第参話「黒ノ狩人と悪魔ノ子」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
真夜中、人気の無い街にてただ一人、男が息を切らしながら全力で走っている人がいた。
その人を追いかける影が三つあった。
建物を瞬時に飛び移り、まるで跳ねるかのようにそれらは移動をしていた。
汗だくで、呼吸が荒い。
男の体力が尽きるのも時間の問題だ。
三つの影が男よりも速いからか距離も徐々に追い詰められている。
その時、ついに限界を迎えてしまったのか男は足を踏み外し、そのまま前に倒れた。
息切れを起こしていた男は自身の肉体を思い通りに動かす事が出来なかった。
三つの影はそんな男を取り囲み、見下ろしていた。
その影は男より大きく、ウサギのような頭と豹の胴体を兼ね備えていた。
男「殺さな…いで…ください……どう…か……」
男は息切れを起こしながら、三つの影に許しを乞うた。
「…悪いなァ……駄目だ……」
一つの影がしゃがみながらそう答えた。
男「助…けて……くだ……さい…」
彼らは無常であると男は理解するも、それでも許しを乞うた。
「ハッハッハ!惨めが過ぎるぜェ!」
もう一つの影が男の情けない姿を見るやいなや嘲り笑う。
「俺達も食わなきゃ死ぬんだよ、だから餌になってくれや」
別の影がそう言うと、男を肩に乗せるように担ぎ込んだ。
男「嫌だ!…やめてくれ!…頼む……!!」
「うっせぇよ!ジジイ!」
男が必死で大きな声で命乞いをした。
このままだと気付かれてマズいと思ったのと、彼らの特性として耳が良いあまりうるさいと思ったからか一つの影は男の頭を叩いた。
叩いて黙らせるはずだった。
しかし、それは度が過ぎてしまった。
男の頭から血が流れてしまったのだ。
「…おい、何してんだ」
「いやー!わりィわりィ!やり過ぎた!」
担いだ影がその手で殺めた影を鋭い目で睨む。
すると、その影は軽々しく謝った。
「…おい、こいつ持って帰るぞ」
しゃがんでいた影がそう指示した。
「めんどくせぇなァ…」
「お前のせいだ。責任取れ」
すると、一つの影が男の亡骸を抱え、そのまま飛び跳ねながらこの場を去った。
もう一つの影も飛び跳ね、静かに去っていった。
「おい!待ってくれよォ!」
最後の影が二つの影の後を追うように飛び跳ねて行った。
翌日の朝、道端に付着していた血痕を囲うようにバリケードテープが張り巡らされていた。
そこでは興味本位に集まって来た一般市民や事情聴取や証拠収集の為に動いているCSFと多くの人がそこにいた。
CSF隊員A「真夜中に殺害か…死体は無いが血痕はある…」
一人のCSF隊員が現場の状況を見ながら、そう呟いた。
CSF隊員B「先輩、血痕についてですが…」
CSF隊員A「どうした?」
遠くからやって来た一人のCSF隊員が先輩と呼ばれるCSF隊員を呼び、引き寄せた。
先輩隊員「こいつは…」
先輩隊員がそれを見るやいなや、自身の目を疑った。
荒廃隊員が撮った写真には血痕があり、それは一つの道しるべとなっていた。
また、ところどころにオレンジ色の動物の毛や人とは思えない大きくて変わった足跡があり、明らかに人が起こしたものでは無いという事がわかった。
後輩隊員「変ですよね」
先輩隊員「…こいつは人の仕業じゃねぇな」
先輩隊員のその言葉に後輩隊員は頷いていた。
場面は変わり、クロノス社の隊長室にて、ツーブロックと特徴的な前髪が特徴の黒髪に鋭い赤眼と褐色肌の容姿に黒ズボンと黒シャツの上に至るところに紅い甲冑を身に付けた黒のロングコートを羽織り、矢筒を背中に装備していて、首に赤のマフラーを巻いているといった服装をしている男の狩人兼クロノス社 戦士 No,3 ブラック・ガノン。
それともう一人、白髪に赤眼と白肌の容姿に赤のパーカーの上に紺色のクロノス社専用の学生服を着ている少年 クロノス社 戦士 No,4 ガロン・ガノンが未来隊長に呼び出されていた。
