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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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11、友達が出来たユリアーネ


 更に二か月が過ぎた。

 

 今日も今日とてユリアーネはマルゴットをお供に王宮の図書館に向かっている。

 王子妃教育は中断してしまった、お茶会などの社交もない。あり余った時間をユリアーネは図書館で過ごすことにした。辞めていった教師たちも学びを止めないで欲しいと言っていたし。


 一度街に出たいと言ったことがある。誰に言っていいのかわからなかったので王宮の警備をしている騎士に上の人に伝えてくださいと言ったら宰相の補佐官という人が飛んできた。

 ものすごーく迷惑そうな顔をして警備が……とか護衛に付ける騎士のスケジュールが……とかごちゃごちゃというので「もう結構ですわ」と願いを取り下げた。

 本当は護衛騎士などいらないのだけどそう言ってもまたごちゃごちゃと五月蠅そうなので街に出るのは諦めた。テオドールは視察や仕事でも王都の街や近隣の町に出かけるそうだし、王妃様は時々お忍びで街に遊びに出かけているようなのでその辺はどうなっているのかわからない。


 図書館に向かうべく、奥宮を出て本宮の廊下を歩いていると前方で何人かの令嬢が集まっているのが見えた。


「……様にご迷惑……!」

「……」

「……純情そうなふりをして……厚かましい……」

「相手にされない……ですわ!」

「……」


 どうやら四人の令嬢が一人の令嬢を取り囲み詰っているようである。

 ユリアーネは四人の令嬢の先頭に立っている令嬢に見覚えがあった。


「あら、あの藍鼠色の髪は……」


 間違いない、四年前のお茶会でユリアーネを馬鹿にしたイゾルテの取り巻きだ。四年の間に身長も顔かたちも多少は変わったがあの意地悪そうな眼とそばかすに見覚えがある。


(名前は何て言ったっけ? 思い出せないわ。心の中でずっと藍鼠って呼んでいたんですもの)

 そんなことを考えながらユリアーネは彼女たちに近づいた。


「皆さま、何をなさっているの?」


 ユリアーネが声を掛けると、詰っていた四人はキッとユリアーネの方を振り返り、ユリアーネだとわかると若干顔を青くした。


「まあ! ヴァルツァー様ですわね、お久しぶりでございます」

 

