第壱話 「焔ノ剣士」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
暗い闇の中、片眼が隠れる程の前髪を持った白髪に鋭い赤眼と白肌の容姿をした青年 邪光 剣は浮くようにただずんでいた。
そこは現実にしてはぼんやりしていて、夢と呼ぶには気のせいなのかもしれないが、実体がある感じがした。
そんな剣の脳裏に存在しない、経験した事の無い記憶が脳裏に流れる。
記憶が映す背景や人物、その出来事は早く移り変わっていき、膨大な情報量であった。
それ故に剣が記憶を見ようとするも、上手く見る事もそれを理解する事も出来なかった。
そうして、最後に流れてきた記憶を剣は目にした。
それだけは他と違い、正面にゆっくりと流れてきているからか、はっきりと見る事が出来た。
その記憶を見た瞬間、剣は驚きを隠せなかった。
そこに映っていたのは仮面の男、剣はその男の事を知っていた。
剣は太刀を片手に持ち、仮面の男に立ち向かった。
仇を討とうと闘おうとするが、突如、剣は倒れ、動けなくなった。
力が抜けたのか、或いは恐怖によって身動きを封じられた。
それについて、剣自身も理解が出来なかった。剣にとってそれは自己的な要因ではなく、まるで外的要因によって起きたと思ってしまった。
仮面の男は剣に近づき、片手に持った包丁状の大剣を上に掲げ、仮面の男の赤く輝く眼が剣を見下ろした。
仮面の男「これで最期だ。さらばだ!邪光 剣!!」
剣にそう告げると同時に大剣は振り下ろされ、剣に襲いかかってきた。
白い部屋にて剣が目を覚ました。勢いよく起き上がり、息を荒げた。
ここは剣の自室であった。
全身から汗が流れ、眼が動揺していた。
剣「…夢か……」
さっきまでの出来事が夢であるという事を剣は理解した。
しばらくして、落ち着きを取り戻した剣は部屋にあるタンスから赤いシャツと黒いズボン、黒のロングコートに赤いマフラーといった衣服類を取り出し、白いパジャマからそれらに着替えた。
顔を洗ったり、歯を磨いたり等といった手入れや身だしなみも怠らず行った。
それらを終えた剣は部屋から出て、ある場所へと向かった。
メビウス「剣ー!」
その道中、剣の背後から声が聞こえた。
剣はその声がする方へと振り向いた。
剣「メビウスか」
その声の主は剣の親友 メビウスであった。
斧のような髪型と片眼を隠した前髪が特徴の白髪に緑の眼の容姿に青いマフラーが特徴の服装をしている。
剣とメビウスは長い付き合いであり、親友であった。
剣とメビウスは隣に並んで、共に移動した。
メビウス「これから依頼?」
剣「あぁ、依頼だ。」
メビウスの問いに剣は答えた。
メビウス「案の定だね」
剣「メビウスにもあるのだろう?」
メビウス「まぁ、そうだね」
剣とメビウスはこのような会話を繰り広げていた。その中で何人か知った顔の仲間達の姿も見かけていた。
仲間達については今はまだ話さないとして、ここで剣達について説明をしよう。
クロノス社、正義組織の一つであり、この世界に拠点を置いている。
剣やメビウスといった人達が所属する戦士が依頼を受けて、それを解決したり、犯罪者を捕獲或いは討伐言わば、抹殺する事を活動としている。
要するに制度が変わり、武力を行使する警察である。
そんなクロノス社が管理していて、剣達がいる街。
巨大な壁に覆われた広く、至る所にある市街地区 クロノスの街である。
そんなクロノスの街にある軍事基地にて、大きな事件が発生する。それは今の剣にはまだ知らない事であった。
機体や兵器といったモノを管理したり、辺りを周回したりする軍人達の目を掻い潜り、一つの人気の無い倉庫の中へと入っていった。
倉庫の中にあるコンテナの山に姿を隠し、あるモノに目を向ける。
「よくも…よくもこの俺様を……!」
赤髪に黒眼、顔の中心には切り傷がある容姿に前を開けた軍服を着ていた。
彼、元パイロットの犯罪者 ハンス・オルトロスは六つの腕、四つの脚、縦に並んだ二つの狼の頭を持った黒銀の装甲に赤く光った眼の巨大機械兵器 オーバーランを狙っていた。
心に宿した憎悪と怨恨を燃やしながら