そう、依頼として
未来「来てくれてありがとう」
ブラック「…一体何が?」
ブラックが未来隊長に要件を訊いた。
未来「今日か昨日の真夜中に発生した殺人事件についてだ」
ガロン「それって、今騒ぎになっているあの事?」
未来隊長が要件を話す。
すると、何やらガロンには心当たりがあったようだ。
ブラック「…それが何か?」
ブラックは何の事かわからずじまいであった為、未来隊長にその詳細を求めた。
未来「あの事件の犯人が野生の肉食動物のナッツバニーパンサーである事が判明した。」
未来隊長はそう答えた。
ナッツバニーパンサーとは、耳の長い兎のような頭と豹の胴体、毛色はオレンジで鋭い目付きが特徴の肉食動物である。
異常なまでの跳躍力と俊敏な動きで獲物を翻弄し、鋭い爪や牙で仕留める。
四足歩行から二足歩行へと切り替えたりもするが、何よりもその生物の凄いところは人語を解する事である。
獣であるのにも関わらず、ナッツバニーパンサーは人の言葉を使う。
獲物を誘い込んだり、強い生物から己を守る為に人がいると錯覚させたりと彼らなりに活かしていた。
ブラック「…成程、それで狩人である俺の出番と……」
ブラックはその依頼で何をするべきなのかを個人の解釈ではあるものの、理解した。
ガロン「で、僕を呼んだのはブラックのサポートとしてという事?」
ガロンも自分のやる事が何かを理解していた。
未来「そうだね。君達は兄弟故に長い付き合いだ。二人の関係としてもコンビネーションも良好だから、共に組むとして考えるなら最適だと考えた。」
未来隊長は自身の考えをブラックとガロンに提示した。
ガロン「成程ね、いいね!」
ガロンは納得し、笑みを浮かべながら未来隊長に向けてサムズアップをした。
ブラック「ガロン、隊長の前でそれはどうなんだ…」
ブラックは目を閉じながら呆れた様子でガロンに注意していた。
未来「あはは、大丈夫だよ。気にしていないし、なんなら気軽に話しかけてくれた方が僕は嬉しい。」
未来隊長は笑顔を浮かべながらそう答えた。
未来隊長はその若々しい容姿とは反対に器が大きく、心が広い人である。
それは生まれ持った性格からか、将又育ってきた環境からなのかはクロノス社の人達全員にはわからないものであった。
ブラック「わかりました。俺達に任せてください…」
ガロン「兄ちゃんと同意見です♪」
ブラックは未来隊長に頭を下げて、依頼を受ける事を決めた。
それはガロンも同じであった。
そして、時は経ち、現在。
ブラックとガロンは特殊車両に乗車し、運ばれながらナッツバニーパンサーが最後に確認されたであろう場所 森へと向かった。
その中でブラックは座りながら自身が所有する二つの刀を手入れしていた。
それとは別にブラックと向かい合うように座っていたガロンはスマホでネットサーフィンをしていた。
ガロン「ねぇねぇ、兄ちゃんさ」
ブラック「?…どうした?」
ガロンがブラックに声をかけると、当の本人はそれに反応した。
ガロン「ブラックが所属している狩人ってさ、どんなところなの?」
ガロンはブラックにそう訊いた。
ブラック「そうか…話していなかったな……」
ブラックはガロンに狩人についての説明をし始めた。
狩人、野生動物の狩猟を行う職業である。
捕獲、管理、保護、そして緊急事態の場合は駆除といった活動をしている。
生活の中における衣食住のうちの衣食を補っているのがブラックが所属する狩人である。
ガロン「成程ね、随分と大変な仕事なんだね」
ブラックの説明を聞く為にスマホをいじる手を止めていたガロンは狩人の過酷さを身に染みる程理解した。
とは言えど、ガロン自身は狩人を経験した事が無い為、想像以外でしかその苦労を得る方法が無かった。
ブラック「…俺も訊きたい事がある。そっちの方はどうなんだ?」
ガロン「ん?何が?」
ブラックの質問の要件がわからず、ガロンは訊き返した。
