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異世界転生

現世でカードゲームの全日本チャンプになった直後、過労死してしまった主人公、里見純は、カードで見知った世界に異世界転生された。

目の前にはカードゲームの世界で慣れ親しんだ風貌の3人が見慣れた赤龍と戦っている。

圧倒的魔法知識(カードプール)とその頭脳をもとに、今異世界英雄譚が始まる。


「アイムロスト…グッドゲーム」

相手はそう言うと自らの手に握られた11枚の手札を力なく場に伏せた。

その言葉と同時に、胃に圧し掛かっていた、重圧がほどけ、静寂に包まれていた会場は瞬く間にに歓声に包まれた。

「グッドゲーム」

相手はそう言うと、にこやかに手を差し出し握手を求めてきた。

席から立ち上がると、足元はふらつき、まるで400mを全力疾走したかのようなの大量の汗と、疲労が体を包んでいる。

「ぐっど…ゲーム」

相手の言葉にこたえ握手に応じる。

決勝戦の場を明るく見せるためだろう、強烈なスポットライトの光の向こうで、相手は目に涙を置けばながらそれでも自分を称えれう笑顔が強烈に眼底に焼き付いた。

相手の手も熱く、すごく汗ばんでおり、決してきれいだとは言いづらいが、今はそれもまた心地がいい。

「勝者、里見純!本年度2024年世界選手権、世界最高峰の32名がしのぎを削った本大会、世界王者と輝いたのは日本…」

まさに人生最高の瞬間であることに間違いはない。

強烈な歓声、無意味だと言われ続けながらも、覚醒時代から両親に怒られながらも研鑽を続けた結果が今ようやく形になったのだ。

その時だった、視界がグネグネとねじ曲がり、今度は内臓すべてを下からt浮き挙げられるような感覚が襲う、先ほどよりも強烈にスポットライトに光を感じ、先ほどまで右手に感じていた汗ばんだ手の感覚はなくなった。

そして視界に対戦相手の顔がのぞきこみスポットライトの光を遮る。

ああ、俺は倒れてたのか…

会場の完成は今や悲鳴に代わっているのが微かに聞こえる。

意識が遠のいていくのを感じる。

視界が左右に揺られている、対戦相手のアーデンベルト選手が自分の体を揺さぶり、何かを叫んでいるのだろうが、もう聞こえない。

そして、俺は意識を失った。



背中に冷たいものを感じる。

体を動かそうとすると全身に激痛が走る。

次第に感覚が戻ってくるにつれて、自分の周囲で幾度か大きな破裂音が鳴っているのがわかる。

石交じりの唐突な突風が体を吹き抜け、全身に当たるのがわかる。

「痛い」

小さくそうつぶやくとゆっくりと目を開けた。

そして目に飛び込んできた光景に戦慄する。

見たこともない…違う、よく見知っている天井にも届きそうな巨大な赤龍が炎を吹き暴れている。

赤龍の炎で照らされ、この場所が洞窟であることは理解いできる。

そして赤龍の前には、赤髪に黒いマントを羽織った男がと、高級で一瞥するだけで身分が高いことがわかる純白のローブを羽織った女性、そして、服の上からに樹木が巻き付いたような全身ローブの女性が今まさに焼き払われようとしている。

