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ガレージ葬 3 スライダースが回された

 参列者の対面が終わると旧車会の会長が友人代表で弔事を読んだ。彼らは幼馴染で、二人がまだ8歳のころの思い出から語られた・・・・・・ある日の放課後、町で会ったクラスメイトの女の子が、自転車のチェーンを外してしまっていて困っていた。彼らは声を掛けて直してあげたのだったが、手を汚してチェーンを嵌めたのが会長だったのかアルトだったのかは、当人たちしかしらない謎だった。そしてこの出来事は二人の人生の節目節目で語られてきた。と言うのも弔事を読んだ会長が自転車の女の子とやがて結婚するとき、アルトは祝辞で言ったのだ。

 「俺がチェーンを嵌めたのに、お前は自分が直したと言って、その果てに結局は結婚するに至っちまったな。本来なら今日は俺の挙式だったかもしれないんだぞ」云々・・・・・・。

 アルトがリードと結婚したときは「お前がペダルを回していただけだから、こうしてリードと結ばれたんだぞ」と会長はスピーチし返したのだった。

 二人はもちろん本当のことを知っていて、どっちかが嘘をついているのだが、それは人生を通じて持ち歩いた本物の健全的な嘘だ。会長の奥さんは当事者なので真相を知っている。でも、彼女もまた終生「昔のことだから忘れた」と言い続けた・・・・・・ハイスクールの時には、すでにそこらの廃車をいじくりまわしていて、夏休みを丸々使い、ついにエンジンがかかり、二人は右前と左後ろのタイヤがない廃車で夜のドライブに出かけ、そして捕まった・・・・・・「いいか? 今日はお前の葬式だ。俺がついに本当のこと言ってやるよ。あの時、お前は手が汚れるのは嫌だなっ、て・・・・・・」

 彼は声を詰まらせてしまい、古いクーペのオープンカーで彼を連れてきた、孫のような若者が近寄り肩を抱いた。何事かを耳元に囁いたあとで、若者は周囲に頭を下げた。それで弔事は終わった・・・・・・40年以上前にここで工場を開いた夜、いつもに増して酔っぱらったアルトは「エンジンの心の本当を今夜知ろうと思うんだ」と吠え「クラーノ」をショットで二杯飲み救急搬送され、開店した次の日から二週間入院したのでシャッターを下ろし続けたという有名な話はされなかった。たぶん参列者は全員そこで笑うつもりだったはずだ・・・・・・。


 最後にかつてアルトが愛してやまなかった「スライダース」が配られ、煙草を吸える者は火をつけた。スケールが考えた素敵な供養だ。非喫煙者の俺は廻って来たスライダースに覚悟を決め火をつけた。どうしてこんなにも不味い、たかが煙を愛する者が存在するか? かねてからの疑問は、やはり疑問のままだった。一応は順番を飛ばさず隣のナイラーへ回すと、躊躇わず手にして一緒に回るオイルライターをカチっと鳴らした。彼女の手で着火された小さな炎まで美人に思えるのは、もちろん彼女に恋しているからだ。彼女は重たい紫煙を美味そうに吐き、咳き込む連れの俺を見てみんなが笑った。ビールも供養になるから出してくれよ、と一人がスケールをからかった。

「旧車乗りは絶対に飲酒運転しないんじゃなかったのかしら?」スケールは冗談で眉間に皺を寄せて睨んだ。

 「お前の親父はオイルを飲んだぜ」違う誰かが言った。

 スケールの息子のフラジオ以外の全員が、ようやく一つになって心から笑えた。本当に素敵な葬儀だと思った。

 




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