第参話「黒ノ狩人と悪魔ノ子」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
真夜中、時間帯も相まって街には人がおらず、静かであった。ただ一人、息を切らして全力で走るOLの女がいるという点を除けば
ヒールの音がテンポ早く空間に鳴り、命からがら何かから逃げていた。
背後から女を追いかける三つの影が迫る。月光に照らされているそれらは建物から建物へと飛び移り、兎のように跳ねながら移動していた。
かなりの汗が流れ、呼吸は荒く乱れていた。彼女の体力が尽きるのも時間の問題であった。また影は女より速く、捕まるのもそう遠い未来の事では無かった。
限界が来た。女が足を挫いてその場で倒れる。足に履いていたハイヒールが脱げてしまった。
息切れを起こしているが、すぐに立ち上がろうとする。だが、無理であった。身体が思う通りに動かない…どれだけ走っていたのかも彼女自身、思い出せなかった。
気が付けば、女の周りを三つの影が囲い、見下ろしていた。影は人より大きく、ウサギのような頭と豹の身体が特徴的であった。
女「お願いします…殺さ、ないで…」
息切れしているが、恐怖のあまり涙を流しながら影に許しを乞うていた。
影A「無理…無・理……」
一つの影がふざける。彼女の命を軽く見ているような発言であった。人語を解する彼らを知った女は絶望する。自分は助からないと
影B「…死ね」
もう一つの影が手に持つ大きく鋭い爪が女の心臓を確実に貫いた。彼女は声一つも発せないまま絶命した。
影A「…撤収、だ……」
影C「行こーぜ、行こーぜ」
歪に喋る彼らは刺し殺した同胞に催促する。影は女から爪を引き抜き、抱えながらこの場を去った。冷たいアスファルトの上にはビジネスバッグに脱げたハイヒール、そして血痕が残されていた。
翌朝、部外者が現場に入らないようにする為、バリケードテープが張り巡らせていた。
内側にはCSFの面々が捜査しており、テープの外には興味本位で集まってきた一般市民が様子を伺っていた。事情聴取として現場付近の住人に話を聞き、証拠を集めていた。
CSF隊員A「犯人は見つかったか?」
現場を仕切る一人の隊員が別の隊員に呼びかける。
CSF隊員B「血の跡を辿ってみましたが、全然掴めません」
それらしきものを見つけたが、結果は掴めなかった。聞いた隊員が悔しがるが、仕方が無いと思う。
メビウス「随分と難航してるみたいだね」
様子を伺いに来たメビウスが何気無い様子で現場に現れる。
CSF隊員A「メビウスさん」
彼に気付いた二人が敬礼を返す。
メビウス「いや、そこまでかしこまらなくていいよ…」
遠慮気味に返しながらもどうもと手で告げる。緑の瞳は女がいたところへと向けられる。
メビウス「状況説明、頼めれる?」
CSF隊員A「はい。名前は清水 エナ、20代後半の女性社員。犯人は壁を飛び越えてから行方をくらませました」
メビウスの指示に一人の隊員が淡々と述べる。
クロノス社が管理する街 通称クロノスの街はA〜Zの全てが壁に覆われている。それは自然を保護する為であり、生息する生物が街の中に入らない為でもあった。つまりは、自然と人工の共存である。
その中で指示した当の本人はしゃがみながら血痕のところを凝視していた。
CSF隊員B「?メビウスさん?」
何をしているのか理解できず、不審に思いながら訊ねる。
メビウス「…ちょっと失礼」
どういうつもりか彼の手が血痕に触れた。
CSF隊員B「ちょっ!?メビウスさん!?」
当然困惑し、止めようと考えたが、その前にメビウスは浮かんでいた何かを摘んで手にした事で無くなった。
メビウス「これって…」
目にしたのは一本のオレンジ色の毛であった。ふと、左斜め下に目を遣る。そこには何かを蹴った跡があった。
