第玖話「十字架を背負いし元戦士」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
暴走トラックによる襲撃が止んでからから数時間後、サヤは破壊された街中を歩いていた。
ガラスの残骸や瓦礫が地面に落ちていた。他にも爆撃の跡や人の死骸など、非日常的なものばかりがあった。
「おい!こいつまだ息があるぞ!」
「くっそ!何やっているんだ!正義組織の戦士は!」
「大丈夫か!待ってろ、今助けるからな!」
瀕死の状態である負傷者を助け出す人や戦士に対する不満を言う人がいる中、漸く辿り着いたサヤはその足を止めた。
そこには黒く焼け焦げ、見事に大破したトラックがあった。
サヤ「…どうして、助かったんだろう」
サヤはそれを見ながら、疑問に思う事を言葉にして出した。
フレア「野郎!待ちやがれ!」
フレアはベッドから勢いよく起き上がった。
フレア「って、あ?何処だここ?」
そこはクロノス社の医療室。
ふとフレアは周囲を見渡した。
他のベッドには負傷したCSFの隊員や一般市民といった人達が安静していた。
フレア「気を失っていたのか?」
フレアは自分に置かれた状況をだいたい把握した。
フレア「てか、冷たっ!」
その直後、フレアは自分がどういう状況なのかも理解した。
額には冷えピタが貼られていた。
また、全身を埋め尽くすようにして保冷剤が固定されていた。
ロイド「ようやく起きましたか、フレアさん」
すると、遠くからロイドの声が聞こえ、フレアの方へと歩み寄ってきた。
フレア「ロイドか…んで、兄貴も」
フレアはロイドの存在に気が付いた。
アクア「大丈夫だったか?フレア」
そして、ロイドの隣にはアクアがいた。
フレア「大丈夫だけどよ…」
フレアはそう返答した。
そして、アレスが脳裏に過ぎり、思い出した。
フレア「そうだ!あのデカブツはどうなった!?てか、トラックは!?」
フレアはロイドとアクアに問いかけた。
ロイド「トラックによる襲撃は戦士の皆様とアルドラス教官のおかげで抑える事が出来ました。そのデカブツはガロンさんが倒してくれました。」
ロイドは事件の概要をフレアに伝えた。
アクア「フレアが倒れているところをロイドが助けてくれた。きちんと礼を言うんだ」
アクアが追記するようにフレアに教えた。
フレア「…ありがとう、助かった」
フレアはロイドにそう感謝を告げた。
ロイド「そうですか。しかし、かなりの被害ですよ」
ロイドはフレアにそう告げた。
驚くフレアを他所にロイドは片手にある資料を読み上げた。
ロイド「死者625人、重傷者862人、意識が不明な人は1000を超えている。建物の被害損額も尋常じゃない。」
フレア「おい待てよ、んでそんなのここで読みあげんだよ」
ロイドの言動にフレアは苛立ち、問い詰めた。
ロイド「助かったと言いますけど、こうして救えなかったもの、護れなかったものが多くいる。責任の無いその発言がどうしても癪だったのでここで伝えさせてもらいました。」
ロイドは眉間に皺を寄せながら、その本心を打ち明けた。
フレア「なんだよそれ!テメェなんなんだよ!」
アクア「フレア!」
フレアは無理に身体を起こし、ロイドの胸ぐらを掴もうとした。アクアはなんとかフレアを抑えた。
当然、その出来事を見た周囲の人達は騒然としていた。
ロイド「動かせれますか…なら、もっと護る事が出来たでしょうに…」
ロイドがフレアの様子を見て、続けて発言しようとしたその時だった。
「そこまでだ!」
怒号のような制止の声が医療室に響いた。