 藍鼠がお辞儀をすると他の三人もそれに習う。

 ユリアーネは藍鼠の名前を忘れてしまったのでただにっこりと微笑んだ。


「私たちはただ仲良くお話していただけですわ」

「それにしては少々声が大きゅうございましたわね。それにこのようなところで立ち話をしていては他の方にご迷惑になりますわ」


 ユリアーネの反論に藍鼠は悔しそうに唇を噛んだが、不意にニヤッと笑うとユリアーネに訊ねた。


「ヴァルツァー様はどうしてこちらに? テオドール殿下の執務室とは方向違いですわ」

「……図書館に行く途中ですわ」

「ヴァルツァー様は随分お暇なんですわねぇ。イゾルテ様はテオドール殿下の秘書になられてからとてもお忙しそうですわ」


 藍鼠の言葉に他の令嬢も同意する。


「そうですわ、この頃は私どものお茶会にもなかなかいらしていただけなくて」

「あら、でもイゾルテ様はテオドール殿下とお茶をされているみたいですわよ。私、先日東屋でお見かけしましたわ」

「私も見ましたわ。とってもお似合いのお二人でそれはもう、うっとりとしてしまいましたわ」

「ふふっ、皆さま、それは言ってはいけませんわ。テオドール殿下の婚約者は()()()()ヴァルツァー様なのですから」


 ユリアーネは面倒くさくなって「そうですね」とにっこりした。大抵の事は笑えばごまかせる。

 ユリアーネが傷ついた顔をしないので当てが外れたような顔をして藍鼠たちは去って行った。


「あの、ありがとうございました、ヴァルツァー様」


 後ろから小さい声が聞こえてユリアーネは振り返った。

 藍鼠たちに苛められていた少女はユリアーネより少し年下に見える。その薄緑の髪に見覚えがあるような気がしてユリアーネは考え込んだ。


「あの、お久し振りです。四年前にお会いしました」

「…………ああ!」


 ユリアーネは手をポンと打った。そう言えばあのお茶会に居たような気がする。ほとんど覚えていないけれど。


「ごめんなさい、お名前を忘れてしまったわ」

「いえ、いいんです。存在感が無いってよく言われますから。——改めましてヘレーネ・ヴィン・ケーニヒと申します」


 少女は深々とお辞儀をした。


「ユリアーネ・フェア・ヴァルツァーと申しますわ」

「ふふ……存じております」


 ヘレーネは初めて笑みを見せた。


「ヴァルツァー様は私の憧れですわ。あのお茶会の後、数度王宮でお見かけしました」

「えっ!?」


 憧れ? 憧れって何ぞや? ユリアーネは目の前の少女に憧れられる理由がわからない。直接会ったのは四年前の、最後に王国一の淑女になると啖呵を切ったあのお茶会だけだ。


「ケーニヒ様、よろしければどこかでもう少しお話をいたしませんか?」

「ぜひ! 喜んで!」


 恐る恐るユリアーネが切り出すとヘレーネは飛び上がって喜んだ。




 マルゴットには先に部屋に戻ってもらってユリアーネとヘレーネは図書館に併設しているカフェに腰を落ち着けた。

 政治の中枢でもある王宮内、特に各役所が林立している本宮近辺には職員の為のカフェや食堂、雑貨などを扱う店もある。ユリアーネはそれらの施設を利用したことは無かったが。なんといってもユリアーネの銀髪は目立つ。王都の街中ならいざ知らずテオドール殿下の婚約者がボッチでカフェでお茶を飲んでいたなど王宮内ではすぐに噂になる。だからユリアーネは自室や奥宮の庭園の東屋でお茶をしていた。


「私なんかとカフェにご一緒いただいて申し訳ありません」


 席について紅茶とケーキが運ばれるとヘレーネはユリアーネに謝った。


「あら? お茶にお誘いしたのは私の方よ、一度ここに来てみたかったの。私こそケーニヒ様を無理に連れてきてしまったのではないかしら」

「いえいえ! 私はユリ……ヴァルツァー様にお誘いいただいて天にも昇る気持ちなのです」


 頬を染めながら力説するヘレーネを見ていると憧れていると言ったのも嘘ではないように思える。


「まあ、光栄ですわ。あの、よろしければ私の事はユリアーネと呼んでくださる?」

「はっはい! 私の事もヘレーネと呼んでくださると嬉しいです、ユリアーネ様!」


 ユリアーネとヘレーネは目を合わせて微笑み合う。そうしてケーキを食べてまた微笑み合った。

 ヘレーネはユリアーネより一つ年下でケーニヒ侯爵家の長女、下に弟と妹がいるそうだ。ケーニヒ侯爵夫人、ヘレーネの母はハイツマン公爵の妹でヘレーネは風の魔術を扱えるらしい。


「それで、彼女たちはヘレーネ様に何を言っていたのかしら?」


 ユリアーネが水を向けるとヘレーネは少し口ごもった後に訥々と話し始めた。

 ヘレーネはハイツマン公爵令息の従兄弟にあたるが六つ年上のハイツマン公爵令息に妹のように可愛がってもらっていたため昔から何かとやっかまれていたそうだ。そして今回、テオドール殿下の側近であるハンネス・ヴェーゼ伯爵令息と婚約が成立した。それが気に入らない藍鼠たちに嫌味を言われていたらしい。


「私は気が弱くて……ヒルデスハイマー様たちに何を言われても今まで言い返せなかったのです。でも……少しでも変わりたいと思って……」


 そういうヘレーネは既に涙目だ。ヒルデスハイマーというのが藍鼠の名前らしい。そうだわ、確かロジーネ・ヴァッサ・ヒルデスハイマー侯爵令嬢だ。やっと藍鼠の名前を思い出すことが出来てユリアーネは喉に刺さった小骨が取れた気分だった。


「ヘレーネ様はとてもはきはきしてらっしゃるように見えますわ」

「いいえ! 今はユリアーネ様にお会いできて興奮しているのと、そのう……少しでもユリアーネ様に近づきたいと……」


 ユリアーネが首をかしげるとヘレーネはガッと身を乗り出してテーブルの上のユリアーネの手を握った。


「四年前のあのお茶会、あの時の宣言は素晴らしかったですわ!! 私、あれからユリアーネお姉様のファンになってしまいましたの! その後お見かけするユリアーネお姉様は歩む姿や仕草が見る見るうちに優雅になられて、そのお美しい月光のような御髪と相まってまるで女神さまのようで……(うっとり)……私、ユリアーネお姉様が宣言通りに努力なされていることがよくわかりましたの。それでますますファンになって……私もユリアーネお姉様のように意地悪に対してきっぱりとものを言えるようになりたいです! そしておっしゃったことを実行できるユリアーネお姉様は私の女神様なのですわ!」


 手を握られたまま熱く熱く語られてユリアーネはちょっと引いてしまった。「ユリアーネお姉様……?」と呟くとヘレーネは「あっ!」と顔を真っ赤にしてユリアーネの手を離し、椅子にストンと座った。


