ミコ キーラレインとナイラー
「お前はあいつのことをどれだけ知ってるんだ?」アルトはユーロのタンクを撫でながら言った。
「・・・・・・彼女はミコ キーラレインなのかもしれないってこと?」俺は今まで考えもしなかった言葉を口にした。
「所有していた身内が死んだって、自分でも言ってただろ?」
「・・・・・・あんたは口が固いよね?」俺は確かめた。
「客の個人情報に関わることは特に固いと思うぜ」
「・・・・・・でもたぶん違うよ」
俺は、アルトの前でメットを脱がずにいた彼女の髪が赤かったことは黙っていた。
「まぁ、確かにそうだな」アルトは笑った。でも本当には違うと思っていないはずだった。
「聞きにくいことだけど、なんて言うかアルトはそれなりの歳じゃん。もし仮にだよナイラーがミコ キーラレインだったとしたら、たぶんココじゃん。自分のバイクを貸すのは嫌じゃないの?」
「俺の親父もおふくろも、本当だったら死んだ後の魂はケガレに頼んで虹を渡らせてやりたかったんだ。でも当時はすでにそんな風習はなかった。亡骸ごと天の川へ向けて放り出すようになってからの方が、死人に掛かる費用はずっと割安になっていたしな。お前の親父もそうだったろ?」
「うん。でもねアルトの親の時がどうだったかが気になるわけじゃないよ。生きているあんたが生きているココをどう思っているかだ」
「・・・・・・あいつらの目は本当にきれいだ。ナイラーって言う女が誰であろうと、ケガレだとしたら俺のバイクに乗ってくれるなんてマジで光栄だぜ」
「そう。それなら良かったよ」俺は突然の展開にドキドキしていた。でもそれなら本当に良かった、と思えた・・・・・・。
心の中では、つい思ったり、呼んだりしてしまうこともあるけれど、俺は「レ・ルーココ」のことを人前では「ケガレ」とは呼ばないようにしている。理由は簡単だ。死んだ親父が彼らを賤称では呼ばなかったからだ。とうてい立派な男ではなかったと思うけれど、この点に関して言えば、アルトもそうだけれど、悪意なくしかし平気で口にする大人よりも立派だったと思っている・・・・・・。