第58話 「市長」からの招待・2
そして翌日、フロントラル市長オードリーの招待を受けて、春風達は行政区にある「市役所」にやってきた。
その市役所を前に、
(うぅ。すっごい緊張してきたぁ……)
と、春風は心の中でそう呟いた。春風自身、ハンターの仕事関連で何度か市役所に来た事があるのだが、今回は市長であるオードリーからの招待なので、「一体何が待っているのか?」と考えると、表情に出さないようにしているが、心の中は不安でいっぱいになっていた。しかし、
(もう、そんな事言ってられないよな)
と、そう考え直すと、春風はレナ達と共に市役所の中へと入っていった。
市役所の中は何人ものスーツ姿の職員が、それぞれの部署で黙々と自分達の仕事をこなしていて、それがハンターギルド総本部の中とは違う雰囲気を出していた。
そんな職員達を前に、春風達が一歩を踏み出そうとした、まさにその時、
「雪村春風様ですね?」
と、1人の女性が、春風に向かってそう尋ねてきた。
(ん? ここの職員さん……かな?)
と、なんとなくそう感じた春風は、
「はい、そうですが、どちら様でしょうか?」
と、女性に向かってそう返事しながら尋ね返すと、
「申し遅れました。私は、オードリー市長の秘書を務めている者です」
と、その女性はペコリと頭を下げながらそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、
「あ、ああそうでしたか」
と、春風も女性秘書に向かってぺこりと頭を下げながらそう言うと、
「本日私は、皆様を案内するようにとオードリー市長にそう言われてます。それでは、こちらへ」
と、女性秘書はそう言って、春風達を市役所の奥の方へと案内し出した。
暫く廊下を歩いたり階段を上がったりしていると、
「こちらで御座います」
と言って、女性秘書は大きな扉の前で立ち止まった。
そしてそれに合わせて春風達も立ち止まると、
「市長、雪村春風様達をお連れしました」
と、女性秘書はとんとんと扉をノックしながらそう言った。
すると、
「わかりました。どうぞ」
と、扉の向こうからオードリーの声でそう返事がしたので、
「失礼します」
と、女性秘書はそう言うと、扉をゆっくりと開けた。
扉の向こうはそれなりに広い部屋で、中央には大きめのテーブルが置かれ、それを挟むように黒いソファーが置かれている。
そして部屋の奥には立派な机が置かれていて、その机の後には、
「おはようございます、雪村春風さん」
と、市長のオードリーの姿があった。
そして彼女の周りには、ハンターギルド総本部長のフレデリック、レギオン「紅蓮の猛牛」リーダーのヴァレリー、レギオン「黄金の両手」リーダーのタイラー、そして、何故か宿屋「白い風見鶏」の女将レベッカの姿もあった。
彼女の姿を見て、
(あ、レベッカさん今朝から見ないなと思ったらもうここに来てたんだ)
と、春風が心の中でそう呟いていると、オードリーは穏やかな笑みを浮かべて机から中央のテーブル前に置かれたソファーへと移動し、
「立ち話もなんですので、どうぞ座ってください」
と、春風達に向かってそう言ったので、春風は「失礼します」と返事すると、レナ達と一緒に部屋に入り、オードリーと向かい合うように反対側のソファーに座った。ただ、ソファー自体は最大4人までしか座れないようで、ソファーには春風、レナ、凛咲、そしてアメリアが座り、エステル、ディック、ピートは女性秘書が用意した椅子に座った。
全員が座ったのを確認すると、
「さて、春風さん……それとも、ハルさんと呼んだ方がいいかしら?」
と、オードリーが穏やかな笑みを浮かべたままそう尋ねてきたので、
「春風で構いません。こちらが自分の本名ですから」
と、春風は真面目な表情でそう答えた。
その答えにオードリーが「わかりました」と言うと、
「少し顔色が良くないようですね。昨夜は眠れませんでしたか?」
と、再び春風に向かってそう尋ねてきたので、
「……色々と、ありまして」
と、春風は遠い目をしながらそう答えた。
あの「宴会」の後、本当に色々とあったのだが、それについてはいつか別の話で語りますので、ここでは伏せておく事にしよう。
とにかく、そう答えた春風に、オードリーは「ふふ……」と笑いながら、
「そうですか。まぁ、何があったかについては、これ以上は聞かないでおきます」
と言うと、
「さて、本題に入りましょうか」
と、先程まで穏やかな笑みを浮かべていた時からがらりと変わって、かなり真面目な表情になった。
そしてその後すぐに、女性秘書が春風に布で包まれた何かを見せた。
それから女性秘書はゆっくりと布をとって、包まれていたものを春風の目の前のテーブルに置いた。
それは、折れた剣の刀身で、それを見た瞬間、春風はその正体が何なのかを思い出した。
「あ、これギデオン大隊長って人の……」
そう、それはまさしく春風がへし折った断罪官大隊長ギデオン・シンクレアの「聖剣スパークル」の折れた刀身だった。
春風のその反応を見た後、
「さて春風さん、そして皆さん。詳しく聞かせてもらいますよ、『断罪官』と戦う事になった原因から、全てをね」
と、オードリーは穏やかな笑みを浮かべたままそう言ったので、
『……は、はい』
と、春風達は気まずそうにそう返事した。
凛咲1人を除いて。
前回の話ですが、サブタイトルと文章の一部に修正を加えました。




