第61話 説明と、カミングアウト
お待たせしました、1日遅れの投稿です。
「あなたは、『勇者』なのですか?」
そう尋ねてきたオードリーに対して、春風はただ一言、
「違います」
と、ハッキリとそう即答した。
その答えを聞いて、レナをはじめとした周囲の人達(凛咲を除く)が「え? え?」と、目をパチクリとさせる中、オードリーは「ふふ……」と怪しげな笑みを浮かべて、
「随分と、ハッキリ答えますね」
と、まるで挑発するかのように言うと、
「事実ですから」
と、春風は真剣な眼差しをオードリーに向けながら答えた。
更に、
「で、市長さんは何処まで知ってるのですか?」
と、今度は春風がオードリーに向かってそう尋ねると、
「一応、全部知ってますよ。あなたとそちらの彼女が、ルーセンティア王国で何をしたかも、ね」
と、オードリーはチラッとレナを見ながらそう答えたので、視線を向けられたレナは思わず、
「ひっ!」
と、ビクッとなって背筋をピンッと伸ばした。
春風はオードリーの答えを聞いて、
「そうですか」
と、静かにそう呟くと、
「ちょっと質問しますが、もしかして……」
と、ちらりとフレデリックに視線を向けた。
その視線受けて、フレデリックはオードリーと同じように、
「ふふ……」
と、怪しげな笑みを浮かべたので、
(ああ、やっぱりこの人もか……)
と、春風は心の中でそう呟いた後、「はぁ」と溜め息を吐き、それを見たオードリーは再び「ふふ……」と怪しげな笑みを浮かべた。
その瞬間、部屋の中が何やら重苦しい空気に包まれたので、
「あのー、一体何がどういう事になってるのか、説明していただけるとありがたいのですが……」
と、それまで黙っていたタイラーが恐る恐る手を上げならそう言ってきたので、それを見たオードリーは、
「おや、これは失礼しました」
と、頭を下げて謝罪し、
「そうですねぇ……」
と、「うーん」と考える仕草をして、ちらりと春風を見た。
その視線を受けて、春風は「構いません」と言わんばかりに小さく頷くと、オードリーは「わかりました」と返事をして、説明を始めた。
「皆さんは、長き封印から目覚めた『邪神』とその『眷属』についての話は知ってますよね?」
と、春風とレナを含めた周囲の人達にそう尋ねると、
「ああ知ってるさ。『眷属』については、紅蓮の猛牛もメンバーが何人かやられてるよ。ただ全員死んではいないけど」
と、ヴァレリーは「忌々しい!」と言わんばかりに「ちっ!」と舌打ちしながら答えたので、オードリーは「あらあら……」と小さく言うと、再び説明を始めた。
「そう、今や『邪神』とその『眷属』については知らない者など1人もいないといった感じになってます。そして、そんな状況を打破する為に、今から1ヶ月と少し前、ルーセンティア王国でとある『儀式』が行われました」
「とある儀式?」
「ええ。こことは別の世界から、希望の救世主である『勇者』を召喚する『勇者召喚』の儀式です。当然、その儀式は成功し、結果として異世界から25人の『勇者』が召喚されました」
「はぁ!? 25人も!?」
「それは凄いですね。それだけいれば『邪神』だって倒せるんじゃないですか?」
と、オードリーの説明にそう反応したヴァレリーとタイラー。そして傍で聞いていたアメリアやディック達も「凄い!」と言わんばかりの驚きに満ちた表情になっていたが、
「……」
ただ1人、レナだけは険しい表情をしていた。
すると、
「ところが……」
と、オードリーがそう口を開いたので、ヴァレリー達が「ん?」と一斉に彼女を見ると、
「その中の1人が、『自分は勇者ではなく勇者召喚に巻き込まれた一般人だから』と言って国王の申し出を拒否し、その場に居合わせた1人のハンターの少女と一緒にルーセンティア王国を出ていってしまったのです。その際、騎士や神官達を相手に大暴れして」
と、オードリーは春風とレナを交互に見ながらそう説明した。
それを見た瞬間、
「え? ちょっと待て。それってまさか……!」
と、何かに気付いたかのようにヴァレリーがそう声をあげると、
「っ!」
と、レナが勢いよくソファーから立ち上がって片足をテーブルの上に置くと、
「アンタ、何処まで知ってる!?」
と、腰の剣を鞘から抜いて、その切先をオードリーに向けながら問い詰めた。
それを見て、
「ちょ、ちょっとレナ!」
と、レベッカがレナを落ち着かせようとしたが、
「ふー、ふー……」
と興奮しているのか、レナは切先をオードリーに向けたままだった。
すると、
「レナ」
と、春風が落ち着いた口調でレナに話しかけると、
「は! は、春風……」
と、レナは我に返り、春風を見て、
「良いの?」
と、尋ねた。
それに対して、
「大丈夫だから」
と、春風は優しくそう答えたので、レナは剣を鞘に納めると、ゆっくりとソファーに座った。
春風はそれを見た後、視線をオードリーに向けて、
「そうです、俺は『異世界人』。この世界の人間ではありません。そして、こちらの師匠も……」
と、ちらりと凛咲を見ながらそう言った。勿論、
「そ、私も異世界人よ。しかも、ハニーと同じ世界の住人」
と、春風に続くように凛咲もそう言ったので、それを聞いたヴァレリーやタイラー、レベッカにアメリア、エステル、ディック、ピートは
『えええええええぇ!?』
と、皆、驚きの声をあげて、反対にオードリーとフレデリックは、
「あら、そうでしたか」
「ほほう」
と、凛咲を見て落ち着いた口調でそう言った。