メビウス(毛に蹴った跡…多分だけど、人じゃ無さそうなんだよな…)
犯人に近付く為の証拠は確かに揃った。だが、自分の専門外なので確信には迫れなかった。
すると、メビウスが立ち上がる。
CSF隊員A「メビウスさん?」
疑問に思ってか首を傾げる。
メビウス「…これは専門家に聞いた方が良いね」
ふと、そう呟いた。どうやら考えがあるようだ。
「それで、俺のところに来た…という事か……」
メビウスは一人の男の元へと訪ねに来た。
彼はツーブロックか特徴の黒髪に鋭い赤い瞳と褐色肌の容姿をしており、黒い服の上に紅い甲冑を身に付けた黒のロングコートを羽織り、矢筒を背中にかけ、首に赤のマフラーを巻いている。
メビウス「そう言う事、狩人やってるブラックならいけるかな〜って」
親しいノリで証拠品であるカプセルに閉じ込めた毛と、跳んだ跡を収めた写真を男 ブラックに手渡した。
しかと受けとると、証拠品を凝視する。
ブラック「…何故、人じゃないと考えた?」
把握するが、メビウスの考えについて詳細を求めた。
メビウス「上手くは言えないけど、人間なら壁から出ていく訳がないじゃん。消えたのって壁出て以降だもんね?」
理由を述べ、振り向きながら同行していたCSFの隊員に再確認した。隊員は首を縦に振り、確かに答える。
ブラックが再び手にする毛に目を遣り、静かに考える。
ブラック「…かなり厳しいが、わかった」
善処する事を決意し、メビウスの頼みを承る事にした。
メビウス「どうもね」
助かったと心から安堵し、微笑みながら頷く。
ブラック「…メビウスは協力するのか?」
ふと正面へと目を向けながらそこにいるメビウスに訊ねる。
メビウス「ごめんね、他の依頼で厳しいんだ…」
片手で謝罪を合図し、苦笑いを浮かべながら後ろに下がる。
メビウス「そんじゃ!」
余程の急用だったのだろう、超加速で走り出して、この場から姿を消した。
ブラック「仕事を押し付けたか…」
そんなメビウスに対して呆れたと言わんばかりの眼差しを向け、溜息を着く。
隊員A「す、すみません…」
ブラック「まぁ、構わないが…」
ブラックに隊員が頭を下げるが、当の本人は狩人の専門分野なので問題は無かった。
場面は図書館へと移り変わり、ブラックは椅子に腰掛けて机に置かれた本に目を通していた。
ブラック(オレンジ色の毛、壁を飛び越えれる程の跳躍力…これに該当するのは……)
与えられた証拠に基づいて思考を張り巡らせる中で、一つ思い当たるものがいた。
そうして捲った挙句に開いた頁は兎のような耳を兼ね備えた頭に豹の胴体を持った等身大の生物で、毛並みの色は橙色だ。
ブラック「ナッツバニーパンサー…」
確信したのか頁に載っている写真…ナッツバニーパンサーの全体図を目で捉えながら静かにそう呟く。
「兄ちゃーん…」
すると、ブラックに一人の少年が歩み寄ってきた。彼は白髪に赤い瞳、白肌の容姿に赤のパーカーが特徴の紺色のクロノス社専用の学生服を着ていた。
ブラック「ガロン…どうした?」
隣にいる弟のガロンが声をかけてきた。何かと思いながら彼に顔を向けた。
ガロン「どうしたって、手伝いに来たんだよ」
隣に空く席に腰掛けながらブラックの読む書物に傾きながら顔を覗かせる。
ガロン「んで、それが犯人改め?」
親しく明るく問いかける。どうやら事情は知っているようであった。
ブラック「…そうだな、害獣だ」
ガロン「人襲ってるからね。なんなら、ネットでも目撃情報はあったから」
真剣に頁を見つめるブラックにガロンがスマホを操作し、液晶画面を見せた。そこにはSNSが映っており、目撃情報が記された投稿にナッツバニーパンサーらしき三つの個体が映像に残されてもいた。
それを静かに確認すると、席を立った。