フレア達が後ろを振り返ると、そこにはアルドラスがいた。
アルドラス「ここで揉めたところでどうにかなるわけではない。」
アルドラスはフレア達に歩み寄った。
アルドラス「誰かを責めたところで、過去を悔いたところで、解決はしない。大事なのは今をどうするか、これからどうするかだ」
アルドラスは怒るような真剣な表情でフレア達にそう叱った。
ロイド「…そうですね。フレアさん、先程の無礼な発言、大変申し訳ありませんでした。」
気付かされたロイドはフレアに対して頭を下げた。
フレア「いいよ、こっちも悪かった。何も出来なくて」
フレアも謝罪をした。
アルドラス「フレア、身体は大丈夫か?」
アルドラスはフレアに顔を向けて、そう訊ねた。
フレア「ん?まぁ、全然動かせれるけど」
フレアは手を握ったり、腕を回したりして返答した。
アルドラス「わかった。ならば、ついてこい」
アルドラスはフレアに背を向け、ここを去ろうと移動した。
フレアはわからないと言わんばかりの表情を浮かべるも、とりあえず彼の後を追い、ロイドとアクアもその後に続いていった。
そうして辿り着いたのは会議室。
長方形の机を囲うように幾つものの椅子が設置され、その向こうには大きなモニターが置かれていた。
椅子には全戦士とウィングドホースの全員、そして未来隊長が居座っていた。
その中でアルドラスはモニターの前で腕を組み、立っていた。
アルドラス「まず、今回の事件について、我々は出来る限りの事を尽くしはした。だが、多くの一般市民、数人のCSF隊員が負傷、若しくは死亡した。」
アルドラスは鬼のような表情でそう言った。
それを聞いていた戦士達は俯いたり、沈黙したままだったりと反応は様々であった。
アルドラスは話を続ける。
アルドラス「これは明らかな我々の実力不足、そこでだ!二度とこの事が無いよう!これから来るだろう襲撃に備える為に!ウィングドホースによる訓練と敵の情報について説明を行う!」
その発言を聞いた戦士達は各々、覚悟を決めていた。
アルドラス「ではロイド、今回の件について説明を頼んだ」
アルドラスはモニターの前から退けるように移動した。
ロイド「了解しました」
端にいたロイドはパソコンを操作し、その画面をモニターに映し出した。
モニターには爆撃を受けたヘルズケージの画像が映し出された。
ロイド「まず、トラック襲撃を実行した組織の前に話す事があります。」
ロイドがそう言い出した。
戦士達はなんだと思っていた。
未来隊長「続けて」
それに対して落ち着いた様子の未来隊長が指示した。
ロイドが頷き返した。
ロイド「ラグナという男によりヘルズケージは爆撃を受け、多くの犯罪者が脱獄をしました。その数は六人。その中でハンス、エドバルド、アレスは戦士の方々が倒してくれました。そして、残る三人はこれから説明する犯罪組織に所属しています。」
ロイド「その組織の名はヘリアデス、かつて世界の脅威として恐れられたヘリオス社の野望を継ぐ者達と称しています。」
ロイドは再度パソコンを操作する。
すると、モニターには組織に所属する人物の顔写真とその詳細が書き記されたものが映し出された。
そしてロイドは一人一人、ヘリアデスの構成員を紹介し始めた。
ラグナ・エレスト
爆撃弾の能力を所有しており、ヘルズケージを襲撃した人物。剣によって撃破された。
アレス・アーマード
全身に改造を施し、サイボーグと化した男。結果的にガロンが撃破した。
ロイド「さて、今紹介したのが我々が退治した幹部です。次に残りの脱獄犯であるヘリアデスの幹部について」
シラー・ムクロ