場面は戻り、剣は隊長室の扉の前で先程まで談話しながら同行していたメビウスと別れた後、その扉を軽く叩き、扉の向こうから声が聞こえ、許可を得るとそのまま隊長室の中に入っていった。
扉の前には横に並んだ窓が外を映し、その前にはお偉い人が居座る高級な椅子と机がある。
その横には大きなモニターを中心に、ゲーム機やゲームのソフトなどが置かれていた。
「よく来てくれたね、邪光 剣」
座りながら顔の前で手を組んでいる黒髪に青眼の容姿をした男は未来隊長、クロノス社のトップとしてその組織を率いている人である。
剣「それで隊長、依頼について」
未来「そうだね、単刀直入に言おう」
剣が依頼について訊いてきた。
それに対して未来隊長はその詳細を述べ始めた。
未来「今先程、軍事基地が襲撃にあった。しかも内部からだ」
剣「内部から?一体何が?」
未来の用件を聞いた剣はどういう事なのかと訊いた。
未来はそれに答えるかのように話を続けてその依頼について述べた。
未来「どうやら誰かがオーバーランを起動し、破壊活動を行っているらしい」
剣「オーバーラン?」
未来はその原因と現状を述べ、剣がオーバーランという用語に引っかかり、それを訊く。
未来隊長はそのオーバーランについて説明を始めた。
未来「オーバーラン、その名の通り蹂躙する事を目的に創られた機械兵器。本来は全領土をかけた大戦争に使用するはずだった。しかし、完成する前に終戦を迎えて以降、使わなくなった。」
その説明を聞いた剣は一つ疑問に思った事を口にした。
剣「完成する前に?現に暴れているという事は完成しているのでは?」
未来隊長が説明した「完成する前に」という言葉であった。剣はその言葉に違和感を覚えた。
未来「失礼、兵器としては完成している。だが、蹂躙する事に関してはまだ未完成だ。」
剣は何となくであるが、自身の脳裏に過ぎった憶測を出した。
剣「もしかして、コズミック・コアで何かするつもりだった?」
未来「流石、冴えてるね。」
どうやら剣の考察に間違えはなかったようだ。
コズミック・コアとは青い粒子の見た目をした能力の源の事である。
今より三億年前、この世界に隕石が落ちてきた。
隕石が割れ、そこから溢れ出たのがコズミック・コアである。
それは人やモノなどに宿り、力を発現させた。
未来「そう、コズミック・コアをオーバーランに付与し、能力の無効化、或いは火力の高い能力を発現させるつもりだった。」
剣「だが、中断された事によりそれは成し得なくなった。」
未来「オーバーランの設計図も廃棄された訳だしね」
依頼の背景について理解した剣とその全てを知っている未来隊長は交互に話し合い、互いの考えている事を読み取った。
剣「それで、依頼の内容は」
未来「…オーバーランの撃破、その操縦士の抹殺だ」
やるべき事を理解した剣は未来隊長にその答えを求め、未来隊長は剣に指示を出した。
場面は変わり、軍事基地にて
数百の軍人は動くことの無い屍へと変わり果て、辺り一面は炎に包まれていた。
その中で壊滅した軍事基地をオーバーランは見渡していた。
ハンス「良い気分だな!さて、次は…」
ハンスは軍事基地の外にある街の方へと目をやり、彼が乗るオーバーランを目が示す方へと向き直し、そのまま移動を開始した。
「ヤツを通すな!なんとしてでも止めろ!」
CSFと綴られた黒の帽子に黒のジャージにインカムといった服装をし、両手に構えた機関銃をオーバーランに向けて撃ちまくる人達はクロノス特殊部隊 通称CSFの人達であった。
ハンス「あぁん?なんだぁ?」
オーバーランに乗るハンスがCSFの連中を眺めるように見下ろしていた。
そう、CSFの銃撃はハンスにとって無駄な事であり、オーバーランにとっても無意味であった。
ハンス「鬱陶しい虫ケラだなァ!」
ハンスはオーバーランを操作する。
オーバーランは六つの腕の一つをCSFに照準を定める。
その腕には機関銃が仕込まれていた。
ハンス「さっさと死ねよ!」
ハンスは残酷にもその引き金を引いた。
すると、オーバーランの腕に仕込まれた機関銃から実弾が連発する。
CSF隊員A「うっ!」
CSF隊員B「がっ!」
数人のCSFの隊員が命中し、地に伏せて倒れる。
CSF隊員C「おい!大丈夫か!?」
