今から10分ほど前のこと
翌日は午後から夜中まで働くつもりだった。そのように「配車係」へシフトの希望を出していた。
午前中に、たまには車を洗っておこうか迷ったのだったが、昨日ナイラーに連れていかれた「河原」を「穢れた」場所だと思っているのかもしれない、と勘繰られでもしたらそれは本意ではないので止めた。むしろ、幾らかだが、汚れたまま「河原」に横付けてしまったことに対する言い訳を欲していたくらいだ・・・・・・とは言え、洗車をしに行かず、水を撒かれた花壇の土みたく布団の上でグダグダしていた、あの無駄な幸福感が後に、カーマンラインで暮らすダック人としての最後の後悔になるなど知りようもなかった・・・・・・。
明日は休み、と昨日の別れ際に言っていたナイラーから連絡が来たのは、午前10時過ぎだ・・・・・・つまりそれは、今から10分ほど前のこと。
予兆も予感もなく俺は人生とか運命とかの出会いがしらを経験した。それはさすがに拒めるようなモノではなかったし、モタモタしていられる事態でもなかった。俺自身が「普通便」で発注されたのだ。地上の17歳の少女が、左ハンドルのV8で文書の中に「キャラクター」を届ける「運び屋の物語」を生んだらしい。
「もしもし?」ナイラーの声は明らかに乾いていた。
「あっ、はいはい。どうしました?」事態を知らない俺は呑気なもんだった。
「今から迎えに行く。直ぐに行くから待ってて」緊張する声は、駆け落ちでも企てているのかもしれないぞ、ともちろん半分冗談で思えた俺は幸せだった。
「倉庫街」の城下町で長く暮らす、この一間の窓の外に、生きのいい新たなる「ポコポコ」を響かせてやって来たナイラーがドアをノックすると、駆け落ちにワクワクしていた俺は、取りあえずすっとぼけるつもりだった・・・・・・荷物は俺の車に積み、ナイラーのユーロは現金に換えて、二人は俺たちのことを誰も知らない街へ消える。結構最高だぞ!!。
普段着のトレンチコートの顔は、地上で詠まれる青い月のように「蒼く」ゴーグルを取った色違いの両目はどちらも充血していた。その切羽詰まる雰囲気に可能性がなくはなかったはずの駆け落ちは始めからなかったのだと思った・・・・・・なら何なんだ? 俺にはさっぱり分からなかった。
朽ちそうな扉を開けたまま、乾いた声と涙目の色違いで説明をされた。レ・ルーココの美しさは出来たての焦燥感の中にある遠い瞳の奥へしまわれていた。