組織の中で最年少。死神の化身 デスサイズを使役する能力を持つ。
メティス・ノーレッジ
組織の科学者であり、多くの薬品を生み出している。
へズ・チェンリー
眼帯をした盲目の男で、優れた体術と帯の能力を駆使してくる。
ロイド「そして、この三人に関しては危険です。」
ロイドはパソコンを操作し、三つの顔写真を選出し、それを纏める。
ベローナ・ブリギッド
連続殺人鬼であり、幾つ物の武器を生成する ヘパイストスという特異能力を使ってくる。
ドレイク・B・アレットマーク
各地で人殺しを行っている人物で、組織のNo.2である。
そして、そんなヘリアデスを率いるのが首領のフェイトン。高度な技術を兼ね備えている。
ロイド「以上がヘリアデスの幹部についてです。」
そういうと、ロイドは遠隔操作でモニターの映像を消した。
アルドラス(かつて、正義組織の特殊部隊として闘っていたアイツがまさかそちらにつく事になるとはな…何があったんだ、ドレイク)
その中でアルドラスは何処か悲しそうな様子で、かつての仲間の事を思っていた。
場面は変わり、ヘリアデスのアジト。
その中でフェイトンは鎧のようなモノを完成させていた。
その隣の机上には銀色の筒状のモノと指で摘める程の大きさはあるだろう、ルービックキューブのようなものが幾つもあった。
「ねぇ、首領様ー」
そんなフェイトンにベローナが歩きながら近付く。
フェイトン「おや、どうした?」
フェイトンはベローナの方へと身体を向けた。
ベローナ「トラックでかなり殺したけどさぁー、なんか物足りなーい」
ベローナは退屈そうな顔を浮かべながらそう言った。
フェイトン「そうか…」
フェイトンはベローナの様子を見て、計画について練り直そうとした。
「五月蝿いぞ、小娘が」
すると、遠くから二つの人影が足音を鳴らしながら現れる。
そうして、その影が晴れ、姿が顕となった。
ベローナに言葉を吐きかけた一人の男は黄色メッシュの黒髪に紺色の男性用中華服に眼帯といったものを身に着けていた。
もう一方の方は女性で、緑の長髪と黄色の眼の容姿に白衣を身に纏い、白のサテングローブをし、額にはアイマスクが付けていた。
ベローナ「げっ、へズ…」
ベローナは眼帯の男 へズ・チェンリーに対して嫌悪した。
へズ「某らの首領、フェイトン様は崇高な計画を練られているのだぞ。阻害するのであれば、仲間とて殺そう。」
へズは殺意を放ちながら手刀を構えていた。
「そう言わないであげて…まぁ、別に私は金と場所と時間さえあればこれといった問題はないけどね」
白衣の女 メティス・ノーレッジはへズを抑えながらも、何処か興味無さそうな発言をしていた。
ベローナ「相変わらずつまんない考えしてるね、おばさん」
ベローナは自分より年上のメティスを見て、本音を吐いた。
それを聞いたメティスはベローナに目を遣ったが、何も言わなかった。
ベローナ「まぁ、それはそうとへズさぁ…」
ベローナはへズに近付くと片手で太刀を生成し、それをへズの首に向けた。
ベローナ「仲間とて殺すとか言ってたよね?んじゃあさ、殺ってみてよ」
ベローナは舐め腐った笑顔でへズを挑発した。
へズ「良かろう…殺すという言葉はその覚悟がある者が使うべきもの、無責任で口だけの軟弱者とは違う」
へズは能力で鋼鉄の帯を生成し、それを片手に巻き付けた。
ベローナ「かっこいいねェー」
そう言うとベローナはへズに太刀を振るう。
へズもベローナの腹部に目掛けて、拳を振るった。
その時だった。
フェイトン「おい…」
フェイトンがドスの効いた声で二人に制止をかけた。