ブラック「行くぞ、ガロン…」
ガロン「わかったよ♪」
長引かせる訳には行かないと思い隊長室へと向かい、承認を得ようとしていた。同行を強いられるが、ガロンは快く了承してブラックの後について行った。
未来隊長「成程、そういう事か…」
事の経緯、承認を得る為の理由をブラックが全て説明してくれた事で理解した。
椅子に腰掛け、机と向き合う未来隊長の前にはブラックとガロンが横に並んで立っていた。
ブラック「隊長…」
承認を求めようと決断を催促する。当然ながら焦らせるつもりは無いが、時間は刻一刻を争っていた。
未来隊長「良いよ、該当するナッツバニーパンサー三体の駆除を許可する。」
当然ながら迷いは無かった。人を殺した最悪の場合血の味を覚えた獣を生かしてはおけないからだ。
ガロン「ありがとうね、未来隊長♪」
懸命な決断を聞けて安堵してか笑みを浮かべながら未来隊長にピースサインを見せる。
未来隊長「うん、二人とも気を付けて」
感謝を聞いて微笑みながら頷き、ピースサインで返す。二人に対して無事を祈っていた。
ブラック「…感謝します」
ガロンと未来隊長のやりとりに戸惑うも、なんとか切り替えて承諾してくれた事と心配してくれた事に頭を下げた。
そうしてブラックとガロンは車両に乗っていた。向かう先は壁の外であった。
ブラック「ナッツバニーパンサーは肉食動物、異常なまでの跳躍力と俊敏な動きで翻弄して鋭い爪で仕留める…」
移動の最中、ガロンにナッツバニーパンサーの特性などを伝えながら常備する武器の手入れをしていた。
ガロン「あの本で見た通りのまんまなんだ。でも、あの大きさで素早いのは大変だね」
説明を受けて理解していき、想像するだけで恐ろしかった。
ブラック「そして、奴らは人語を解する。気を付けろ…」
特にと言わんばかりに強調し、ガロンに忠告する。狩人が持つべき知識が無意識に働かせているのだろう、眼差しは真剣なものであった。
ガロン「…わかった、そこは要注意しておく」
ブラックの気持ちが伝わってか、より気を引き締めた。人語を解するのであれば人を欺ける事も出来るからだ。
話す事が無くなってか二人は沈黙し、車の走る音が遠くで聞こえるだけであった。だが、静寂を割いたのはガロンであった。
ガロン「兄ちゃん、改めてなんだけど狩人ってどういう事やってるんだっけ?」
明るい声で訊ねるのはブラックが戦士の他に所属する狩人についてであった。
ブラック「自然と人類の保護、観測、調和を目的としている。自然に害が及べばそれを護り、今回のような事例ならば狩る…そんな感じだ」
手入れを続けながらそれについて淡々と答える。だが、動く手が少し止まった。
ブラック「…ガロン、学校の方はどうだ?」
申し訳なさそうな表情を浮かべながらガロンに問いかける。何処か様子を伺っているようにも見えた。
ガロン「あぁ!大丈夫だよ!気にし過ぎだよ、兄ちゃん」
心境を読み取ってか笑顔を浮かべながらきちんと答える。その言葉には自分を責めなくていいという許しも含まれていた。
ブラック「…俺のせいで」
ガロン「良いの、僕達は…その、仕方が無いからね」
互いに複雑な事情を抱えていた。人には言えない…特に家系については
そんな会話を交わしていると、車の動きが止まった。
ブラック「…着いたみたいだな」
要因を察し、武器を持ちながら車両を降りた。続けてガロンも座席から立ち上がってブラックの後について行った。
早速、二人の足が濃い青緑色に染まった草むらの上を踏んだ。ガロンが辺りを見渡す。
赤い瞳には先を覆う木々と夜空が広がっていた。月と星が光を発し、より自然の美しさを強調していた。
ガロン「すっごい綺麗…」
所持するスマホを写真に撮り、すぐさまSNSに載せる。感動しながらもその動作に対しては一切の感情は無く、いつも通りにやっていた。
