セゾン物流ー文盲でも水牛の言葉を理解した創業者IPAー
・・・・・・まだ20代だった頃の彼女は「メロディー専門」の会社で事務職をしていた。余りの美しさに、君こそが星のメロディー、とまで言われていて、それぞれ区域が違う「novel」「painting」「music」「film」のどの地区だろうと彼女の美しさは有名だった。実際当時の「music」区における求人倍率は他とかなり違ったらしい。俺が今の仕事を始める、ほんの数年前のことだ。
そんなミコ キーラレインを射止めた、一番星のような男は、俺が働く「novel」区の最大手「セゾン物流」の御曹司「ハバJr」だ。彼は創業者の正当な末裔でもある。
セゾン物流は老舗中の老舗で、地上で今なお現存し、多くの者が、少なくとも作品名とあらすじだけはとりあえず知っている、という類の古い「物語」の殆どに関わって来た長い歴史を持つ。創業者の「IPA セゾン」は遥か遠い昔々の物語のキャラクターを水牛に乗せ、墨を摺り月明かりで書かれた章があるかもしれない古い文字の中へ運んでいた、と言う・・・・・・実際は単に大きく謳っているだけなのかもしれないし、何度も破算、倒産の危機を迎えてきた会社だけれど昔から最大手の一流企業で間違いない。
文盲でも水牛の言葉は理解していたというIPAが四つ脚を使い起業して以来、親族内継承をしてきたのだから、例に漏れず大バカ息子が何度も出現し、ギャンブルか女でトラブルを起こし、あるいは賃金未払いやパワーハラスメントなどにより、強固なストライキを決行され、いずれにしろ代々のバカ息子たちは度々会社を傾けた。
しかし一度バカが生れれば永久にバカが生れ続くでもなく、賢い奴は現れる。故に問題は、夫や周囲が妻の不貞を疑いかねないほど優秀な跡継ぎが生まれてくるまで会社が持つかどうかなのだ。
ハバJrの祖父「ハバ」は幾つかの改革をトップダウンで実行すると、経営を安定化し利益を増やした。自分の代となり、全責任を負うと共に自由な経営を行える立場になり見事な手腕を発揮したのだ。
特別な鶴に生まれた者はなるべく口を出さず、出来るだけ金を出す。たったこれだけで、何かしらの黒い噂を聞く何人かの幹部たちは、今まで押さえつけてきた別の派閥から追い込まれた。彼らが順次自主退社すると使途不明金は大きく減り取引は拡大した。
現場仕事の社員、つまりドライバーには休暇を増やし人員も増やした。そして何と言っても各車搭載する「鎖」のようなGPSと車内カメラの取り外しを決断したのだ。
ドライバー不足にイライラするだけだった歴代のバカ息子たちは誰一人思いつかなかったし、他の同業者たちも気付いてこなかった、敏腕ハバの経営戦略の一手だ。ドライバーの退職者は激減し、就職希望者が増えたのは当たり前のことだった。
たとえ自分がクソ会社の犠牲になっても家族を守りたい、と思っている多くの従業員たちに、どうすれば犠牲にならず家族を守らせられるのか、を考えた経営者ハバは、地上の創作作品の中にしか存在しない、極めて人権的かつ風通しのいい会社経営をカーマンラインで実際に試みたのだ。天空のハバは地上の「営み」全般を半面教師として参考にしたということだ。ある一つのことを除いて・・・・・・そう、それは後にミコ キーラレインを直撃した、と言われている。