ベローナとへズはそれを聞いて止まり、フェイトンに戦慄した。
フェイトン「邪魔をするな、煩わしい」
鋭い目で睨むフェイトンは続けて二人にそう言った。
ベローナは太刀を消し、へズは帯を纏う拳を下ろした。
メティス(あーあ、めちゃくちゃするから…ま、私には関係ないけどさ)
メティスはフェイトンから目を逸らすと、額に付けていたアイマスクをかけた。
フェイトン「我らは今は亡きアザトース様の野望を継ぎ、それを成し遂げるのだ。」
フェイトンは片手を胸に置き、もう片方の手を広げるような体制で、独りで語り始めた。
フェイトン「それ故に今の時代を変える必要がある。我らが正すべきなのだ。」
ドレイク「だから、正義組織とその管理下にある街を壊すのだろう?」
フェイトンが演説の如く語る中、アジトにドレイクが現れた。
フェイトン「おや、来たかドレイク」
フェイトンは広げていた片腕を腰に回し、ドレイクに近づいた。
フェイトン「その通りだ、君とて経験しただろう。数十年前の出来事を…」
フェイトンはドレイクの問いに答えていると、歩み寄るその足を止めた。
ドレイク「当然だ、あれは悪夢にして最悪だった。もうこれ以上ヤツらの好きにはさせない。」
ドレイクは己の掌を眺め、それを握り締める。
嫌な記憶が脳裏にフラッシュバックしているからか、力強く目を瞑っていた。
フェイトン「そうだろう…」
フェイトンはドレイクに仮面を手渡した。
瞼を開けたドレイクはそれを受け取り、懐にしまった。
すると、フェイトンは明後日の方向へと目を遣った。
フェイトン「そこにいるのはわかっている。出てきたらどうだ?」
フェイトンは誰も無いはずの家具に声をかけた。
すると、その場に隠れていただろう人物はアジトの扉に向かって走り出した。
なんとそれはクヴェレ・アラクネであった。
フェイトン「…ドレイク、ヤツを始末してくれ。このままではまずい」
フェイトンはドレイクにそう指示した。
ドレイク「了解した」
ドレイクはそれに応じ、クヴェレを追いかけた。
クロノス社の体育館にて、戦士達はアルドラス率いるウィングドホースとの修行を行っていた。
「さぁ!全力でかかって来い!」
全身を雷のような模様が入った黒のスーツで覆い、腰にはベルト、背中からマントがなびいている男、ウィングドホースの一人 雷郷 雄助がレオとグリンに対して大きな声でそう言葉をかけた。
レオ「そうさせてもらうぜ!」
レオは両手足に炎を纏いながら、雷郷に向かって一直線に走る。
グリン「…本当に撃っても大丈夫なんですか?その装備で」
グリンは不安に思い、雷郷に訊いた。
雷郷「構わないとも!私を侮っては困るな!」
雷郷は構えに入った。
雷郷はマイティーチェンジャーというベルトを使って、変身する。
それにより雷郷は身体能力が向上するのである。
また、彼専用の武器があるのだが、それは後の話。
レオはそのまま雷郷に炎の拳を振るった。
だが、雷郷はそれを片手で受け止めた。
レオ「どーすんだ?燃えちまうぜ!」
レオは雷郷の脇腹目掛けて蹴り上げた。
だが、雷郷はその足を捕らえた。
雷郷「問題ないとも!私は超絶無敵!」
雷郷は片足を地面に叩きつけると、そこから衝撃波が放たれ、とてつもない振動が起こった。
雷郷「超正義執行人だからだ!!」
そうして雷郷は身体を反り、レオを振り回した。
レオ「うおぉあああ!マジかよォ!!」
レオは為す術なく、そのまま振り回された。
グリン「レオッ!」
グリンはベルデゾロを雷郷に向ける。
グリン(レオを巻き込んでしまう…どうすれば……!)