「うう……申し訳ありません」

「何を謝るの? 褒めていただいて私はとても嬉しいですわ。私は弟しかいませんからヘレーネ様にお姉様と呼んでいただくのも妹が出来たみたいで嬉しいですわ」

「ユリアーネお姉様とお呼びしてもよろしいのですか?」

「ええ、もちろんよ」


 ユリアーネがにっこり微笑むとヘレーネは安堵のため息を漏らした。

 しかしさっきの迫力と言い、とてもヘレーネが気が弱いとは思えない。


「その……少しでもユリアーネお姉様に近づけるよう日々頑張っているのです。さっきも三回ぐらいは言い返したのです! もう黙って苛められている私ではないので」


 ふんすと胸を張るヘレーネだが、先ほど見た限りでは藍鼠たちに大してダメージを与えたられたようには見えなかった。そもそもどうしてヘレーネが藍鼠たちに言いがかりをつけられたのだろう?


「もちろん私がハイツマン公爵令息のシュテファン兄様と仲が良くてハンネス・ヴェーゼ様と婚約を結んだからですわ。婚約はお父様がお決めになった事ですけど」

「? 誰と誰が婚約を結ぼうと彼女たちには関係ないのではなくて?」

「シュテファン兄様もハンネス・ヴェーゼ様もご令嬢方に人気があるからです」

「?? 彼女たちはテオドール殿下が好きなのではないの?」


 ユリアーネは戸惑うばかりだ。藍鼠たちはテオドールが好きだからユリアーネに嫌味を言ったり馬鹿にした態度をとるのだろうと思っていたが。

 ヘレーネはフルフルと首を振った。


「もちろんテオドール殿下はご令嬢方の憧れの的ですわ。でも、なんていうか、高嶺の花過ぎて現実感がないのです」


 そう言った後に、あ! という顔をしてヘレーネは付け加えた。


「それにユリアーネお姉様というとても素敵な婚約者がいらっしゃいますし」


 ヘレーネの反応から見てもユリアーネがテオドールの婚約者であることは形骸化しつつあるのだろう。テオドールとのお茶会を取りやめて以来接点も無いことだし。これは婚約がなくなるのも近いのじゃないかしらとユリアーネは思った。こちらから解消は出来ないので早く王家の方から言って欲しい。


「私とテオドール殿下との婚約は解消になるのではないかしら? ヘレーネ様だって家格としては申し分ないでしょう?」


 ユリアーネがそう言うとヘレーネは凄い勢いで首を振った。


「ダメダメ、ダメです。私はとても国母になるような度胸はありません。ユリアーネお姉様は王子妃教育もとても優秀でいらしたと聞いておりますわ」


 それも今は取り止めになってしまったわ、とユリアーネは心の中で呟いた。それにユリアーネとて国母になるような覚悟はない。


「私はそこそこのお家で旦那様と仲良く暮らせればよいのです。でもハンネス・ヴェーゼ様と婚約が決まってしまって」


 ヘレーネはしょんぼりした。


「ハンネス・ヴェーゼ様とは仲良く暮らせそうもないの?」

「ハンネス・ヴェーゼ様はご令嬢に人気がある方ですわ。あの眼鏡の奥の理知的な瞳が素敵だと皆さま仰います。でも私はなんとなく怖くて」


 ユリアーネは何度か見かけたテオドールの側近の姿を思い浮かべた。うん、眼鏡の…………それ以上の感想は湧いてこない。テオドール同様、弱そう、という以外は。


「ハンネス・ヴェーゼ様だけでなくシュテファン兄様もお優しそうだと女性に人気ですからヒルデスハイマー様たちは私が気に入らないのです。シュテファン兄様は身内のようなものですし、ハンネス・ヴェーゼ様との婚約は私が望んだことではないのに……」

「ヘレーネ様も大変ですのね。私は何も知らなかったわ」


 ユリアーネが同情するとヘレーネは顔をほころばせた。


「でも今日はそのおかげでユリアーネお姉様とお友達になれましたもの! 苛められて良かったと初めて思いましたわ!!」


 いや、イジメはダメでしょう、そこは怒ろうよ、とユリアーネは思ったが、ヘレーネの嬉しそうな様子を見て(私が出来る限りヘレーネ様を守ろう! なんていったって王宮(ここ)で出来た初めてのお友達だもの)と拳を握りしめた。


「ああ、そう言えば騎士団にも人気あるお方がいらっしゃいますわ。総騎士団長様は元より黒の騎士団の副団長様も……」


 ヘレーネのお喋りはまだまだ続く。

 


 


次話予告『糾弾するユリアーネ』です。

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