CSF隊員D「くっ!怯むなァ!!撃ち続けろ!!」
心配する隊員がいる中、それでもと機関銃を撃ち続けた。
ハンス「だーから!意味ねぇって言ってんだろ!学習しろよ!!」
今度はオーバーランの先端がハサミとなっている二つの腕がCSFに襲いかかる。
CSF隊員D「くっ!」
CSFの隊員がそのハサミに押し潰されると思ったその時であった。
突如として焔の斬撃が飛んで来て、それがオーバーランに直撃する。
CSFの射撃とは対称的に斬撃の威力の方が高いからか、オーバーランは後退るように吹き飛ばされた。
ハンス「なんだ!?只者じゃねぇ!」
CSF隊員C「あの焔の斬撃って!」
CSF隊員D「来てくれたか…!」
各々が反応を見せる。
ハンスは完全には理解出来てはいないが、かなりの強者である事は理解しながら、オーバーランの体勢を立て直していた。
CSFの隊員は焔の斬撃を見るやいなやそれが誰の仕業なのかを察した。
剣「CSFの皆さん、負傷者を連れて早く避難を」
そう、正義組織 クロノス社 戦士のNo,1にして焔の剣士とも呼ばれている青年 邪光 剣である。
CSF隊員D「あぁ、わかった!総員!退避!!」
一人の隊員が声をあげ、CSF全員がオーバーランから離れるよう退いていった。
ハンス「おいおい!逃がすかよ!!」
オーバーランの背面から多数のミサイルが放出し、CSFに襲いかかる。
剣「焔技…」
剣は左手で銃の形を作り、その人差し指に剣の能力である焔を一点集中させる。
剣「弾」
そして、人差し指から焔の弾丸が放たれ、一つのミサイルに直撃する。
すると、ミサイルは爆破を起こし、他のミサイルをも巻き込んだ。そうして他のミサイルも連なって爆発する。
ハンス「何ッ!?…テメェ!邪魔すんじゃねぇよ!!」
ハンスはミサイルを食い止めた剣に驚くと同時に上手くいかなかった事に苛立ちを覚えた。
ハンスの操縦により、オーバーランが剣に向かって接近してくる。
そしてそのままオーバーランの何の武装も無い腕が剣に向けて突き出してくる。
剣はその攻撃をすぐさま飛んで回避し、彼が所持する太刀で身体を旋回させてその腕を切断した。
ハンス「なっ!?馬鹿な!?刀が俺様のオーバーランの腕を斬っただと!?」
ハンスは剣の剣術に、その太刀の強度に驚愕する。
それを他所に剣はオーバーランを、もっと正確に言うならばハンスを睨みつけるように見た。
ハンス「その目…その目は…!」
ハンスの脳裏にとある記憶がフラッシュバックする。
かつてハンスはここの軍事基地に所属する軍人であった。
しかし、極悪で凶暴、短気で自己中心的な性格のせいでハンスは問題児として扱われていた。
軍の規律を破り、命令も無視する。
その結果、自らの失態で一人の仲間の命を奪ってしまった。
だが、彼には反省する気など元から無かった。
これに対してハンスが所属する軍の士官はハンスに軍人を辞退させる事にした。
それを知ったハンスは苛立ち、士官を殴った。
士官は入院する事になり、当然ハンスは軍人を辞めさせられた。
ハンスは無意識に剣の睨む目をかつてその士官の目と重ね合わせていた。
ハンス「あの時と同じだ…!テメェも俺様を否定するつもりかァ!!」
怒り狂ったハンスは引き金を引く。
それに応じるかのようにオーバーランから実弾が放たれた。
剣は太刀で弾き返した後、迅速に走りながら回避していった。
ハンス「クソッ!まだ死んでたまるかァ!!」
ハンスはレバーを後ろに引く。
すると、オーバーランの二つのうち一つの狼の口が開き、レーザー砲が顕となる。
剣は銃撃を掻い潜りながらその存在に気が付く。
剣(あのレーザー砲、早めに叩き潰した方が良さそうだな)
剣はそのレーザー砲に嫌な予感がし、そう考えた。
それ故にオーバーランのレーザー砲を放とうと準備していた狼の頭を斬ろうとしていた。
すると、その行動を遮ろうともう一つの狼の頭が遠吠えを上げた。
剣(遠吠え…何か来るな)
剣はそんな予感がした。
すると、軍事基地に設置された幾つかの倉庫から何かが突き破る音が聞こえた。
そこから現れたのは等身大サイズの人型の機械兵器であった。
それらは剣に接近し、襲いかかってきた。
剣「機械人形か!!」
