第51話 「悪夢」からの……
「ごめんね春風君、間に合わなかった」
と、目の前でアマテラスにそう言われて、春風は思わず、
「……え?」
と、頭上に幾つもの「?」を浮かべながら首を傾げた。
そんな春風を前に、
「本当に……ごめんね」
と、アマテラスはそう言うと、まるで周囲の景色に溶け込むようにスゥッと消えた。
いや、アマテラスだけではない。ゼウスや、春風と契約したオーディン、そして他の地球の神々までもが、アマテラスと同じように消えていった。
そして、それからすぐに、春風の目の前に、故郷である「地球」が現れて、ぼろぼろと少しずつ崩壊していった。
「あぁ……地球が……」
目の前で起きてる事を見て、春風は顔を真っ青にして膝から崩れ落ちそうになった。
更に、崩壊している地球から、
『わぁあああああああっ!』
『きゃあああああああっ!』
と、人々の悲鳴のようなものまで聞こえてきたので、春風は更に顔を真っ青にした。
「い、嫌だ……聞きたくない、こんなもの聞きたくない!」
と、そう叫んだ春風は両耳を塞いだが、それでも悲鳴のようなものは鳴り止む事はなかった。
それから少しすると、地球は跡形もなく消滅し、それと同時に悲鳴のようなものも鳴り止んだ。
「あ……ああ……そんな。オヤジ。師匠。ユメちゃん。美羽さん。水音。先生。みんな……」
何もかもなくなったその場所で、春風は今度こそ膝から崩れ落ちた。
「みんな……いなくなってしまった。お……俺……俺が、もっと頑張っていたら……俺の所為で!」
その後、
「い、嫌だ……嫌だ嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……うわぁあああああああっ!」
春風は頭を抱えて悲鳴をあげた。
その時だ。
「大丈夫」
と、春風の背後でそんな声がしたので、
「……え?」
と、春風はそう反応すると、春風の後ろから2本の腕が伸びてきて、
「大丈夫。まだ、終わってないから」
春風を優しく抱き締めた。
「……う……んん」
ゆっくりと目を開けると、そこには天井があった。
(あ……あれ? ここ……は……?)
まだ意識がはっきりしてないのか、春風は今の自分の状況がよくわからなかった。
(俺……どうなったんだっけ?)
と、春風は心の中でそう呟きながら、それまでの記憶を思い出そうとすると、
(あれ? 俺、ベッドの中にいる?)
と、春風はそこで漸く自身がベッドに寝かされている事に気付いて、
(一体、何がどうなってるんだ?)
と、心の中で得そう呟くと、春風は意識がハッキリしないまま、ゆっくりと首を左右に動かした。
すると、
「春風」
と、すぐ傍で聞き覚えのある女性の声がしたので、
「……ん?」
と、春風はそれに反応したかのように声がした方へと首を動かすと、
「うふふ」
そこには、見覚えのある女性の顔があった。よく見ると、女性は春風の手をしっかり握っていた。
春風はその女性の顔を見て、
「あれ? 師匠?」
と、小さく呟いた。
その呟きを聞いて、
「そうだよ、春風」
と、「師匠」と呼ばれたその女性は、再び「うふふ」と穏やかに笑った。
すると、春風は目を細めて、
(……いや、そんな筈ない。だって俺、今『エルード』って異世界にいるんだから、ここに師匠が来てる筈はないんだ)
と、春風は心の中でそう否定し、
「じゃあ、これは『夢』なのかな」
と、今度はボソッと言葉にした。
すると、
「もう。『夢』なんかじゃないわよ」
と、「師匠」と呼ばれた女性は頬を膨らませながらそう返したので、
「……え?」
と、春風は未だ寝ぼけ眼ではあるがポカンとした表情になって、
「本当に、師匠なの?」
と、目の前にいる女性に向かってそう尋ねると、
「ええ。正真正銘、あなたの『師匠』よ、マイスウィートハニー」
と、「師匠」と呼ばれた女性はにこっと笑いながら、春風に向かって春風の事をそう呼んだ。
その瞬間、漸く意識がはっきりとしてきたのか、春風は大きく目を見開いて、
「えええええええっ!? しぃしょおおおおおおおっ!?」
と、がばっと上半身を起こしながらそう絶叫し、
「えへへ。やっほー!」
と、「師匠」と呼ばれた女性は、満面の笑みを浮かべてそう返事した。