グリンの脳裏に恐怖が走り、引き金を引けなかった。
そんなグリンに対して雷郷はレオをぶん投げた。
グリン「レオッ!!」
グリンはそのまま飛んできたレオに直撃した。
グリン「くっ…!」
レオ「あ〜あ〜世界が回るぅ〜星が見えるぅ〜」
グリンはそのまま倒れてしまった。
一方でレオは振り回されたからか、目が回っていた。
雷郷「まだまだだな!まずレオは攻撃が単純過ぎる!もう少し複雑にせよ!そして、グリンは臆しすぎだ!己の腕を信じよ!」
雷郷は二人に対してそうアドバイスをかけた。
雷郷「さぁ!立て!君達はこんなものではなかろう!」
雷郷はそう訊いた。
すると、二人は身体を起き上がらせた。
レオ「やってやる!」
グリン「はい!まだやれます!」
そして、意気込みを伝えた。
一方で牙禅とライトはロイドと手合わせしていた。
ロイドが使うのは投げと蹴りを主体にした体術であった。
ライト「はあぁぁぁぁぁっ!」
ライトは光で生成した直剣を両手に持ち、ロイドの方へと接近していた。
そうして、ライトはその光の直剣を振るった。
ロイド「あまりにも攻撃が単調すぎます」
だが、ロイドはその攻撃を回避し、その腕を捕らえた。
ロイド「強敵の場合、最悪死にますよ」
そして、そのままロイドは彼を投げ飛ばした。
ライト「うわぁっ!?」
そのままライトは地面に叩きつけられた。
その隙をついて両手に波動を纏った牙禅がロイドに襲いかかってきた。
ロイド「意外ですね」
ロイドは牙禅の方へと振り向き、全ての攻撃を受け流していた。
牙禅は平然と、そのまま攻撃を続けた。
ロイド「生真面目で正義一筋な貴方が不意打ちとは」
ゾーンに入った牙禅はロイドの発言について何の返答も無かった。
ロイド(ライトさんについてはまだ成長の余地がある。そして、牙禅さんについては物凄い。これはすぐに強くなれそうです)
ロイドは内心でライトと牙禅を評価していた。
別のところでは数多もののボールが床と天井を叩きつけるかのように勢いよく跳ね返っていた。
剣(右、左、上下、前後ろ…)
不規則に動くそれらを剣は太刀で斬っていた。
メビウス(予測すんの厳しいな、こいつは…)
メビウスは高速で移動しながら、ボールを回避していた。
「この二人、案の定凄いねー。流石は組織のNo,1とNo,2」
黄色の髪に緑と黄色のオッドアイの容姿と黄緑のラインが入ったロングコートのような黒装束を身に纏い、ゴーグルが付いた帽子とヘッドホンが特徴の少年 ラージ・バウンドマンが二人の様子を遠くで眺めていた。
彼もウィングドホースの一人であり、その中で彼は最年少であった。
ラージ「さぁ!さぁ!もっと遊んでね!」
ラージは手を叩きながら、楽しそうな様子を見せた。
等身大以上はあるだろう斧が振るわれ、ブラックとガロンはそれを回避した。
「凄いね!お姉さん驚いちゃった!」
その斧を振り回していたのは足の付け根まで伸ばした銀色の長髪に赤紫眼の可憐な容姿にピンクのラインが入ったロングコートのような黒装束を身に纏った女性であった。
彼女は糸鉄 結衣、同じくウィングドホースの一人である。
ブラック「まぁ、特殊な血を宿しているからな…」
ブラックは二つの太刀を合わせ、大きな直剣として結衣に振るった。
結衣「それはごめんね!でも、だからって手加減はしないよ!」
結衣は周りに石、泡沫、火の玉、旋回する風が現れ、公転し始めた。
結衣は斧と能力の地水火風を駆使して、戦闘を行う。
ブラック「…想定している」
ガロン「わかったよ」
ブラックとガロンは結衣に対して戦闘態勢に入った。
そうしてアクアとフレアはアルドラスの拳による攻撃を回避していた。
フレア「危ねぇッ!」
アルドラス「ハァッ!」
少し油断していたフレアにアルドラスは続けて、そのままで回し蹴りをした。
フレア「ぐっ…!」
フレアは見事にそれを受けるも、なんとか痛みに耐えた。
フレア「これくらい、なんて事ねぇよ!」
そうして、その足を捕らえた。
アルドラス「フレア!これが大鎌なら貴様はとっくに死んでいるぞ!」
そう叱責すると、アルドラスは跳び、その身体を旋回させた。
フレア「うおっ!?」