ブラックは足元に目を遣り、その場でしゃがむと口を開いた。
ブラック「“スポンジグラス”か…」
たった一言、呟く。その言葉にガロンが顔を向けた。
ガロン「何?それ」
気になってか問いかけた。ブラックがスポンジグラスについて述べる。
ブラック「吸水性のある草だ、これで血を吸い取ったという事か…」
ある箇所に指をさす。そこだけスポンジグラスが赤く染まっていた。
何故、壁を越えてから血痕が見当たらなかったのかをブラックは勿論、ガロンも理解した。
再び立ち上がり、握り締めた双剣を構える。
ブラック「行くぞ、ここからは食うか食われるかの地獄だ」
そのままガロンに告げる。これは警告であり忠告でもあった。失わせない為に
ガロン「わかったよー」
軽く返しながらもスマホをポケットにしまう。すると、二人は森の先を進んだ。
森の中は薄暗く、冷たい風が吹き渡っていた。辺りに聞こえるのは揺れる葉の音、何処か癒されるも状況としては安心できなかった。
進む中、ガロンが口を開いた。双剣の頭を合わせて切っ先から糸を伸ばして繋ぐと弓として変形していたブラックに問いかける為に
ガロン「…本当にここにいるの?ナッツバニーパンサーっていうの」
ブラック「あぁ、ヤツらはこういう身を潜めれるところに生息している。それに血痕は消せても匂いまでは無理だったみたいだしな」
疑念に思うが、ブラックが確かに答える。先程から鼻に血の匂いがまとわりついていたのだ。
直後、進めていた足を止めてその場で立ち尽くす。
ブラック「………」
静かに矢筒から一本の矢を抜いて、弦を引き絞る。
ブラック「そこだ…」
狙いを定めると瞬時に矢を放つ。素早く宙を翔て、木々の合間を通り抜ける。
見えない何かが突き刺さった。
「ギョエッ!!」
同時に潰れた声が聞こえた。直後、木の上から何かが落ちてきた。それはナッツバニーパンサー、女性を殺した個体であった。
血の匂いの正体はその女性を突き刺した爪から出ていたものであった。
ガロン「…もう、相手の領域って事ね」
改めて気を引き締め、全身から黒い瘴気が現れる。
二人の様子を残りのナッツバニーパンサーが木々に身を潜めながら伺っていた。
ナッツバニーパンサーA「…マズイ、キタ……」
一体はブラックの強さに、ガロンに宿る力に恐れを抱く。
ナッツバニーパンサーC「大丈夫だ、気付いているのはヤツだけ…オレ達には気付いていない……」
だが、もう一体の個体が口角を吊り上げた。直後、二人を仕留めようと枝を蹴って高速で移動し始めた。
森の中を駆け巡り、二人の周りを動き回るその存在にブラックとガロンは察知していた。
ブラック「…速いな」
ガロン「そうだね…」
だが、目では追えない程に素早いので攻撃が予測できなかった。ガロンから放たれる黒い瘴気が集まり、巨大な影が現れた。
ナッツバニーパンサーC「無駄ダ!!」
木の幹を蹴り上げ、二人に接近する。確実に仕留めようと鋭い爪を構え、勢いよく突き出す。
だが、二人の命脈を断ち切る事は無かった。爪は黒い影…いや、実態のある何かに防がれたのだ。よく見るとそれは腕を象った巨大な何かであった。
ナッツバニーパンサーC「なっ…!?」
ガロン「けど、大丈夫…!」
開いていた手は拳を握り締めた。
ガロン「カオス!!」
黒いそれ…カオスと呼べれるものは動き出し、振り下ろして叩き潰した。頭から受けたその一撃はナッツバニーパンサーを地面に叩きつけた。
二人の家系は悪魔 カオスの血が流れていた。それを持つ者達は常人より優れた身体能力、並外れた耐久力を兼ね備えている。ガロンはその身体の一部を借りて、行使する事ができるのだ。
ナッツバニーパンサーA(ナンダ!?あのバケモノは…!?身の毛がよだつ…!!)