ブラック「学校生活とカオスについてだ…」
ブラックは二つの事について、訊こうとしていた。
一つは学校生活について、もう一つはカオスというものについて
ガロン「あーっとね、学校生活は充実しているよ♪悪魔についてもちゃんということを聞いてくれてるから助かっている♪」
ガロンは明るそうにそう話した。
ブラックとガロンの家系 ガノンには悪魔の血が流れている。
悪魔の血は常人よりも優れた身体能力と耐久力を兼ね備えている。
その中で少数でしかも稀に宿るモノがある。それが悪魔、名はカオス。
悪魔の肉体の一部を借りる事が出来る。
二人の過去の話。
ブラックとガロンは兄弟であり、狩りや闘いからかけ離れた日常を送っていた。
父親はおらず、二人とも女手一つで育てられた。
午後を過ぎたお昼のとある公園にて
ブラック「オラァ!行くぜェ!!」
スケボーに乗っていたブラックはガゼルフリップを繰り出した。
友達A「相変わらずすげぇな!ブラック」
友達B「その才能、マジで羨ましいぜ!」
ブラックの友達二人はそのパフォーマンスを見るやいなや褒め称えていた。
ブラックは二人の友達とスケボーで遊び、楽しくやっていた。性格も今の冷静で暗いなものとは真逆で明朗で活発な人であった。
同時刻、場面は変わり、学校。
ガロン「やっほー、元気?」
クラスメイトA「ガロンじゃん!元気だよ!」
ガロン「良かった♪そうだ!今日さ、ここのカフェに寄らない?」
クラスメイトA「あぁ!ここ?良いよ!」
クラスメイトB「楽しそうな話してんじゃん!自分もいい?」
ガロン「オーケーだよ♪」
一方でガロンは今と変わらずの性格で明るく振舞い、学校生活を送っていた。
だが、ある日をきっかけに二人の人生は大きく崩れる事になった。
ブラックはいつも通り、友達二人とスケボーで遊んでいたある日の事であった。
ブラック「よっしゃ!別のところに行くかァ!」
ブラックは二人の友達にそう告げると、そのままスケボーを滑らせながら移動した。
友達A「おい待て!ブラック!止まれ!!」
ブラック「え?」
一人の友達の制止の声を聞いて、声の主の方へと顔を向けた次の瞬間。
とてつもない衝突音と共にブラックの見る世界が反転した。そしてそのまま地面に打ち付けられ、動く事が出来なかった。
そう、ブラックはトラックに轢かれてしまった。
そのままブラックは病院に搬送されていった。
ブラックの母親「ブラック!!」
ガロン「兄ちゃん!!大丈夫!?」
病室にて、ブラックはベットの上で寝かせられていた。
そこでは友達二人がブラックを心配するように見ており、その中で母親と弟であるガロンが駆けつけてきた。
ブラック「大丈夫だが…なんでだ?」
ブラックは自身について疑問に思っていた。
トラックに轢かれた人間は本来、助からないはずだ。
すぐに息を引き取ってしまうか、重傷を負うかのどちらかである。しかし、死亡する以前に重傷ではなく、軽い怪我で済んでいた。
「ブラックさん、少しよろしいですか?」
そんな考えの中、病室に医者が入ってきた。
話があるとブラックに要件を話した。
友達二人をそのまま帰らせ、母親とガロンと共に医者の話を聞いた。
医者「ブラックさん、あなたの血…なんと言えばいいのかはわかりませんが、少し特殊なのですが、何か心当たりはありませんか?」
医者の問いにブラックは思い当たるものが無かった。
それはガロンも同じであった。
母親「私達、ガノン家は悪魔の血という身体能力と耐久力が優れている性質を持っています。」
だが、そんな中、母親が事実を話した。
その事にブラックは驚いた。
医者「成程、もし仮にそれが本当なら辻褄が合う。」
本来の人間なら死んでいるであるはずだが、悪魔の血によりブラックは死ぬ事は無かった。
ブラック(なんだ、そんなに大した事じゃないのなら…)
もう一度スケボーをやれるのだとブラックは安心していた。