それによりフレアの身体も回ってしまい、地面に打ち付けられた。
それに続いてアルドラスの拳がフレアに襲いかかる。
フレア「あっぶねっ!」
フレアは咄嗟にその攻撃を回避したその時だった。
アクア「フレア!!」
アクアはアルドラスに接近し、右手から放たれた水の刃を振るった。
それに気付いたアルドラスは転がるようにして攻撃を回避した。
アルドラス「なかなかだ!ギア!フル!二倍!」
アルドラスの全身から赤いオーラが放たれる。
アルドラスの能力はギアである。
身体能力など、人が兼ね備える全ての力の調整をする事が可能である。
例えば破壊力の場合だと鉄球のようにもなれば、虫の突進のようにもなる。
フレア「あれで本気じゃねぇってのかよ!?」
アクア「まぁ、そうだろうな。恐ろしい程凄いからな」
まだ実力を出していなかったアルドラスに驚くフレアとは対称的にアクアは薄々と予感していた。
アルドラス「手合わせしてどんなものかはわかった。試した事については謝ろう。そのお詫びとして…」
屈んでいた身体を起こしたアルドラスは両拳を打ち付けた。
アルドラス「少し本気を出すとしよう!」
そして、真剣な表情でアクアとフレアに伝達した。
フレア「それお詫びになってんのか!?」
フレアはアルドラスの発言にツッコミを入れた。
アクア「了解しました!」
アクアは臆する事無く、戦闘態勢に入った。
フレア「んで、納得すんだよ!あぁ!もういい!来いよ!」
フレアは自暴自棄になりがらも、アクアと同じく身構えた。
そうした次の瞬間、アルドラスがフレア達の懐に入った。
アルドラス「油断しすぎた!戦闘ならば死ぬぞ!」
そう指摘するとアルドラスはフレアの腹部に目掛けてパンチを繰り出した。
フレア「ゴフッ…!」
そのままフレアは勢いよく吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
フレア「強…すぎ…んだろ……」
受けた衝撃によりフレアの意識は朦朧とし、アルドラスとアクアの模擬戦を最後に気を失った。
「フレア…フレア……」
目の前が真っ暗な中、フレアはその声に呼応するように意識を覚ます。
だが、その瞼を開ける事も、身体を動かす事も出来なかった。
「フレア…フレア…」
響くように、静かに聞こえる呼びかける声にフレアは聞き覚えがあった。
フレア(…親父か?)
そう、それはバーニングのものであった。
フレア「なん…で?」
フレアはその声に訊ねた。
何故、ここにいるのか?
今まで何処にいたのかと
だが、バーニングは何も答えてくれなかった。
すると、辺りが白く発光した。
フレア「親…父……」
微かに、フレアの意識は再び途切れた。
「フレア…!フレア…!!」
すると、再びフレアを呼ぶ声が聞こえた。
しかし、それは明らかにバーニングのものでは無かった。
その声に呼応するようにフレアは目を覚ました。
そこにいたのはアクアとアルドラスであった。
アクア「フレア!無事で良かった!」
アルドラス「すまない事をした」
アクアはフレアが目を覚ました事に安心し、心から喜んだ。
アルドラスはフレアに対して謝罪をした。
フレア「…問題ねぇよ、ヘマした」
フレアは倒れていたその身体を起こした。
フレア「今さっき、夢ん中で親父にあった気がした。」
フレアは片手で頭を抑えながらそう発言した。
アルドラス「バーニングの事か」
すると、アルドラスはその人物を言い当てた。
フレア「は?なんでわかって…?」
その事にフレアは驚愕した。
アクア「知らないのか?アルドラス教官は父さんと母さんと同じシリウスの戦士なんだ」
アクアはフレアにアルドラスの事を伝えた。
その言葉を聞いたフレアは瞠目した。
アルドラス「説明しても良さそうだな」
すると、アルドラスは覆面を脱いだ。
そこにあったのは黒髪に無精髭、水色眼の厳つく、逞しい顔であった。
アルドラス「かつて私達はシリウス社の戦士として犯罪組織 ヘリオス社に立ち向かった。その首領が果たそうとしていた野望を止める為にな」
アルドラスはフレアに事情を説明していた。
フレア「ヘリオス社とかシリウス社とかなんなんだよ?」