赤龍、あれは先ほどまで自分がプレイしていたカードゲームの赤5マナのアンコモン、火炎流のカードに描かれていた赤龍に瓜二つだ。

そして今まさにそのイラストと同じように飛び上がり赤龍は力を溜める素振りをはじめ口が赤く輝き始めた。

その時だった、自分の視界に7枚の手札が浮かび上がる。

そしてその手前には1枚の青マナカードがある。

さらには、視界を覆いつくすように赤色で【警告】の文字。

おそらく、いやどう見てもこの警告は、火炎流に対してだろう。

ゆっくりと立ち上がり周りを見渡すと自分が倒れていた周りのも同様に無数の人影が倒れている。

赤龍は今にも火炎流を吐き出さんと体制を構え、それに成す術もなく、三人は身構えている。

「来るぞ!」

そう赤紙が叫び、赤龍の腹が膨れ上がる。

赤龍が放つ尋常ではない、音、熱、威圧感。

正直手は震えたが、眼前に表示されているなかで輝いているカードを指なぞるとまるでカードのように手を追従する。

それを確認して、残り7枚のカードの中から一枚のカードをキャストした。

それと同時に、自らの体に冷たいものが流れ込み駆け巡るのがわかる。

「対抗呪文」

無意識か、そう叫び指で眼前のカードを右斜め上に動かすと、指先に体を駆け巡っていた冷たい力が集中し、凝縮されるのがわかる。

するとその光は指先から一筋の光となって赤龍に飛んでいき、今まさに吐き出そうとするドラゴンの口元までたどり着くと青白い六芒星を陣を描きだした。

そしてその魔方陣の光が強く輝いた瞬間、赤龍はブレスをやめ、力なく地面に着地した。

「な、なんだ今のは」

赤髪の男がそう叫ぶと残り二人もこちらを見ている。

しかしその背後では赤龍はまた腹に力をためているのが見て取れる。

「今は、その赤龍に集中しましょう」

とっさにそう言うと、3人も再び赤龍の方に向き直った。

視界のカードにはいつのまにか一枚追加されている。

先ほどは、焦ってなじみのある対抗呪文のカードをキャストしたが、今一度手札を確認する。

(対抗呪文)(対抗呪文)(打ち消し)(取り消し)(熟考)(思案)(台風)

台風のカードは強力だが、光っていない。

カードゲームでもあのカードは対抗呪文と比べるとコストが重く、なかなか使いづらいカードでもあった。

状況を確認するべく、リーダーであろう赤髪の男に近づく。

「今どのくらいダメージを与えている」

そう聞くと赤髪の男はコチラに視線をくれることなく30センチほどの赤い宝石が埋め込まれた杖を

振りかざした。

「ライトニング」

そう叫ぶと今度は彼の杖の先に赤い魔方陣が出現し、その魔方陣から一本の太い稲妻が轟音を上げ赤龍を打つ。

「これで、2発目だ。それ以外に攻撃はできていない。」

そういい終わるや否や、奥の白ローブの女性が、唱える。

「白亜の壁」

その詠唱とともに地面に白い魔方陣が出現し、洞窟の天井に届きそうなほどの門を生成した。

「皆さんコチラへ!」

その声に促され4人は門の陰に隠れた。

またもや赤龍が先ほどと同じ火炎流の構えに入るのが見て取れる。

火炎流は全体に5点ダメージのカードだった。それに対して、この白亜の壁は行きつけのカードゲームショップのストレージボックスに詰め込まれた有象無象カードであり、2マナのモンスターカード、攻撃力0体力4というはっきり言って弱いカード。

もしも同じだとするならばこの一撃を受け止めることはできない。

打ち消しておけばよかった。

そう悔いながらも、いま飛び出してカウンタースペルを唱える勇気はない。

その時だった。

「巨大化!」

そう緑のローブの女性が叫ぶ。

巨大化は緑色1マナのカードで、攻撃力、体力ともに3づつ上昇させる魔法。

これなら堪えれる…なら俺は今今輝いている手札の中からドローソースを唱え、次に備えるべきだ。

壁の端からは先ほどと同じ爆音とともに大量の爆風と爆炎、炎が漏れ出している。

「熟考」

光っているドローソースの中の一枚を唱える。

すると手札途へ別にカードが2枚表示されるとともに視界にまた大きな文字で文言が表示される。

【どちらか1枚を選んでください】

熟考は2マナ、デッキトップ2枚を見て好きな順番にデッキの一番上か一番下に置くカード。

今の状態ではそれがこういう風になるわけか。

マナの仕組みはわからないが、唱えることのできる状態の魔法は光って表示される。

なら、俺はこの2枚をもともととは違う順番に並び替える。

台風さえ唱えることができれば、あの赤龍の体力にもよるがそれがカードゲームと同じ20点であるならば勝機はある。すでに稲妻を2回打っているという事が確かなら残りは14点。

火炎流の攻撃が終わったのがわかる。

手札のカードがさらに1枚増える。しかしまだ台風は光らない。

さらには、カードゲームであればターンが終わればモンスター等の召喚物のライフは回復していたが、白亜の門にその気配はなく、焼け焦げひび割れているのが手に取るようにわかる。