ブラックは一週間入院する事となり、なんとか身体を動かせれる程にまで回復していった。
ブラックはいつも通りにスケボーを触れようとしたその時だった。
突如、自身の手が震え出した。
ブラック「…は?」
何故、自分が恐怖しているのかがわからないまま、ブラックは腰を抜かし、怯える事になった。
そうして理解していった。
自分はトラックの事故のせいで二度とスケボーが出来なくなった。
それは肉体的にでは無く、精神的な意味である。
そういう運命なのか、悪魔の悪戯なのかはわからないが、その恐怖が、トラウマが、自分の趣味を奪われてしまった事にブラックは絶望し、自暴自棄となっていた。
「おい、アイツ…」
「ゲッ…悪魔の子だ……」
「あんまり言うなよ、近づかない方がいい…」
誰かが広めたのだろう。
この事はガロンが通っていた学校にも広まり、孤立していた。周りから悪魔だと忌み嫌われ、後ろ指を指されていた。
それだけにとどまらず、ガロンの中にいた悪魔 カオスは身勝手な事にガロンと親しく楽しそうに話していた人達を呪い殺した。
それにより、ガロンの周りには人がいなくなり、独りぼっちとなってしまった。
ガロン「あはは…みんな、酷いなー……」
その時の彼は変わらずの様子で明るく振舞っていた。しかし、それは表の話。
その裏では酷く落ち込み、悲しんでいた。
ブラック「…俺は……俺は………」
自暴自棄となっていたブラックは草原へと足を踏み入れていた。
趣味を無くし、自分らしさを失ったブラックに生きる意味なんてない、生き甲斐を失っていたブラックはこのまま獣の餌になろうと考えていた。
そんな事を考えていると、牛の角を生やし、全身が毛に覆われた巨大な獣がブラックに向かって襲いかかってきた。
このまま突撃するのか、将又食われて死ぬかとそんな事を思っていた。
しかし、そこを一人の狩人に助けられた。
狩人はその獣に矢を放った。それは獣の脳に直撃し、そのまま横向きに倒れて死んでいった。
狩人「おい小僧、危ねぇぞ」
ブラック「…あなたは?」
狩人「ここら辺を取り締まっている狩人だ」
そんなやり取りをした後、ブラックは手伝いとして狩人のテントを建てたり、まきを集めたりしていた。
それらを終えると、ブラック達は焚き火を中心にして、その狩人と対話する事になった。
狩人「んで、なんでここにいた?こんな時間帯に…普通に考えりゃ危ねぇだろ」
注意しながら事情を訊いた狩人。
ブラックは事の経緯や心情を話した。
スケボーが出来なくなった事、生きる意味を無くしたから死のうと思った事を
すると、それを聞いた狩人はブラックにこう伝えた。
狩人「夢とかやり甲斐が無くなるのは辛い。それが無ければ人は生きていけない。だが、人は新しく作る事が出来る。無くなったから終わりじゃなくて、そこから始めていけると考えていけ。それだけが全てでは無いからな」
その言葉を聞いたブラックの心にあった灯火は蘇り、再び生きようと考えた。
それと同時に、無意識なのか、その狩人の影響からか自身も狩人になる事を決意した。
そうして、未来隊長と出会い、クロノス社の戦士としても生きる事となった。
ガロン「なんでそんな話をしたの?」
話は戻り、ガロンがブラックに何故、その話をしたのかを訊いた。
すると、ブラックが口を開いた。
ブラック「…不安だった。俺のせいでガロンの人生を壊してしまったから」
ブラックがガロンに学校生活とカオスの様子について訊いたのはブラック自身、ガロンを心配していたからである。
自分の不注意のせいで自身の人生もガロンの人生も壊してしまった。
ブラックは今に至るまでずっとガロンに対しての罪悪案を抱いていた。
ガロン「…兄ちゃん、僕は気にしていないよ」
ガロンはブラックにそう声をかけた。
ブラック「ガロン…」
その言葉を聞いて、ブラックは我に返った。
