表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

この世界は雨上がりだった


「・・・・・・ならさ、あんたの名前って何て言うの?」ナイラーはゴーグルを取ると灰色と茶色の奥で驚いた。

「ドキだよ。ドキ トキ」まるで俺がドキで影がトキみたいだな、と思った。

「・・・・・・ときどき、みたいな名前ね」ナイラーは明らかに笑いを堪えた。

「なんで、うちはトキなのにドキってつけちゃったんだろう、ってよく思っていたよ」

「誰がつけたんだって?」

「親父の愛人。おふくろは冗談ぽく言ってたけど、たぶん本当のような気がする」

「・・・・・・私の最後の恋人はドキ トキなんだ。笑えるから最高だな」

「俺の最初の恋人はミコ キーラレインでいいの?」

 ミコ キーラレインは右手のアクセルを離すと腕を伸ばしてきた。サイドに座る俺も左腕を伸ばして彼女の手を握った。革手袋越しだったけれど「河原」での妄想は現実になった・・・・・・。



 空の色が足元から頭上へ変わると、南の方角に大きな虹が掛かっていた。この世界は雨上がりだったのだ。「ダック」人にとって虹は台風の目よりもよほど縁起の悪いものだが、やはり見た目は美しい。

「一度虹を渡ろうとしたんだ。でも途中でさ、ちょっとした偶然が起きてね、それでやっぱり岸に上がったよ」サイドカーの未亡人は山に囲まれた盆地を跨ぐほど大きな虹を指さして、そんなことを言った。

「何があったの? 言いたくなければ言わなくていいけど」

「・・・・・・小さな女の子が呑気に泳いでいたんだ。身体ごと。さすがに見てみない振りはできなかった」

「・・・・・・」

「地上の子だった。何があったのかは知らないけれど、抱えて岸辺に連れていった。彼女は抵抗しなかった」

 

 そして二人は河辺を歩いて、それぞれの世界へ戻ったらしい。


「追い詰められたら私がいる空を見上げて、どこでもいいから逃げろって言ってやったんだ。私も君がいる地上を見下ろして逃げるからって」

「Jrの後のことなんだね?」俺はナイラーと出会ってから初めてその固有名詞を口にした。

「いや、その前のこと。だから彼との出会いは余計に幸せだったのかもしれない」

 ナイラーはそう答えた・・・・・・俺がJrのことを詳しく聞きたがれば、きっと平然と答えただだろう。でも俺は踏み込まなかった。俺が知った所でそれが何になる? 彼女が俺に教えたところで彼女の何になる?

 もし何かになるとするのならば、それは今、俺たち二人を繋ぐ最後の糸のテンションを弛ませるだけだ。

「地上の子、今も元気かな?」俺は言った。

「私みたいに我がままで気分屋だったらいいけどな」

「じゃぁ、美人さんだね」

「不釣り合いな恋人がいるかもな」ミコは嬉しそうにクスクス笑った。

「あのさ、このサイドカーを処分して待ってなよ。俺が物語の中から呼んであげる。お互い新車に乗ろうよ」もちろん一キャラクターでしかない俺に何が出来るはずもない・・・・・・でも本当に無理だろうか? 物語自身が作者を導くことだってなくはないはず。俺は職業柄そのことを良く知っている。

 彼女は返事をしなかった。色違いの瞳は再び盛り上がるように潤んだ。

「だからさ、帰りに寄り道なんかしないでよ。俺の委任状もあるんだし」俺は顎で南の大きな虹を指した。

 「当り前だろ。始めから真っ直ぐ帰るつもりだよ」ミコ キーラレインは声を上げて笑った。とても大袈裟に。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