回復しないのであれば、次の一撃を堪えうることはできない。

出来れば温存しておきたかったが。

そう思い壁のひび割れた隙間から赤龍を伺うとまた腹を膨らせ力をためているのがわかる。

「対抗…」

そう唱えようとした時だった。不意に肩をつかまれた。

「おい、お前、策があるんだな。」

そう言ったのは赤髪の男だった。

「一応…」

そういうと赤髪は不意的に笑った。

そうして腰にさしてある小さな小瓶を渡してきた。

その小瓶には見覚えはない。

「これを飲め、そうすれば少し魔力が回復するだろう。」

そういうと有無を言わさず押し付けてきた。

飲むしかないか、大会前のエナジードリンクがぶ飲みのデスマーチにはなれているし、どうこう言ってられない。

コルク栓を外し、3本一気に口にそそぐ。

「おいおい3本同時かよ」

そういう赤髪をよそ眼に台風のカードを含めた手札のカードすべてが光り輝く。

「これならいける。」

そういうと、門の陰から飛び出した。

「台風」

そう唱えると全身に冷たい力が渦を巻くのがわかる。

そしてその力は指先から放出され、洞窟内に目を開けていられないような嵐が吹き荒れた。

「うお、なんだこりゃ」

赤髪はそう叫び、残り二人もあまりの事に悲鳴を上げている。

しかしこのカードの効果は現世ではこんなものではない。

飛び出した自分に狙いを定め、赤龍が火炎流を吐こうとしているのがわかる。

「対抗呪文」

そう叫ぶと、またしても赤龍はためた力を失い脱力するのがわかる。

「さあ、赤龍、この呪文の怖さはここからだ。この嵐は俺が使用した魔力量に応じてそれと同様の水龍を召喚する。」

そう叫ぶとどこからともなく嵐の中から突如美しい青色のうろこに身を包んだ人サイズのドラゴンが

現れ、そして赤龍に近づいていくと水弾を発射した。

赤龍は巨大な体を始めてひるませた。

そして狙いを小さなドラゴンに向けるとまた火炎流の体制に入る。

「お前の敵は俺だ!打ち消し」

そう叫ぶとさらにもう一体嵐の中からドラゴンが現れる。

「もういっちょ、思案!」

するとさらに現れたドラゴンが飛んでいくとともに視界に3枚の選択肢が現れる。

そのなかから迷わずカウンタースペルである(打ち消し)を選ぶ。

赤龍が動こうとするたびに、それをカウンタースペルで打ち消す。

さらには後方の赤髪の後方支援も赤龍に突き刺さる。

手札も光ったり、消えたりを繰り返している。

魔力はぎりぎりというところか。

次第に赤龍は弱りを見せ始めた。

その時だった。

赤龍の形態が変化し始めた。

巨大なうろこが次々と剥がれ落ち、中から光り輝く体に薄膜の羽。

間違いない。

これは、神聖化だ。

本来神聖化のカードはゲームデザイナが考案して消えたカードの一つ。

ほとんど知られることの無いカードだが、知っている。

雑誌のコラムでみたそのカードに描かれていた純白のドラゴンのイラストが非常に美しく、印象深かったからだ。

無色10マナという超重量級のカードで、ドラゴン族に使用できその効果は、すべての効果つまり、ダメージはもちろんそもそも対象に取ることすらできなくなる。さらに、攻撃力と体力を5づつ上昇させ、プレイヤーはこのゲームに敗北することができず、相手は勝利することができない。

つまりは唱えられればサレンダーのような効果がついているカードだ。

何度も大きく吠えながらその巨大なからだをさらに巨大化していく、さらには、台風の生んだ嵐までもがその力を弱め始めている。

しかし、笑いが止まらない。

いつもそうだった。

カードゲームの試合で、一番好きな瞬間。

それは、相手が必死に組み合わせ、何度も唱え成立させた必殺の一撃をまずか2マナで打ち砕く瞬間。

超アドバンテージ。

「すまんな赤龍。相手が悪かったな。」

正直後から思えば、マナの概念も魔力と言い換えられ、仕組みも違う。実装されなかったカードも存在する。もしかしたら、打ち消すことができない可能性もあったが、なぜか打ち消せると心に確信じみたものがあった。