ガロン「兄ちゃんのせいでお互い、人生は壊された。けど、そのおかげで今の人生がある。今は良い人生を送っている。だから、申し訳思わなくても良いんだよ」
ガロンの言葉はブラックの心に響いた。
そのおかげか、救われたとブラックはそんな気がした。
ブラック「…そうか」
ブラックがそう呟いたと同時、特殊車両が止まった。
ブラック「…着いたみたいだ、行くぞ」
ブラックはガロンにそう呼びかけると、特殊車両から出ていった。
暗い闇夜の中をブラックとガロンは警戒しながら歩いていた。
ブラック「ナッツバニーパンサーは異常なまでの跳躍力と俊敏な動きで敵を翻弄し、鋭い爪や牙で攻撃する。そして…」
ブラックが何かを言いかけようとしたその時。
「うわぁぁん……」
何処からか幼い子の泣き声が聞こえ始めた。
ガロン「ん?迷子?」
ガロンはそう認識し、その泣き声がする方へと歩を進める。
そうした次の瞬間、ガロンの真横を素早い何かが通り過ぎた。
それは後ろから来たものだとわかり、“^矢”は泣き声がする方へと消えていった。
「ギョエッ!!」
すると、そこから聞こえたのは先程の幼い子の声ではなく、腑抜けた変な男の声であった。
ガロン「今のって…」
ガロンがどういう事かと状況が理解できない中、ブラックは二つの太刀を両手に持ちながら、落ち着いた様子でガロンが向かおうとしていた方向へと進んでいた。
ガロンはブラックの後を追う事にした。
そして、その声の正体がなんなのかすぐにわかった。
そこにいたのは子供以前に人では無く、なんと矢が頭に突き刺さったまま息絶えていたナッツバニーパンサーであった。
ブラック「…そして、ヤツらは人語を解するが故に狡猾なものが多い、俺達以外の声が聞こえたのならば、狩るべき敵だと認識しておけ」
ガロン「わかったよ、兄ちゃん」
ブラックが再び、説明するとガロンはそれを肝に銘じた。
森の中、別のところにて、数体のナッツバニーパンサーがブラック達の様子を隠れながら見ていた。
ナッツバニーパンサーA「クッソー!アイツ!悪魔だ!!」
一人のナッツバニーパンサーは内心焦っていた。
ナッツバニーパンサーB「どーすんだー!?」
もう一人のナッツバニーパンサーが焦っている方のナッツバニーパンサーに訊いた。
ナッツバニーパンサーA「安心しろ、良い事にあの餓鬼は大した事無さそうだ。それに…」
ナッツバニーパンサーは一度、冷静に判断した後、不敵な笑みを浮かべる。
草や木に生えた葉が揺れ動く音が周囲に聞こえてくる。
ブラックとガロンは互いに背中を預けながら辺りを見渡す。
ガロン「兄ちゃん」
ブラック「あぁ、恐らくナッツバニーパンサーの群れか…流石だ、よく考えた」
ガロンの呼びかける声にブラックは反応し、そう返した。
ナッツバニーパンサーC「よくも、我らが同胞を…」
ナッツバニーパンサーD「殺してやる!」
ナッツバニーパンサーE「悔いて死んでしまえ!!」
ナッツバニーパンサーが俊敏な動きで、異常なまでの跳躍力で周囲を移動する。
一般人には視認する事が出来ない程の速さであり、それは見えないに等しかった。
森が生きて喋っているかと錯覚してしまう程のものであった。
ブラック「待て、俺達は殺していない」
ガロン「兄ちゃん、それ一番無理な説明…」
ナッツバニーパンサーC「そんな御託が通じるかァ!!」
ブラックが無理のある弁明を伝えようとしたが、当然許してくれる訳もなく、一体のナッツバニーパンサーがブラックに向かって飛びかかってきた。
ブラックとガロンは後ろに飛び、ナッツバニーパンサーの特攻を回避した。
ブラック「困ったな…」
ガロン「どうするのさ、いくらなんでもこの数は僕達でも持つかわからないよ?」
ガロンの問いを聞いたブラックは頭の中で思考を張り巡らせる。
この数を相手に尚且つ説得するようにするにはどうするべきか、落ち着きながらもならべく急がせた。
そして、ある考えに至った。
ブラック「ガロン、カオスを自在に操れるか?」
