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死に場所探し

作者: 成瀬 胡桃

初投稿です。死ぬための場所を目指して、主人公が旅をするお話です。



※明確な落ちがありません。人によっては納得しないかも。

※ハッピーエンドではありません。

※独自の解釈に頼る部分があります。好きなように解釈していただきたいです。


私は死に場所を探すことにした。もうこの世界に思い残すことはない。やりたいことも全部消え失せた。ただ死にゆく場所を探すためにここにいる。



 所持金1000円。家なし。仕事なし。持ち物は、数日分の着替えと先に死んだ家族の写真だけ。これが私の現状だ。他に身内もいない。普通なら絶望する状況で、とっくに心なんて壊れたはずなのに、不思議と私の中は澄み渡っていた。何もない、そんな状況だからこそ、私を奮い立たせていた。そうだ。昔から想像していた海で、海で死のう。

 現在地は某海なし県のとある公園。ここから海まで約150kmある。歩いて3日はかかるだろうそんな道のり。普通の人だったら嫌がるだろう。けれども、私はとてもウキウキしている。まずは、スーパーに行き、昼に食べる用のパンと水を買う。2つ合わして150円。残金850円。これだけあれば、飢えはしないし、歩けはするだろう。そう思いつつ、私はスーパーを出て歩き始めた。どうせ私を追い立てるものはないんだ。ゆっくり歩こう。

 季節は初夏、7月の中盤くらい。むわっとするような空気感の中、私は進む。街路樹の木漏れ日が気持ちいい。スピードを出して走る車を横目に私はひたすら歩く。そうしていると、どこへ向かっているのか一瞬分からなくなくなった。けれど、すぐ思い出してまた同じように前に進む。気が遠くなるような道のりだ。けれどもそれが楽しい。

 そのまま歩いていると、私はとある高速のとあるループ橋の前に辿り着いた。ここから私はこの下を通る、そう思っていたのに、私の足は動かなくなってしまった。それと同時にあんなに楽しいと思っていた気持ちが萎んでくる。どうしてなんだろうか。長いこと歩き過ぎて足が棒になっているから?いやそれだけではない。私の眼中にとある景色が映り込んできた。胸が痛い、痛い、痛い。涙も流れてくる。私は涙をそのまま流しながら、一心にとある景色を見つめていた。

 どれくらいの時間が経っただろうか。私は意識を歩くことへと取り戻した。けれども後ろ髪を引かれる。歩き出せない。分かっている。分かってはいるけど、もう後戻りはできないし、したくない。そう思いながらどうにか足を動かした。

 夕方が来た。足は先ほどよりさらに棒になっている。そろそろ今夜の寝床を探そう。周りは見渡す限りの田んぼ。少し離れたところに住宅街。そして、その住宅街のちょっと先に山が見える。障害物なんて何もない田んぼに映るオレンジ色。大きな玉のような夕日。綺麗だ。すごく綺麗だ。私はその景色に吸い込まれそうになりながら、ふらふらとおぼつかない足取りで今夜の寝床を探していた。

  時刻は夜の8時。もうすっかり辺りは真っ暗だ。そんな中で私はなんとか今夜の寝床を見つけた。小さな公園の樹の側のベンチ。足は伸ばせないけど、それでも充分な私の寝床だ。人には迷惑かけれないから、夜が明けたら、ここを出ていかないと行けない。周りには家の灯りしかない、自分の息の音以下何もしない、静かな静かな場所だ。こんな場所にいると、何か得体のしれない恐怖が襲ってくる。ここら辺の治安がいいのか、悪いのか、分からないからかもしれない。そのまま私は靴を脱ぎ、丸くなって荷物を抱いて、目を閉じた。一日中歩いた足がピリピリと痛む。私は片手で足をさすりながら、どうにもできない恐怖と不安感と闘っていた。



 そんなことがあっても、時間は流れ、夜明けは来る。私は寝不足気味の体を起こして、目を覚ました。時刻は午前6時。身体が痛い。まあ硬いベンチで寝たから当たり前だろう。公園の水道で顔を洗い、足を伸ばすためにストレッチする。そして私はスーパーを探した。

 あった!どうやら7時くらいからやっているらしい。ラッキー。そう思いながら、スーパーに入った。

 今日から目の前に見えるあの山に突入する。昨日よりもさらに疲れるし、時間もかかるだろう。それに多分コンビニもスーパーもない。そんなことを考えて私は昨日よりも多く、パンを買った。その数3つ。そして水も多めに3本買っておく。残金450円。ついに所持金が500円切ってしまった。買ったものがズッシリと重い。次に私は海までの大まかな道順を調べようと思ってコンビニに立ち寄った。地図を開く。ちょうどいい厚さ本には憂鬱感とワクワク感が詰まっていた。パラパラ。静かな店内の中にただページをめぐる音だけが響く。必死に熟考し、頭の中に道順を叩き込むこと約30分。顔を上げると、人が少なかったはずのコンビニにたくさんの人がいた。私はそれに少し羨ましさを覚えながら、こっそりと店を出た。

 いよいよ歩き始める。ここから何キロ歩くんだろうか。分からないが、分からない方がいい気がした。アキレス腱を伸ばす。筋肉が伸びて、スーッと脚の中に空気が入っていくような感じがした。私は大股でリズミカルに歩き始めた。

