側近の男性二人を従え、横にはイゾルテがべったりとくっついている。

 そしてユリアーネがテオドールの存在に気づいたときには、なぜかいつもユリアーネを睨んでいる。いや、何故かということはないか。ユリアーネの事を嫌いだから睨んでいるのだ。嫌いなら見なければ良さそうなものだが、本当にいつも廊下の遠くで見かけた時もテオドールは先にユリアーネに気が付いていて睨んでいるのだ。


 その日、ユリアーネは偶然シュテファンと廊下で出会い、立ち話をしていた。


「いいご身分だな」


 突然聞こえた声に振り返るとつかつかとテオドールが近づいてくるところだった。


(あら珍しい)とユリアーネは目をパチクリさせた。廊下で出会って睨まれたことは数度あるが、テオドールと話をしたのは……そう、三か月ぶりだ。三か月前のテオドールの立太子の儀以来の会話である。




 前国王陛下の喪が明けた一週間後、テオドールの立太子の儀は行われた。

 その時ユリアーネはテオドールの婚約者として参加したのである。

 ヴァルツァー領からの誕生日プレゼントが届かなかったみたいに、着ようとしていたドレスが汚されたり破かれたりした時みたいに、メイドから何か嫌がらせをされるのではないかと心配したが、さすがにメイドたちも儀式で着るドレスを汚したり、故意に支度を遅らせたりして儀式に支障が出る訳に行かないと思ったのかユリアーネは普通に身支度を整えられ、送り出された。

 だから油断していた。儀式の最中に猛烈に眠くなったのだ。

(出がけに飲んだ紅茶だわ)と気づいたときには遅かった。何度も手をつねったり口の中を噛んだりして眠気を飛ばそうとしたのだが、結局、体調不良ということで儀式を途中で抜けざるを得なかった。代役はイゾルテがこなしたらしい。意識がもうろうとしながらユリアーネが聞いた言葉は、テオドールの「体調管理も出来ないとはな」という言葉だった。

  





「お久しぶりでございます。テオドール殿下」


 ユリアーネが挨拶をすると「ふん」という馬鹿にしたような声が聞こえた。


「僕が毎日公務で忙しい間に我が婚約者は男漁りをしているようだ」

「……シュテファン様とは先ほど偶然会っただけですわ」


(はあ? 公務か何か知らないけれどボンキュッボンとあんたの距離は仕事とは思えないほど近いじゃない! ちょっと立ち話したくらいでそんなこと言われる筋合い無いわ!)


 という内心を押し隠してユリアーネは穏やかに反論する。シュテファンも表面上はにこやかに返す。


「テオドール殿下、ユリアーネ嬢は我が従兄妹のヘレーネと親しくしていただいているので従兄妹をお願いしますとお話していただけなのです。そんなことを言ってはユリアーネ嬢がお可哀そうですよ」


 しかし、テオドールは忌々しそうに顔をゆがめると「僕の恥になるような行動は慎むことだな」と言って踵を返した。廊下の向こうで優越感に浸ったような笑みを浮かべているイゾルテに腹が立ったが、ユリアーネはシュテファンに「申し訳ありません」と頭を下げた。








 それからはユリアーネは慎重に行動するようになった。ユリアーネの知り合いの男性など以前王子妃教育に携わった教師か犬舎の世話係、シュテファンくらいしかいないのだが絶対に立ち話でさえも二人きりにならないようにした。テオドールの言うことを聞いているようでむかっ腹が立ったが、非難の口実を与えるのも嫌だった。

 そうして数か月が過ぎ―—




「その……ユリアーネ嬢、こういうことをしてもらっては困るのだが……」


 その日シュテファンに呼び出されたユリアーネは定番になった図書館の併設カフェでシュテファンと向かい合っている。もちろん誤解を招かないようにヘレーネにも同席してもらっている。


「何のことでしょうか?」


 ユリアーネが問い返すとシュテファンは困った顔のままテーブルの上に四角い小箱を置いた。


「開けて中身を見てしまったけれど、これは貴方にお返しするよ」


 ユリアーネは見覚えのない箱だ。シュテファンが小箱を開ける。


「まあ! なんて素敵なカフリンクスなんでしょう!」


 ヘレーネが感嘆の声を上げた。箱の中身は銀で精緻な模様が描かれたカフリンクスだ。中央には小ぶりではあるがサファイアが輝いている。


「あら? でもこのお色は……」


 ヘレーネが戸惑ったようにこの色はユリアーネの髪色と瞳の色だ。シュテファンが頷いてユリアーネに困惑の瞳を向ける。


「私はもうすぐ結婚する身だ。それにあなたにも婚約者がいるだろう? 誤解を招くようなことは―—」

「誤解です!」


 ユリアーネは急いで否定した。


「だから誤解を招くようなことは―—」

「ですから誤解ですわ。私はこれに見覚えがありません。私はシュテファン様に何も贈っておりません」

「いや、しかしこれは貴方の名前で私の元に届いたのだが」


 シュテファンは困惑しているがユリアーネも困惑している。シュテファンは人気があると聞いたのでシュテファンに贈り物をする令嬢もいるだろう。でもユリアーネの名前で贈っても何のメリットもないはずだ。


 結局、シュテファンとユリアーネで小箱を押し付け合った挙句、シュテファンが一時預かるということになった。







「お嬢様、紺色のドレスが見当たらないのですが」


 シュテファンに呼び出されてから半月後、マルゴットに言われてユリアーネは読んでいた本から顔を上げた。


「またなの?」


 最近物がよく無くなる。もちろんメイドたちの仕業だろう。何度か問い詰めたが、皆で口裏を合わせて知らないと突っぱねられる。この部屋に複数のメイドが出入りしている限り全ての物をユリアーネとマルゴットで管理するのは不可能だ。だから本当に大切な物だけ二人しかわからないところに隠してある。そのほかにも式典で着ける高価な宝飾品もあるがメイドたちはそれらには手を付けないようだ。


「もういい加減犯人を特定しましょうか」


 ユリアーネは罠を張ることにした。

 図書館に出かけるふりをしてこっそり部屋に戻り物陰に潜んでいると程なく二人のメイドが部屋に入ってきた。


「貴方たち、何をしているの?」


 メイドがユリアーネのドレスやネックレスを手に部屋を出ようとしたところで後ろから声を掛ける。


「あ……ユリアーネ様。これは……」


 青い顔でメイドたちが立ちすくむとユリアーネは廊下に待機していたマルゴットに声を掛けた。


「マルゴット、衛兵を呼んできてちょうだい」




 衛兵が来るまでメイドたちは黙ったまま怯えたように立っていた。


「これは何の騒ぎだ?」


 衛兵を呼んだつもりなのに余計なものまでくっついてきた。衛兵と共に現れたのはイゾルテとハンネス・ヴェーゼを伴ったテオドールだった。




 

次話予告『隔離されたユリアーネ』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