ブラックはガロンにそう訊いた。
ガロン「いけるよ」
ガロンは少し考えてから答えた。
すると、ブラックはガロンにこう説明した。
ブラック「ガロン、カオスで俺の後方を護りつつ、ナッツバニーパンサーを説得させてやってくれ…決して殺すな」
ガロン「兄ちゃんは?」
ガロンの問いにブラックは続けて話した。
ブラック「俺はガロンを護る。勿論、自身も護る。もし仮にナッツバニーパンサーが襲ってきた場合は殺めないよう動きを封じる…以上」
ガロン「わかった、やってみる」
ガロンはブラックの説明を聞いて理解し、実行する事にした。
ブラックは二つの太刀の頭を連結させ、片方の刃の先端から糸を出し、もう片方の刃の先端に繋げる。
一方でガロンは自身の肉体から闇を放出させ、それらは未完全ではあるもののブラックとガロンを囲うバリアとして護りに入った。
そして、ガロンは一度深呼吸をすると、真剣な眼差しをした。
ガロン「この声が聞こえますか?皆さん!」
ガロンは声を大きく、そしてしっかりとして話し始めた。
ナッツバニーパンサーF「聞こえているとも!でなければ、我々はこうやって話し合う事など出来ぬ!」
一体のナッツバニーパンサーの声がガロンの問いかけに答えた。
その中でナッツバニーパンサーは一斉にブラックとガロンに飛び込んでくるかのように接近する。
ガロンは怯む事無く、訴え続けた。
ガロン「僕達は君達の中にいる殺人鬼を探しに来ました!」
ナッツバニーパンサーF「何!?待て!!」
先程の問いかけに答えたナッツバニーパンサーはどうやら群れの中のボスであったらしく、他の仲間に制止の声をかけた。
すると、他のナッツバニーパンサーはそれが聞こえ、すぐに後退した。
ナッツバニーパンサーF「詳しい話を訊かせてくれないか?」
一体のナッツバニーパンサーは真剣な表情を浮かべながらガロンに詳細を求めた。
そうして、ガロンは事の顛末を話した。
真夜中、クロノスの街で一人の人間が殺された事、
そしてその犯人がナッツバニーパンサーである事を
そして、その証拠としてガロンは証拠品の袋に包装された殺された現場付近にあった毛と残された足跡と血痕が映っている写真をボスのナッツバニーパンサーに見せた。
ナッツバニーパンサーF「この足跡に毛の色、そして…」
ナッツバニーパンサーはガロンが持つ毛を袋越しに臭いを嗅いだ。
ナッツバニーパンサーF「間違いない、この臭いは我々のものだ」
ガロン(わかるんだ…袋越しで……)
ナッツバニーパンサーは臭いだけで袋にある毛が自身の種族のモノであるとわかった。
ガロンは異常な嗅覚に対し、驚きのあまり呆然としていた。
ナッツバニーパンサーF「襲った事に関して申し訳無い事をした。」
ガロン「良いよ良いよ、いきなりの事だったろうから誤解は起きるし仕方がない。恐らく、その殺人鬼も目的があるのだろうし」
ナッツバニーパンサーはガロンとブラックに謝罪をした。
しかし、ガロンはそれを許した。
ブラックも何も言わなかったが、ガロンに同意していた。
ナッツバニーパンサーF「せめての償いだ、我々にも手伝わせてくれ」
ガロン「それも大丈夫。やるんだとしたら、繰り返さないために、同胞にもこれから生まれる子達にもその事を教える。それで充分だと僕は思うよ。」
ナッツバニーパンサーは協力する姿勢を見せるが、ガロンはしなくていいと答え、代わりに以降、人殺しをしないよう伝える事を提示した。
ナッツバニーパンサーF「わかった。しかし、大丈夫なのか?殺人鬼と探すと言えど、我々ナッツバニーパンサーは同じ姿。探すのもやっとだと思うのだが…」
ナッツバニーパンサーはガロン達にそう訊いた。
すると、ブラックが答えた。
ブラック「心配するな、俺達は或る意味変わっているからな…」
ガロン「そうそう!だから、心配しなくていいよ」
そう言いながらブラックは森の向こう側へと歩を進める。