圧倒的な存在を前に戦慄する。まるでこの世のものとは思えない程だった。
この状況をどう切り抜けるか必死に思考を回す。ふと、あるものを目にした。それは熊の如く巨体で龍のように異様な狼の怪物であり、完全に眠りについていた。
ナッツバニーパンサーA
一つ妙案を思い付いてか、乗る木に実った果実をちぎり取った。それを狼のような怪物に投げつけると、頭に軽く当たった。
確かに痛みは無かったが、目を覚ますのには効果的であった。妨げられてか怪物は憤慨して雄叫びを上げた。
ガロン「え!?何!?」
ブラック「…これは、まさか!」
それは二人の耳にも届いていた。唐突に鳴り響くそれに困惑するガロンに対して知識を兼ね備えるブラックは瞬時に察した。
向こうの草むらから狼のような怪物が現れる。眠りを妨げたのがこの二人だと判断したからだ。当然、そこに理由はなく、ただ最初に目にしたのが彼らだったからという短絡的なものであった。
ブラック「ベルクヴォルフ…!」
狼のような怪物 ベルクヴォルフと称されるそれを目にした瞬間、大きく目を見開いた。
直後に鋭い爪を持った大きな手が振り下ろされる。だが、二人は跳んで躱した。
ガロン「兄ちゃん!何そのベルクヴォルフって!?」
ブラック「巨大な肉食動物…!基本的には温厚だが、邪魔されるならば殺しに来るというヤツだ…!!」
宙に舞う中、ベルクヴォルフについて情報を提示する。すぐさま着地して、目前の獣に警戒する。
ガロン「どうすればいい?」
焦りながらも真剣な表情でブラックに指示を仰ぐ。
ブラック「討伐の許可はされていない。力尽で気絶してくれ…!」
連結していた双剣を分離させて、それらを構えながら的確に理由と行動を指示する。
ブラック「俺はナッツバニーパンサーの討伐を優先する…!」
直後、ベルクヴォルフをガロンに任せてこの場から離れた。言葉足らずだったのでガロンは想定外に思い、目を大きく見開いた。
ガロン「あー兄ちゃん…もうちょっと説明欲しかったかー…」
背中を見送り、ブラックに苦言を呈した。だが、ベルクヴォルフは容赦なく飛びかかり、鋭い爪を振り下ろした。
ガロン「な!!」
瞬時に両手足がカオスと一体化する。鋭い爪を持った巨大な手がベルクヴォルフの攻撃を防ぎ、象の如く肥大化した脚で支えた。
ガロン「いくよカオス…!」
俯いていた顔を上げて、赤い瞳がベルクヴォルフを見上げながらニヤリと笑う。直後に全身から黒い瘴気が放たれる。すると、ガロンの身体からカオスと呼ばれるものが顕現する。
手足は勿論、胴体も筋骨隆々であり、ヤギの角と大きな口と目を持っていた。まさに黒い悪魔であった。
正面から向き合い、互いに両手を組み合いながら力比べをした。ベルクヴォルフからは唸り声が、カオスからは不気味な笑い声が流れてくる。
ガロンは意のままにカオスを操り、剛拳をベルクヴォルフの顔面に打ち込む。巨体は木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされていき、森を抜け出した。
ガロン「よいしょっと!!」
すぐさまカオスに掴まり、すぐさま後を追った。
森を抜き出た先にはベルクヴォルフが待ち構えており、ガロンとカオスを睨みつけながら唸り声をあげる。当然ながら未だに警戒しながら殺意を向けていた。
ガロン「困ったなぁ…カオス」
眉を顰めて思考する。ただ外的要因で起こされただけで罪は無いからだ。出来るだけ、穏便に済ませたいと思っていた。
ふと、指示を出すとガロンの口元と耳を黒いマスク…それもカオスと酷似したものが覆われた。
歪で鋭い歯が並び、耳は人に近いが上が後ろに鋭く伸びていた。
ガロン「(ねぇ?こっち君の邪魔してないよ?君に危害は加えないから大人しく去ってくれないかな?)」
口から流れるは歪で不気味な悪魔の声…それは人語を解していなかった。言葉だけでは通じないと考え、身振り手振りを加えた。
だが、ベルクヴォルフは睨みつけながら唸るだけでカオスを通してガロンの言葉に耳を貸す事は無かった。