「対抗呪文」

そう叫ぶと指先からでた一筋の青白い光は赤龍の鱗の剝がれた純白の体に青白い六芒星の陣を描き、激しい光を放ち消失していく。

神聖化の副作用か、はたまたこれがリアルだからか、対抗呪文は呪文一つを対象としてそれを打ち消す。

つまりダメージは無いはずなのだが。

そう思いながら消失していく赤龍を眺めていると洞窟内にも次第に明るさが戻ってきている、おそらくあの赤龍の影響で暗くなっていたのだろう。

その時だった、突如視界に2枚のカードが表示された。

まだ戦闘が継続しているのかと身構えたが、刹那表示されたカードとその上部に書かれた文字に目を奪われた。

【神聖化の呪文を習得しました。】

【火炎流の呪文を習得しました。】

【称号ドラゴンスレイヤーを獲得しました。】

【呪文ストレージが解放されました。】

【レベルが上昇しました3→24】

【レベル上昇に伴い、ステータスが上昇しました】

【力4→30 魔力18→75 体力10→27 】


しばらく表示された文字を何度も繰り返し読んでいると、後ろから声がした。

「お前何者だ。」

振り返ろうとすると頭に尖ったものが当たるのがわかる。

「振り向くな。質問に答えろ。」

そういうとさらに後頭部に強く杖を押し当られる。

カードゲームの全日本チャンプで気が付いたらこの世界にいました…なんて絶対信じてもらえないのもわかるしこの世界観はゲームで何度も救ってきた世界に似ている。

ここは

「すまない、記憶がないんだ。気が付いたらお三方が赤龍と戦っていて加勢した。」

これは定石も定石の答えであり完璧だろう。

しかし結果は違った。

「嘘をつくな。」

これにはいささか驚くとともに、自分も危なかったとはいえ助けた相手にかける言葉ではない気がする。

すると少し遠くから声がした。

「やめなさいカイン」

それは白いローブの女性だった。カインというのはこの赤髪の事だろう。

「しかし姫様」

ほほう、この白いローブは姫様なのか、すごく美しかった気がするので凝視したいところではあるが、首元に杖を突きつけられてる状況なので安易に振り返ることはできない。

「カイン、杖を下げるのです」

さらに姫が圧をかけるのがわかる。優しい女性が強い口調を使うときほど怖いものはない

「しかし姫様、こいつ、いえ、この者は複数の呪文打ち消す未知の呪文を扱うばかりか、水龍まで召還したんですよ。杖も持たずに!」

そう言うとさらに強く杖を後頭部に押し当てる。

「カイン、確かにそのものの使った魔法は我々にとって未知の呪文であることは間違いありません、しかし その者は我々の命を救い、魔龍ラールを打ち払ったことに違いはありません。さらに言うなれば、その者が本気なのであれば我々3人が束になったかかっていっても惨殺されるだけです。」

「しかし、私はローゼン国の王族直属の近衛騎士団長であります。むやみに姫様に害をなす恐れがある者を見逃すことなど…」

「では、カイン、あなたはそのものに勝てるのですか。」

さらに姫様の語気が強まる。

「それは…」

そこまで言うとカインは口ごもる。

「カイン私はあなたの力量は知っております。あなたが優秀であるからこそこの身を任せ、そして魔龍ラール討伐隊隊長を任命したのです。しかし私はこの魔窟から私一人逃げさせることすらあなたでは不可能だと考えます。」

えらく高く買われたもんだ。そんなことを考えていると、後頭部の杖の感覚が消えた。

「理解してくれてうれしいです、カイン」

「姫様の言う通りでございます。」

カインのその声とともにカチャカチャという音がする。おそらく俺的ファンタジー知識を前投入した予測だと跪いたのだろう。

「あのーそろそろ振り向いてもいいか?」

この体制でずっといるのはしんどいし何より、姫様のご尊顔を拝みたい気持ちが強い。

「ええ、大変失礼をいたしました。」

その言葉を聞き振り返ると、そこには深々と頭を下げる白いローブの女性とこの会話には参加していなかった緑色のローブの従者らしき女性、そして跪くカインがいた。

ほらやっぱり

心の底で自らのファンタジー世界の知識の勝利の美酒に酔いながら、姫様を凝視していると姫は顔を上げた。

その肌は白人のように白く、髪は微かに黄色味を帯びているがほとんどシルバーに近く、セルリアンブルーの瞳に端正な顔立ち、さらに初めに見て思った通り純白のローブには数々の金細工の装飾やアクセサリーを身にまとっている。

「自己紹介が遅れました、私はローゼン国第3王女ニール・ヴェルグと申します。ニールとでも何とでも呼びやすい名でお呼びください。そしてこの者は私の従者で王国近衛騎士団長のラール、そして…」

そう言いニールが緑のローブの女性を指さすと、その女性は恥ずかしそうにニールの後ろに隠れた。

「すみません、この子実力は確かなのですが、いかんせん人見知りなもので。ほら挨拶なさい」

ニールがそういうと恥ずかしそうにニールの後ろから顔を出す。まるで母親の陰に隠れる息子みたいだ。

「あ…あの、ボクはス、スフィア、ニール様の従者です。」

そう話すスフィアはニールに比べると小柄で、おそらく慎重派140センチくらいだろうか、銀髪ショートボブの見た目くりくりとした目が隠れんばかりにで深くフードをかぶり、もじもじとしている。