ナッツバニーパンサー達に手を振ったガロンがその後を追った。
ナッツバニーパンサー達はそんなガロン達を最後まで見送った。
ブラックとガロンの二人は暗い森の中を歩いていた。
ガロン「ねぇ、兄ちゃん。あそこに殺人鬼達はいなかったんでしょ?」
ガロンはブラックにそう訊いた。
ブラック「そうだな…血の匂いがしなかった。間違いない」
ブラックがそう答えた次の瞬間、ブラックの背後に一体のナッツバニーパンサーが現れ、襲いかかる。
ブラック「だが、今はする…」
ブラックは弓へと形を変えたそれを構えながらブラックは後ろへと振り返る。
その弓もどきでナッツバニーパンサーの攻撃を防いだ。
ナッツバニーパンサーB「なにィ!?」
まさか対応されるとは思わず冷や汗をかくナッツバニーパンサー。
彼らの気迫のせいで上手く頭が回らず、動く事が出来なかった。
ブラック「不意打ちをしたかったのだろうが…」
ブラックは静かに矢筒にあった矢を手に取り、番える。
ブラック「…無意味だ」
そして、その矢を放つ。
矢はナッツバニーパンサーの胸部に直撃し、そのまま吹き飛ぶ。
ナッツバニーパンサーB「クッソ!痛ってぇなァ!!テメェ!こんな事して良いと思ってんのかよ!?」
突き刺さっているナッツバニーパンサーがブラック達に向けてそう言い放った。
それを戯言だと思いながらブラックは弓が持つ刃をそのナッツバニーパンサーに向ける。
ブラック「人を殺したお前にそれが言えるのか?」
その時のブラックの顔には静かな怒りが浮かんでいた。
慈悲の無い殺気を放ち、それを感じたナッツバニーパンサーは戦慄した。
ナッツバニーパンサーB「お、おいおい…マジで殺る気か?どーすんだよ?もし仮に俺が殺人鬼じゃなかったら?まさか!知らねぇふりじゃねぇよなぁ!?そんな事すんのかァ!?」
ナッツバニーパンサーは自身が追い詰められているのにも関わらず、そう問い詰めた。
ブラック「それが遺言で良いか?」
ブラックは冷徹な眼を向けながら訊き返した。
ナッツバニーパンサーB「なんでそんなに落ち着いてんだよ!?自信満々なのかぁ!?お前!!」
ブラック「その通りだ…」
ガロン「僕達には悪魔の血が流れている。だからか、一般の人よりも色々と優れている。それで、嗅覚が鋭いから血の匂いで犯人かどうかがわかるという事だよ」
ナッツバニーパンサーの問いにブラックは答え、その答えの補足として説明した。
ナッツバニーパンサーB「なんだよ、それェ…ふざけんな!それじゃあ俺達は無理難題を強いられてるようなもんじゃねぇかァ!!」
ブラック「お前ら…命をなんだと思っている?」
ナッツバニーパンサーが声を荒げてた後、ブラックはそんなヤツにこう訊いた。
ナッツバニーパンサーB「あぁん!?」
すると、ナッツバニーパンサーはいきなり何を言っているのだと言わんばかりの様子でいた。
そんなナッツバニーパンサーを他所にブラックはナッツバニーパンサーの近くに迫りながら話を続けた。
ブラック「命はかけがえのないものだ…俺達狩人はそれを心で理解しながら、獣を捕らえ、その命を護り、そして時には狩る。だが、お前達は軽んじて命を奪った。」
ブラックはそう言いながら矢筒から矢を取り出し、再び番えた。
そして、それをナッツバニーパンサーの心の臓に照準を合わせる。
ブラック「人語を解するお前だから言ってやる…」
そして、ブラックは冷たい眼をナッツバニーパンサーに向ける。
ブラック「人を殺したお前はここで狩る…!」
そして、番えた矢を放つ。
矢はナッツバニーパンサーに直撃、心臓を突き刺した。
そして、そのままナッツバニーパンサーは断末魔を上げる間もなく、絶命した。
その様子を最後まで見ていた最後のナッツバニーパンサーが木の上にいた。
悪魔のような気迫と、殺されると考えたヤツは助ける事などせず、見捨てたのだ。
ナッツバニーパンサーA(やべぇ…!クッソ…!死んじまった!残ったの、俺だけだ!!)
