サイドカーの未亡人
ところで、先述した「彗星の尾っぽ切り」の件だが、氷の斧を持った職人を真っ白な段落上に降ろすとき、なんか変な文脈だなとは思ったが、俺は勘違いしたまま家宝の黒い斧を肩に担ぐ、刺青だらけの小人に幸運を祈って別れた・・・・・・プロ作家志望の作者に対して申し訳ないことをしたと今でも思っている。
何にせよ幼友達同士が敵味方に分かれ、実弾で狙い合う雪原にクリスマス休戦がやってきた場面で、まるで天からのクリスマスプレゼントのような「雪うさぎ」を発見したはずの女子大生は、しかし午前九時の静かなカフェで頭を掻きむしり、危うく物語を破綻させてしまうところだったのだ。
ちなみに、病んだ心を通わす黒い斧を持った「樵」は、少し残酷なクリスマス物語が破綻する前に間に合った「雪うさぎ」から追い出されると、席の埋まった午前中のカフェ内を「歩き回り」こちらは単なる趣味で、あるいは自身の存在証明なのかもしれないのだが・・・・・・それはどうあれ、ファタジーを書く方のもう一人のパソコンを自力で見つけ無事収まった、と教えられた。俺は「倉庫」の事務所で出荷責任者からこっぴどく怒られたもんだ。
さて、後から「雪うさぎ」を運んで来た運び屋は「ミコ キーラレイン」という、ビンテージバイクのサイドカーに乗る「フリー」の未亡人だ。黒いレザーのトレンチコートを着て、ヘルメットは白いジェットタイプ。丸いミラーレンズのゴーグルで目を隠し、無いわけがない感情を隠す。650CCのVツインエンジンは、滅多に笑わない冷めた未亡人とは真逆なほど、ピースフルであたたかい音を立てる。ポコポコ、ポコポコ明るく歌うのだ。古いバイクであってもメンテナンスが行き届いているのだろう。