ガレージ葬 6 しゃしゃり出たのはマレだった
むしろ生き返ったのは少年だったろう。祖父の死去とは別の問題が起因しているかのような、生気のない無表情だったフラジオは、絶対に約束を守るから、とそんなことを高揚しながら母親に言って、このバイクが欲しい、とせがんだ。でもあなたは乗って帰れないでしょ? と言われた。
しゃしゃり出たのは俺のハイスクールの三つ四つ上の先輩で、アルトの訃報を連絡してきたピックアップの「マレ」だ。
「ぼくの車に積んでお家まで運びますよ」
彼はスケールとミドルスクールの同級生で、もちろん熱烈な片思いをしていた過去がある。母親と越していった他所の街で建設会社のエリートと結婚する知らせがこちらに届いたあと、飲みに連れて行ってくれたのはアルトだったと言う。
名の知れた優秀なハイスクールでも、誰より輝いていただろう容姿のスケールは、腹を抱えて友達と回し読みした、ポエム調の懐かしいラブレターを思い出した。エンジンがかかる前のコパのように硬直してしまったが、息子は喜び慣れていないことが明白なくらい、ぎこちない動きでバタバタと飛び跳ね、全身で喜びを表した。
「この子に譲れば、アルトもうれしいと思うんじゃないかな? ねぇ、スケールさん」マレは少年とハイタッチした。
「久しぶりね、マレ。迷惑じゃないの?」スケールは、昔も今もマレのことが嫌だったわけではなかったろうが、耳を赤くした。
「迷惑だったら言い出しませんよ」マレは頷いた。
「・・・・・・じゃぁ、お願いします」スケールはフラジオの頭を撫でた。
子供には分からない感情が広がる、そんな母親の手を振り払った少年はなんとなく見守っていたナイラーに向かって小走りして飛び付くのだった。
その場にフラジオがいなくなると、スケールとマレは互いに目を伏せてしまった。
アルトを乗せた、サイレントのEV車(皮肉すぎてみんな大笑いした)の後ろにドカドカと低い音を立てる旧車の車列が続いたが、コパを積んだマレのピックアップが露払いのごとく先導する形となり、フラジオは母親と別れゴツくて固いシートの助手席に乗り込んでいた。
ここで別れる我々の様な参列者は、路上に縦列していた自分の車で一斉に乾いたクラクションを鳴らした。車列が順次通り過ぎるとき笑顔で手を振っていたスケールだったが、俺の隣のナイラーを見つけると左手を口元に当て泣きそうな顔をして頭を下げた。ナイラーはかなり「上から」の態度で、いつものようにクイッ、と白い顎を持ち上げた。
「お前の彼女か?」知り合いの何人かに言われていた俺は、違うよ、と答えた。
「彼女もフリーの運び屋で、古いバイクに乗っているからアルトを紹介したんだ」
「じゃぁ、俺も紹介してくれよ」等と言って彼らは俺の股間を握るのだった。
車列を見送り、スケールに頼まれていた一人がガレージのシャッターを閉めると工場の佇まいは「休日」とはまるで違う風景だ。巨木から精霊がいなくなった感じそのままだった。
残った我々はそれぞれ軽く挨拶を交わして散会した。ナイラーは俺の車に乗り込んでシートベルトを掛けながら言った。
「少しだけデートしない?」
古い友人に支払いが残っていなかった俺は、そんなわけで彼の葬儀の後が、孫のフラジオと同じく人生でもっとも歓喜した瞬間になったわけだ・・・・・・俺は叫びこそしなかったけれど。