ガロン「…まぁ、乗る訳は無いか」
仕方が無いと諦めてか、カオスの黒い肉体が溶け出した。完全に地面に沈むとガロンの手は微かに上がって、カオスと一体化した。
ガロン「僕、そういう扱いは…慣れてるかな」
殺さない事を前提に戦う決意をした。一度出そうとした言葉も途中で訂正し、続けて紡いだ。
鋭い爪を持った大きな黒い手…双方に現れたそれをガロンは構えた。
直後、ベルクヴォルフは旋回して尻尾を薙ぎ払う。そこから鎌鼬が幾つも飛行してくる。防御する間もなく風の刃はガロンを通過して切り裂いた。あまりにも深く刻まれた傷から血が零れた。
以前と瞳は睨みつけたまま、仕留めたと確信した。次の瞬間、驚きの光景を目にする。
ガロン「残念…」
なんと、負った傷が瞬時に再生していくではないか
完治すると同時にガロンは両手を引きずりながらゆっくりと前に進み出した。
進む度に、迫る度に悪寒が走る。冷や汗が突如として流れ、震えが止まらなかった。ベルクヴォルフは生態系でも上位の存在…そんなヤツでも恐れていた、目前の悪魔を…
ガロン「早く去りなよ…」
優しく諭しながらも声は低かった。赤い瞳は静かに見据え、ベルクヴォルフを捉えていた。
向けられる殺気に戦慄してか怯えながら尻尾を巻いて逃げていった。その先は別の森であり、木々に覆われた影に身を潜めた。
足を止めていたガロンはベルクヴォルフを最後まで見届けると、やっと終わったと一息ついた。
ガロン「…本当に嫌だね、仕方が無いけどさ」
それはため息であり、今の自分とカオスに対して嫌気がさしていた。
同時刻、ブラックは森の中を突き進んでいた。五感を研ぎ澄まして周囲を見渡す。
ナッツバニーパンサーは木から木へと移りながら高速で駆け抜け、跳び越えていた。
ブラック(暗くてよく見えないが、近くにいるな…)
確信してか双剣を強く握り締めた。目を凝らすも、黒い残像が映るだけでその姿ははっきりしなかった。
ブラック(埒が明かないな、ならば…)
仕方が無いと考え、次の一歩を前に踏み出した。
ナッツバニーパンサーA「ナニ…?」
ヤツも前に出た。物陰となっていた木の幹を通り過ぎた時、ブラックの姿がいなくなっていた。
その事実に疑うが、本能又は直感が働き真上を向く。橙色の瞳には夜空を覆う樹冠から葉と共に降下してきたブラックが映った。彼の両手には双剣が握り締められていた。
ブラック「ハァッ…!!」
旋回しながら二つの刃を振るう。刃先がナッツバニーパンサーの毛皮覆う肉体に触れ、両断しようとする。
だが、ナッツバニーパンサーは機転を利かせて、瞬時に避けた。互いに地面に着地して、距離を取られたブラックは双剣を合わせて弓を造ると結んだ弦に取り出した矢を番えて、瞬時に放つ。
ナッツバニーパンサーA「死ねッ!!」
間一髪のところで躱し、接近してブラックの命を刈り取ろうと鋭い爪を突き出した。だが、その攻撃は双剣の刃に防がれた。
ナッツバニーパンサーA「死ねッ!死ねッ!死ねッ!死ねッ!」
だが、怯まず何度も爪を振るう。ナッツバニーパンサーの爪は鋼鉄と同等の強度を誇っている。故に何度もブラックと斬り合う事が出来るのだ。
ブラック「生かしてはおけないな…」
双剣でナッツバニーパンサーの爪を押し返し、本人が怯んだ隙に双剣を合わせて巨大な大剣へと変形する。
次の瞬間、ブラックが無慈悲に大剣を振り上げた。両刃は肉をも巻き込みながら斬り裂き、血飛沫を上げさせた。
ナッツバニーパンサーA「ギニャァァァァァァ!!」
あまりの激痛に雄叫びを上げ、命の危険を感じたのですぐさま跳んで逃げ出す。木の中に消えると、叫び声は無くなった。
ブラック「まだ逃げるか…!」
当然ながら諦める気は無く、急いで後を追った。垂れた血はスポンジグラスに染み込み、見事に痕が消えた。頼りになる血の匂いを辿って、ただひたすら走り続けた。
その時…
「助けてぇ…怖いよぉ……」