剣は迫り来る機械人形を太刀で斬り裂いていった。
しかし、あまりにも数が多く、対応しきれなかった。
そのまま剣は機械人形に捕らえられ、埋め尽くされるように押し潰されてしまう。
ハンス「ざまぁないぜ!!さぁ!このまま消し炭となってくれよ!!」
ハンスは数の多さが原因で何も抵抗出来ずにいた剣を鼻で笑い、トドメとしてレーザー砲を放とうとしていた。
だが、そんなハンスにとって想定外の事が発生した。
剣「焔技 怨!!」
機械人形に埋め尽くされている中、剣がそう唱えたその直後、剣の全身に焔が発現した。
ハンス「あぁん?なんだあれは?」
剣「焔技…」
ハンスは機械人形の中から燃え盛る焔に向けて凝視した。
それを他所に剣は太刀を構える。
次の刹那、焔を纏った竜巻が機械人形を上空に吹き飛ばし、跡形もなく消し去った。
剣「…嵐火宴」
剣が持つ能力は焔。炎熱系の能力である。その姿形は一見してなんら変わりのない炎ではあるが、相手の熱を捉えたりする事が可能な少し特殊な焔である。
何体かいた機械人形は塵と化して消えるか、そのまま地に落ちてその身体が砕けていった。
ハンス「なっ!?馬鹿な!?数百はいるはずだぞ!?」
ハンスは剣の力の片鱗を見て、驚愕した。
剣は立ち上がり、オーバーランの方へと目を向けた。
剣「…お前、名はなんと言う?」
そして、名を訊いた。
ハンス「何言ってんだ?俺様はハンス・オルトロスだ!」
剣「ハンス・オルトロス、お前は何が目的で大勢の人を殺し、破壊を続ける?」
剣は続けてハンスにそう訊いた。
ハンス「んなもん決まってんだろ!俺様は散々、理不尽な目にあったんだ!ならば!他の奴らもそれ相応に受けるべきだよなァ!?」
ハンスは怒りと憎しみを撒き散らした。
今はその言葉として、先程まではオーバーランによって、それらは顕となっていた。
剣「だから、多くの命を奪うのか?」
ハンス「あぁん?」
だが、剣はそう返した。その言葉にハンスはどういう事だと言わんばかりの様子であった。
剣は続けて話す。
剣「確かに理不尽というのは辛いし、苦しい。俺だってそれを受けた事がある。だが、だからって理由で誰かの命を奪う事を許していい理由にはならない。」
剣はオーバーランに向けて静かに太刀を構えた。
剣「ハンス、お前の憤ったその憎悪、ここで断ち斬る!」
そして、剣はハンスにそう告げた。
ハンス「なーにが断ち斬るだァ!?やれるもんならやってみろよ!!」
ハンスが挑発的な発言をした。
剣が自分を斬るなどと無駄だと思い込んでいるからである。
それに対して剣は変わらず真剣な様子でオーバーランの方へと走り始めた。
ハンス「一直線に突っ走るだけか!馬鹿じゃねぇの!!」
ハンスは先程まで溜めていたレーザー砲を剣に向けて放った。
剣「焔技 陽炎」
焔に身を包んだ剣がそう唱えると全身がぼやけ始め、レーザーが通り抜ける。それと同時に剣は焔と共に姿を消した。
ハンス「どうやら口だけは一丁前みたいだったな!」
ハンスはレーザー砲により剣が消滅したとそう思い込んだ。
だが、そんな思い込みもすぐに打ち砕かれる事になる。
剣「焔技 閃火繚乱」
剣が静かに発した次の瞬間、オーバーランのコックピットの左右に目にも留まらぬ速さの斬撃が発生した。その直後、焔を纏った太刀を手にした剣がオーバーランの前に姿を現し、地面に着地した。
その直後、オーバーランの機関銃を仕込んだ腕二つと通常の腕が一つ、計三つの腕が切断され、使えなくなった。
ハンス「なんだと!?これがあの男の実力とでも言うのか!?」
剣の秘められていた実力に驚くハンス。
剣はオーバーランの方へと身体を向け、見つめる。
ハンス「このままじゃやられる!」
オーバーランの背面から再びミサイルが放たれ、剣に向かって迫り来る。
それに対して剣は前へと走り出し、オーバーランの足元を潜る様に滑り出した。
その中で剣はオーバーランの前足を切断。それによりオーバーランは前のめりとなって倒れる。
先程のミサイルが地面に直撃し、爆発を起こす。
オーバーランが障壁となり、爆破の衝撃と爆炎を防いだ。
ハンス「うまいこと利用しやがったな!この野郎!!」