しかもそのフードには猫耳までついている。

いや、事情にかわいい。決してロリコンであるというわけではないがこれはかわいい。

まるで愛玩動物のような可愛さに凝視していると、その視線が怖いのかさらにニールの後ろに隠れる。

かわいい、新しい扉を開けてしまいそうだ。

そんなことを思っているとニールが咳払いをした。

「それで、あなたは何も覚えていないという事ですが。」

そう言われ我に返る。

「はい」

するとニールは続ける。

「しかし、私はあなたを知っています。」

「え?」

あまりの事に、さすがに理解がついていかない。

「いえ、正確にはあなただった者という方が正確かもしれません。」

この言葉で、やっと理解することができた。この体、よく見れば軽装の鎧をつけている、そういえば洞窟の入り口付近に散乱している遺体も同じような装いだった気がする。おそらく先ほど言った討伐隊の兵士たちだろう。

「あなたの名前はグリム、確かグリムドア・グレーテル、ローゼン王国近郊のドライアド村出身の魔術師だったと思います。」

これを聞いてさすが驚かずにはいられない。おそらくこの体の持ち主は装いからしても、これといって秀でた能力はなかったはずだ。それにこの空間の入り口付近に無数に広がる死体の数からして、おそらくこのニール姫は兵士全員の名前や出身をを憶えていたのだろう。

「そうだったのですね」

こう返すしか言葉がない。

「はい、ですがあなたはこの空間に入った直後の魔龍ラールのブレスによって壊滅したはずでした。」

なるほど、だから入口に死体が多いのか。

「ですので、私はおそらくグリムドア・グレーテルとは別の精神体か何か、つまりあなたが憑依していっると考えております。」

「ではやはり姫様こいつは」

そういいカインが杖に手をかけようとするのをニールは手で制止する。

スフィアはもう完全にニールの後ろに隠れてしまっている。かわいい

「そこで、ご提案なのですが、行く当てがないのであれば、しばらくはローズ王国で過ごしてみてはいかがでしょう。今回の討伐の功績に見合う褒章も約束いたします。」

「ニール様、それは真理に危険では。」

そうカインがいいこちらを睨む。

「何度も言わせないで、魔龍ラールの侵攻を防ぐために結成した討伐隊、あなたも私も含め討伐は叶わなかった、にもかかわらず、この者はあの魔龍を退けた。であれば、この者が嘔吐を滅ぼす気であるのであれば同じことです。」

そういわれるとカインは俯き小さく舌打ちをした。

「どうでしょう悪い提案ではないと思うのですが。」

たしかに悪くはない、おそらくここは別世界、いわゆる異世界転生をされたのだろうが、まだこの洞窟内の一角しか知らない、戦い方はカードゲームに酷似しているが、やはりリアルという事もあって、まだこの世界の情報が足りないのは確かだ。

しかし、このニール姫は非常に切れ者であることは確か、このまま丸め込まれ飼殺されることは避けなければならないと俺のファンタジー知識が警鐘を鳴らしている。

「ああ、助かる、けど一つだけ条件がある。」

そういうとカインが杖に手をかけた。

「貴様、何様のつもり…」

しかし、またもやニールがそれを制止する。

「何でしょう。」

「おそらくあなたたちの会話を聞くに俺は異質な存在であることはよくわかった。だからこそ、この体のままそのローズ王国とやらの軍門に下って、飼い殺しにされるのはごめんだ。けれど俺はニールの言う通りこの世界の知識が無いのも確かだ、そこでこの世界の一般的な知識を得るまでの間、ローズ王国とやらの兵士を続けるが俺が、もう純分知識を得たと思ったら軍を抜ける。これでいいなら是非とも連れて行ってくれ。」

本当に善意だけの提案であれば快諾するはずだが、下心があるのならば認めまい。

「わかりました、グリムドア、あなたが警戒するのは至極当然でしょう、その条件を飲みましょう。しかし、あなたは一つ思い違いをされております。あなたほどの力があれば、そんな条件を付けなくとも国を去ることは容易ですよ。」

そういうとニールは初めて笑った。

「いや、これから少しでも世話になるんだ、それに元のこの体の持ち主もローズ王国で世話になってたみたいだからな、できれば喧嘩別れは嫌というだけだ。」

そういうとニールはさらに微笑んだ。

「お気遣い痛み入りますわ、ではもうこの地に模様はないですし、ご遺体たちもせめて家族のもとに送らねばなりません。」

そういうとニールは入り口付近で火炎流に焼かれ損壊の激しい遺体群に目をやった。

「外で待機させている部隊に連絡し運ばせます」

カインがそう言うとニールは厳しい表情で軽く頷いた。

「それとグリムドア、あなたは中身が入れ替わった事はご内密にいたします。怖がるものも多いはずですので。」

「助かる。」

そういうと俺たち4人はこの始まりの地を後にした。


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