ブラックの耳が恐れで震えている少女の涙声を捉えた。ふと足を止めて大剣を解いて弓へと変形した。
矢を番えた刹那、素早く放たれたそれは草むらに潜む何かに突き刺さった。
ナッツバニーパンサーA「くっそ…!聞く耳持たねぇのかよ…!」
想定外のあまり驚いており、正気かとブラックの冷徹さを疑った。足には矢が刺さっており、引き摺りながら必死に逃げようとしていた。
ブラック「立ち入り禁止にした、誰も来る訳が無かろう…」
何故、偽装した声に騙されなかったのかを端的に述べた。矢筒から矢を四本取り出し、弦を引き絞る。
矢は放たれ、ナッツバニーパンサーの四肢に刺さって、徹底的に動きを封じた。
ブラック「…その命、ここで狩らせてもらう」
頭同士を分離させ、両手で双剣を構えながら一歩、また一歩と近付いてくる。
ナッツバニーパンサーA「助けて、くれ…!死にたくない、んだ…!」
死が迫っていると恐れ、命乞いをする。それは自身達が殺した女性と同じ事をしていた。狩る側から狩られる側に変わったのだ
ブラック「害獣に耳を貸す気は無い」
完全に近付くと、片膝でナッツバニーパンサーを抑え、一つの刃を頸に据えた。
至極真っ当な問いかけに恐れ、声が出なくなる。そのままブラックは刃を引き抜いて、命脈を断ち斬った。
確実に仕留めたと確信すると、一息ついて立ち上がる。血振りをした後、双剣を静かに鞘に納めた。
目の前に転がるのはナッツバニーパンサーの亡骸であった。
ガロン「兄ちゃん、戻ってきたよー」
親しみのあるのんびりとした声でブラックに歩み寄る。だが、彼が目の前の亡骸に黙祷しているのを視認した事で大人しく切り替えた。
ガロン「…そっちも、終わったんだね」
隣に並び、ガロンも黙祷した。どういう理由であれ、自分達も命を奪った。弔う必要があるのだ。
その後、二人は連れてかれた女性を発見し、討伐したナッツバニーパンサーと共に回収した。
女性は遺族の元へと送られ、三匹の害獣はガロンに宿るカオスの贄として食われた。
クロノス社にある図書館にてブラックは本を嗜んでいた。獣について学んでいたのだ。
椅子に腰掛け、机と向き合いながら頁に記載された生物について調べていた。
「ブラック、さん?」
戸惑った感じの大人しい声がブラックに語りかけた。呼ばれた事で顔を向けると、Rとイニシャルが特徴の黒い帽子を被ったガロンと同じ制服姿の少年がいた。
ブラック「ライトか…どうした?」
少年 ライトが意外そうに目を見開いている事に気付き、言葉を返した。
ライト「いえ、まさかブラックさんもここにいるのが珍しくて」
心境を吐露しながら、向かい側の席に座った。手にしていたのは歴史の本であり、表紙には白いマントに白髪の男が写っていた。
ブラック「…そうか」
心外ではあるが、事実であり仕方無いので苦言を呈する事は無かった。
直後、ブラックの腕時計から通知音が鳴り、その画面を見る。どうやらブラック宛の依頼…狩人に関する事であった。
ブラック「すまない、また会おう…」
出会って早々別れる事に申し訳なくなるが、やむを得ず席から立ち上がって急いで向かった。
ライト「はい、お気を付けて」
不満など無く、ただブラックの後ろ姿を見届けた。
走行する乗用車の後部座席にいるブラック、このまま壁の外に出るつもりだ。
ふと、窓に顔を向ける。そこにはスケボーで遊んで楽しんでいる若い人達がいた。
ブラック「…懐かしいな」
賑やかなその光景にブラックは複雑な笑みを浮かべていた。そこにあったのは彼らが楽しんでいる事に対して微笑ましい気持ちと、憧れと悔いが混ざった悲しさであった。そんな気持ちを呟いた。
「?どうしました?」
運転するCSF隊員が反応し、訊いてきた。
ブラック「いや、なんでもない…」
その言葉で我に返り、すぐさま切り替えた。自分は戦士であり、狩人なのだと…
【狩人】
→人工と自然の共存を維持する政府にもクロノス社にも公認にされた職業で、ブラックはクロノス社に所属する狩人。
次回
第肆話 「波動ノ獣と小さな光」