 歩き始めて多分1時間ちょっと経った頃、私は、山の麓に辿り着いた。ここから更に道は険しくなるだろう。私は息をついた。

 山を登り始めた。木々が青々と生い茂っている。一歩一歩踏み出すごとに周りの気温がちょっとずつ下がっていく。ひんやりする空気を纏いながら、絶景に目を奪われながら、私は、歩いた。

 歩いて行くと、どんどん日が落ちていく。日光が私の目線と同じくらいの高さになったころ、使われていない休憩場を見つけた。周りを見ても誰もいない。ちょっと早いけど、ここで夜を過ごそうか。その休憩所は、山とかによく見かける屋根付きの休憩場だ。昨日よりも広い寝床に私はそこに座り、靴を脱いで足を伸ばした。悲鳴を上げる足。流石に今日は歩き過ぎた。足を撫でながら私はそう思う。少しの間ぼーっとしていると、グゥーとお腹が鳴る。今日一日何も食べてない。そうだ、パンを食べようと私はカバンからパンを取り出した。美味しい!私は生まれてで1番パンを美味しく感じた。一口一口、私はその味を噛み締める。そのたびに涙がはらり、はらり。食べるってこんなに心が満たされることだっけ。私はどうしようもない感情を抱えながら、ゆっくりとスーパーの安い菓子パンを食べていった。

 夜の宵がまわって、辺りには風に揺れる木々の音しかしなくなった。カサッ、カサカサ。私は目を閉じる。例のごとくまた眠れない。薄ぼんやりしてくる意識の中で私の心の中がさらに黒く染まってゆくのを感じた。

 


 気がつくと私は何もない真っ白な空間に佇んでいた。へ?ここ.....はどこ?そう思った瞬間、私の目の前に死んだはずの家族が現れた。私が生まれてから今までの思い出が流れていく。それはまるで走馬灯のようだった。私...ここで死ぬのかな?まぁいいや。



 目を開けると、そこには目を閉じる前と同じような景色が広がっていた。ただ日は差している。少し眩しい。溢れる木漏れ日の中で私は考える。あれはなんだったんだろうか?分かっている気もするし分からない気もする

る。まあいいか。考えることを意図的にブロックした。

 私は昨日と同じように歩き出した。心なしか昨日よりも、一昨日よりも足が重い気がするが、それは気にしないようにした。

 私はそれから山間の場所を何回も上り、何回も下った。時々家のある場所が出てきて、そこに住む人々をちょこちょこと見かけた。のんびりと歩くおばあちゃん、お仕事中の人、親子連れ。公園や学校の中では子供たちが楽しそうに夢中で遊んでいた。それ以外の景色もあったはずなのに、私はそればかりに夢中になっていた。いいな……。この言葉が私の心の中に浮かんだ。 

 さらに進んだ山の中、猿の親子連れを見かけた。私はその親子にもいいなっていう感情が浮かんだ。

 この二つの共通点は、何だろうか。考えても分からない。考えて、考えて、考えて、考えて、考えすぎたのかだんだん私の頭の奥が痛くなってきた。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。



 私は思わず目を閉じた。



 はっと気がつくといつの間にか目的地にたどり着いていた。へ?何で?困惑する私を目の前に鮮やかなコバルトブルーが見える。波は穏やかで、頬には暖かくてしょっぱい海風が当たった。

 切り立った崖になったその場所を見下ろすと吸い込まれるような感じがした。なんとなく今はまだ違う。そんな感じがした。

 


 汚れたって構わない。私は、地面に腰掛けた。さわさわと短い草花が揺れる。手をつき、ぼーっと見上げようとする。しかし、それよりも右手の違和感が気になった。なんだろう?私はその手の方を向き、草むらをかき分けた。すると、そこには燕と思わしき鳥の死骸があった。いや正確にいえば血を流している姿と言うべきか。その燕は事切れた直後のようで血は暖かく、身体も少し暖かい。何故この燕はこんな場所でこんな姿で横たわっているのか、そういう疑問は起きたが、それよりも私はこの燕の死に姿に惹きつけられた。目が離せない。これから死のうとしているからだろうか。よく分からないが、私は選択を迫られているのかもしれない。この燕に。この運命に。生きるのか死ぬのか。そう思うと私はこの状況がそうとしか思えなくなってきた。足がすくむ、胸が震える。恐怖におののく。息を飲み、時間が止まる。どちらにするのか揺れ動く時間が一定時間続く。何が正解なのか分からない。でも、私は。



 そこは青い青い世界。魚たちが悠然と泳いでいる。そんな光景を目にして、息が出来ず苦しいはずなのに、それよりも美しいという感情が浮かんでいた。そして、思う。ああ、そうか。私は、寂しかったんだと。部屋を追い出されたことにでもなく、仕事をリストラされたことにでもなく、ただただ寂しかったんだと。だったら新しく一緒に入れる人を見つければよかったのではないかと思う人もいるだろう。けれども、私は新しく愛した人に依存したくなかった。振り回し、振り回されたくなかったのだ。それは一種の私のちっぽけなプライドだ。短絡的って思う人もいるだろうけど。私なりにはじっくりと考えた結果だ。だから、私が後悔することは、、、、、ない、、、。

  


 海が泣いている。昨日と同じ海なはずなのに、まるで同じ海ではないような気がしている。その周辺だけ妙に悲しい。

 数週間後、一人の人物がその場所を訪れた。そして、そのものを見て一筋の雫を落とす。その視線の先には、綺麗に並べられた靴がぽつんと置かれていた。

 

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