第66話 春風の迷いと悩み
「すっげぇ迷ってます!」
『……え?』
春風が出したその「答え」を聞いて、周囲の人達は一斉に首を傾げた。
それから少しして、
「あー、春風。今、なんと?」
と、ゼウスが春風に向かってそう尋ねると、
「ですから、正直に申しますと、それについて現在すっげぇ迷ってますと言ったのです!」
と、春風は堂々とした態度でそう答えたので、
「……え、待って! なんで迷ってるの!? そこははっきりと『はい、ぶっ殺します!』って答えるところじゃないの!?」
と、そこで漸く我に返ったレナが、春風の両肩を掴んでそう問い詰めてきた。その際他の人達から、
『ちょ、ちょっとぉ!』
と、悲鳴があがったが。
すると、春風は申し訳なさそうな表情になって、
「ごめんレナ。でも大丈夫、親玉共に対する『怒り』はまだちゃんとある。そして、『ルール無視の勇者召喚』の実行犯であるルーセンティアの連中に対する『怒り』もね」
と、謝罪しながらそう言った。
レナはその言葉を聞いて「だったら……!」と更に問い詰めようとすると、春風も更に申し訳なさそうな表情で口を開く。
「だけど、『ハンター』としてここで暮らして、まだ1ヶ月と少ししか経ってないけど、それでもわかった事があるんだ」
「……何?」
「俺達は五神の連中が偽物の神様だって事を知ってる。でも、他の人達はそうじゃない。その人達にとって、連中は間違いなく本物の神様なんだ。奴らを殺すって事は、その人達から『信仰』を奪うって事なんだよ。もし仮にも、奴らを倒してヘリアテス様達の『神の力』を取り戻して、世界消滅をどうにか回避出来たら、その人達は誰を信仰したら良いんだい?」
「うっ! そ、それは……」
春風のその質問に対して、レナはそれ以上何も答えられなかった。その様子を見て、彼女にも思うところがあるのだろうと、周囲の人達は理解した。
その後、春風はゼウスとヘリアテスに向かって、
「すみません、ゼウス様にヘリアテス様。お二方の前でこのような事を申してしまって。お叱りがありましたら、しっかり受けます」
と、深々と頭を下げながら謝罪した。
それを見てヘリアテスは「あ……えっと……」と困惑した表情を見せる中、ゼウスは春風に近づき、
「いや、気にすんな春風。寧ろ、正直に気持ちを話してくれて、ありがとうな」
と、春風の肩にぽんと手を置きながら、優しい口調でそう言った後、
「で、取り敢えず今のところ、お前は連中をどうしたいんだ?」
と、尋ねた。
その質問に対して、春風はスッと顔を上げると、
「先程も言いましたが、連中に対する『怒り』は確かにあります。ですから、もし奴らと戦う事になったら、ボコるだけボコって後は神々の皆様にお任せします」
と、ハッキリと答えた。その答えを聞いて、
(あ、『ボコる』のは決定なんだ)
と、神々を除いたその場にいる誰もがそう思った。
それから少しして、
「はは、なるほどな」
と、ゼウスは笑いながらそう言うと、
「じゃあ、この話は一旦ここでお終いにするとして……彼女達の方はどうする気なんだ?」
と、ちらっとアリシア、エステル、ディック、ピートに視線を向けながらそう尋ねた。
その質問に対して、春風は「うっ!」と呻くと、
「それについても正直に申しますと、俺自身もどうすれば良いのかわかりません。俺、異世界人ですから、いずれは元の世界に帰る身ですし、だからといってこのままアメリアさん達を放っておく事も出来ませんし、なんとかしたいという想いもあるんですけど、現実的に考えて……」
『?』
「まず、アメリアさん達を養う『財力』がない」
『うっ!』
「それと、生活の拠点になる『家』もない」
『あぁ……』
春風のあまりにも身も蓋もない(?)言葉に、誰もがタラリと汗を流しながら納得の表情を浮かべた。その後、
「すみません、酷い事言ってるのは重々承知ですけど、アメリアさん達を守るとなるとこの2つはどうしても必須になる訳でして……」
と、春風が謝罪しながらそう言った瞬間、部屋の中が重苦しい空気に包まれていると、
「なるほど、そういう事でしたか」
と、フレデリックがそう口を開いたので、春風達が「え?」と一斉にフレデリックに視線を向けると、
「春風さん。あなたの悩みにつきましては、こちらでどうにか手助けが出来るかもしれません」
と、フレデリックは春風に向かってそう言ったので、
「え、本当ですか!?」
と、春風は表情を明るくした。
だが、その後すぐに、
「ですが、その為にあなたには、ある条件を呑んでもらいます」
と、フレデリックは真剣な表情でそう言ったので、
「じょ、条件……ですか?」
と、春風はたらりと汗を流した。それと同時に、周囲の人達もゴクリと唾を飲んだ。
そんな状況の中、
「そうです。そして、その条件とは……」
フレデリックは春風に、「とんでもない条件」を出し、それを聞いて、
『はぁ……はぁあああああああっ!?』
と、春風を含めた全員が、そう驚きの声をあげた。