ハンスはオーバーランに遠吠えを上げさせ、まだ生き残っていた機械人形を呼び出した。
機械人形は剣に迫り来る。
オーバーランからすぐさま距離をとった剣は太刀で機械人形を一体、また一体と斬っていき、冷静に対処していった。
先程より数が少ないからか難無く数体の機械人形を倒していった。
そうこうしていると、オーバーランは前脚代わりとして先端がハサミ状の腕を駆使して、剣がいる後方へと振り返る事が出来た。
ハンス「随分と追い詰めるような事しやがるなぁ…!」
ハンスはハサミの腕を元に戻すと剣に向かって突進し始めた。
前脚が無いせいか前のめりの状態で地面を押すように進んでいた。
そして、そのままオーバーランの両方のハサミの腕が剣に襲いかかる。
しかし、剣はそれを飛んで回避する。
地面に突き刺したオーバーランのハサミを剣は太刀で横一文字に斬り裂いた。
剣はそのまま突っ込んでくるオーバーランの上に乗り、そのままコックピットに突き進む。
剣「焔技…」
ハンス「ヤバい!やられる!!」
剣が焔を纏った太刀で斬りかかると察したハンスが急いでオーバーランを後退させようとするが、時すでに遅かった。
剣「灯火の太刀!」
剣はオーバーランのコックピットを斜めに一刀両断した。
剣は切断面からコックピットの中を覗き、ハンスの様子を確認した。
そこにいたのは斬られたハンスだった。
剣は腕時計の形をした通信機で未来隊長と連絡を取り始めた。
剣「隊長、こちら邪光 剣。依頼を終えました。」
剣は未来隊長に依頼を終えた事について報告した。
未来「ご苦労様。このまま帰還していいよ」
剣「そうしますが、一つ訊きます。」
未来隊長の言葉を受け入れるが、その前に気になった事があったので剣は未来隊長にそう言い出した。
未来「いいけど、どうしたの?」
未来隊長はどうしたと思いながらそれを聞く事にした。
剣「ハンス・オルトロス。この人はかつて士官を入院送りにした事で傷害罪として捕まった。しかし、今こうして暴れ出した。何かあったんですか?」
剣が気になっていた事、それは何故捕まったはずのハンスが今こうして暴れ始めたのか?というものであった。
未来「成程ね、ハンス・オルトロスか…どうやら読みは当たっていたみたいだね」
すると、未来隊長がそんな事を言い出した。
剣「どういう事ですか?」
剣は未来隊長にそう問いかけた。
未来「実は昨夜、刑務所のヘルズケージにて爆発が起きた。それにより数人の凶悪犯罪者が脱獄してしまったんだ。」
剣「爆発!?何故、今になって?」
未来隊長から告げられた真実、それは剣にとって予想外の事であった。
どうして早めに伝えなかったのかと訊いた。
未来「本来なら伝えるべきだった。しかし、そういう状況じゃなかった。爆発で人々は混乱していたし、負傷者だっていた。脱獄に気が付いたのがそれらが収まって、今だった。」
未来隊長は事情を話す。
それを聞いた剣は理解した。
剣「脱獄した人の一人がこの人という事はわかりました、他にもいるのか?ハンス・オルトロス以外にも」
剣は未来隊長にハンス以外の脱獄者についても訊いた。
未来「そうだね。現状判明しているのはハンスともう一人だよ。」
未来隊長は判明していると答えた。
剣「ちなみにだが、誰が爆破を起こしたのかは?」
未来「詳しい事はわかっていないけど、目撃者曰く“仮面を付けた男の人”だったとの事」
それを知った剣にある言葉が引っかかった。
仮面の男、それを聞いた剣の脳裏にある記憶が過ぎった。
剣が小学六年生の頃、とある廃工場にて剣の父親 斬撃と闘い、その手で斬希を殺めた仮面の男。
その仮面の男から感じ取ったのは恐怖、得体の知れない未知のモノであった。
父の死、仮面の男の異様とも言えるそのオーラと実力、幼い剣にとってトラウマになるのは仕方が無い事であった。
未来「…剣?」
未来隊長の言葉で我に返る剣。
剣「すみません、仮面の男の事で…」
未来「いや、申し訳ない事をした。一先ず、本部に帰ってきなさい。」
剣「…了解」
そうして、未来隊長とのやり取りを終えた剣は夕日に目を向けた。
剣(…仮面の男か、妙な胸騒ぎがする)
そんな心情を抱いたまま、地平線に沈む太陽を最後まで見届けた。
次回、第弐話 「青ノ閃光」。