だが、そんなことは露知らず、同行していたナッツバニーパンサー達が死に、残るは自分だけだと必然的に理解したヤツは息が乱れるもなんとかそれを抑える。
しかし、目は激しく動揺し、心臓の鳴る音が早くなっていた。
ナッツバニーパンサーA(このままここにいても気付かれて死ぬ!)
ナッツバニーパンサーは自分だけでも生き残ってやると言わんばかりに木の枝を蹴り、ブラック達から離れるように急いで飛んで逃げていった。
ガロン「逃げようとしているのバレバレだよ」
ガロンはそう声をあげる。
すると、飛んで逃げているナッツバニーパンサーの目の前に黒い闇で創られた巨大な顔が現れる。
それはとても恐ろしく、まるで威厳のある悪魔のようであった。
ナッツバニーパンサーA「ヒィッ!!」
下手すれば四肢をもがれ、命を奪われると予感したナッツバニーパンサーは足を止めた。
それにより、ナッツバニーパンサーは高いところから落下していった。
ナッツバニーパンサーA「な、なんなんだ!あの顔は!!」
ガロン「カオス、僕に宿る悪魔だよ」
怯えるナッツバニーパンサーにガロンが迫るように歩みながら巨大な顔の事を自身に宿る悪魔であると説明した。
ガロン「正直、仲は良いとも言えるし、悪いとも言える。」
そう言いながらガロンは自身の右腕に闇を纏い、鋭い白の爪を持った黒くて大きい手へと形を成した。
ナッツバニーパンサーA「な、何を言ってるんだ!?」
ナッツバニーパンサーはこのまま後退し始めた。
ガロン「…さて、殺人鬼はここで死んでくれ」
ガロンはその大きな手を掲げる。
その時のガロンの顔は異常なまでに暗くて冷たい、そして何よりも恐ろしいものであった。
ナッツバニーパンサーA「ま、待ってくれ!殺さねぇ!もう二度と殺さねぇ!!」
ナッツバニーパンサーはここで命乞いをした。
己だけでも助かる為に、死にたくないが為に
ガロン「悪いけど、人殺しの意見に耳を貸すつもりは無いよ…」
だが、その命乞いに対する答えはそれであった。
ナッツバニーパンサーA「クソッ!そうかよォ!!」
ナッツバニーパンサーは嘘をつく事に諦めついたのか、或いはそれを無駄だと思ったのか鋭い爪でガロンを殺そうとした。
しかし、ガロンの大きな手がナッツバニーパンサーの爪が命を刈り取るよりも早く振るった。
爪の軌道から放たれた斬撃によりナッツバニーパンサーの息の根は止まった。
斬撃を受けたナッツバニーパンサーはそのまま後ろにぶっ飛び、そのまま地面に叩きつけられるように倒れた。
ガロン「兄ちゃん、血の匂いはする?」
ガロンは最後のナッツバニーパンサーの遺体を見ながらブラックにそう訊いた。
ブラック「いや、しない…」
ブラックはそう答えると上を向き、木々に差し込む月の光を眺めていた。
ブラック「どうやら、これで全員らしいな…」
ブラックはそう言った。
その後、ブラックとガロンは依頼を終えたと報告し、そのまま本部に帰還した。
次回
第肆話 「波動ノ獣と小さな光」