フレアはアルドラスに訊ねた。
アルドラス「わかった。その組織についても説明しよう。」
そうして、アルドラスはヘリオス社について説明をした。
ヘリオス社首領 アザトース・ソムホルスが設立し、率いる犯罪組織。
全てを蹂躙し、世界を支配するという野望を掲げ、大勢の人間を虐殺した。
その活動を実現する程に組織の勢力は拡大していて、また幹部の実力も圧倒的なものであった。
それらに対抗する為に創られたのがシリウス社であり、結果としてヘリオス社は壊滅した。
後にシリウス社はそれを率いる隊長が交代した事により、クロノス社へとなった。
フレア「成程な…今回のヘリアデスはまんまその野望を継いだって事か」
アルドラスの説明を聞いたフレアは自分の解釈を述べた。
アルドラス「いや、違う」
アルドラスはいつの間にか手にし、飲んでいたいちごミルクを口から離した。
フレア「あ?」
その言葉にフレアは疑問に思った。
アルドラス「ヘリオス社は…」
アルドラスはヘリオス社について何かを述べた。
その何かが明かされるのは後の事。
その頃、クヴェレは街中を逃げ回っていた。
「うおっ!?なんだ!?」
「きゃあっ!」
「おい!危ねぇぞ!」
クヴェレは人混みをかき分け、全力で走っていた。
その後をドレイクが歩いて追跡する。
クヴェレ「アザトースの意志を継ぐだと?冗談じゃねぇ!あんなに死んだってのに!」
その中で、頭の中に嫌な記憶が過ぎり、その頭を片手で抑えた。
クヴェレ「あんなに苦しんだのに!辛かったのによ!」
クヴェレはその考えを払拭しようと逃げる事に集中した。
クヴェレは人混みを利用して、路地裏へと入っていった。
そうして曲がり角を利用して、クヴェレはなんとかドレイクの魔の手から逃れた。
クヴェレ「ど、どうだ…?」
クヴェレは辺りを見渡し、ドレイクの姿を確認する。
彼は見えなかった。
クヴェレ「上手く撒いたみたいだな…」
クヴェレは一息ついて、安心した。
そのまま後退していくと、何かにぶつかった。
クヴェレ「あぁ、すまねぇ…」
クヴェレはそれが人であるとわかると、その人物に謝罪をした。
だが、その人を見た瞬間、その表情は恐怖のものへと一変した。
ドレイク「問題無い。どの道お前はここで死ぬ。それだけの事だ」
ドレイクはクヴェレを見下ろしながら篭手を構え直した。
クヴェレ「なぁ、こっちは死にたくねぇんだよ」
クヴェレはドレイクから逃れようと、一歩また一歩と離れていく。
クヴェレ「悪ぃけど、見逃してやってくれねぇか?」
クヴェレは懐からナイフを取り出そうとする。
ドレイク「無理な話だ」
ドレイクはクヴェレに近付いて来る。
クヴェレ「そうかよ…!」
クヴェレはナイフを投げた。
ドレイクは素早くそれを回避した。
そして、クヴェレの顔面に拳を構えた。
ドレイク「無駄な足掻きだったな」
クヴェレ「そいつは…どうかな」
すると、クヴェレはスマホに映し出されたボタンを押した。
ドレイク「何をした?」
ドレイクはクヴェレを睨んだ。
クヴェレ「諦めなきゃ、大抵なんとかなるってなぁ…親父が言ってたわ」
クヴェレは歯を見せるような笑みを浮かべた。
ふと、ドレイクはクヴェレの持つスマホを見る。
それは正義組織に緊急通報するものだった。
ドレイク「おのれ…愚かな!」
ドレイクは一発でクヴェレの顔面を殴り潰した。
そのままクヴェレは事切れて倒れた。
ドレイク「…掟一つ、死は不平等であり、平等である。」
ドレイクは拳を額の前に置き、何かを唱えながら祈った。
フェイトン「死とは種族や階級など関係無しに皆にあり、だが、不平等で理不尽である。」
ソファで寛ぐフェイトンは天井を眺めながらドレイクの言葉の意味を述べていた。
フェイトン「フフフ…哲学のようで宗教的な考え方だ」
フェイトンはその言葉に感心していた。
フェイトン「まぁ、そんな事は別にどうでもいい」
フェイトンはソファから立ち上がった。
フェイトン「さぁ!遂に始まる!第二幕の殺戮が!」
清々しい表情を浮かべ、両手を広げながらこれからの出来事に対して楽しそうな様子を見せた。
次回 第拾話 「太陽の子達」