第46話 激突、断罪官・12
「固有職能『見習い賢者』の、固有職保持者だ!」
と、目の前にいるギデオン達に向かってそう名乗った春風に対して、レナをはじめとした周囲の人達は皆、
『なっ!?』
と、驚きを隠せないでいた。
それから少しすると、
「は……ハル君。き、君も……固有職保持者だったのか?」
「わ、私と……同じ?」
「「……」」
と、ショックのあまりアメリア、エステルは頭上に幾つもの「?」を浮かべ、ディックとピートは口をあんぐりしていた。
すると、
「ちょぉっとぉおおおおお! 春風ぁあああああ! 何で堂々と自分の『職能』バラしちゃうのぉおおおおお!?」
と、ハッと我に返ったレナが、春風の両肩を掴んで、ユッサユッサと揺さぶりながらそう問い詰めてきた。
その問いに対して春風は、
「ごめん! どうせいつかはバレる事だから、思い切ってぶち撒けちゃいました!」
と、全く悪びれもせずにそう答えた。
その答えを聞いたレナが「だからってぇ……!」と文句を言おうとしたが、
「そういうレナだって、その姿を見せて自分の正体バラしてるよね?」
と、それを遮るように春風はそう尋ねると、
「うぐ、それは……!」
と、レナはそれ以上何も言えなくなってしまった。
一方、断罪官側はというと、アメリア達と同じように春風の正体を知って口をあんぐりしていた。
そんな中、
「だ、大隊長……」
と、ルークがギデオンに話しかけると、
「……だと?」
と、ギデオンはルークに応えず、目の前の春風を見て何か呟いていたので、気になったルークはそれを聞こうとして少し近づくと、
「奴が……固有職保持者だと? 確か、『見習い賢者』と言ったか? なんてふざけた名前の職能だ。だが……」
と、ギデオンはそうぶつぶつと呟いていた。
明らかに様子がおかしいギデオンのその呟きを聞いて、心配になったルークが、
「だ、大隊長……!」
と、更に声をかけると、
「賢者……賢者だと!? 『始まりの悪魔』! 『最初の固有職保持者』と同じ、賢者だと言ったのか!?」
と、ギデオンは春風を見て問い詰めるようにそう叫んだ。
その叫びを聞いて、ルーク達だけじゃなく、春風達もギョッとなると、
「ふふ、ふはは……ふはははははははっ!」
と、ギデオンは狂ったように大声で笑い出し、
「なんと、なんと素晴らしき事か! 『異端者』と『裏切り者』のアメリアを追ってここまで来たら! 『悪しき種族』だけじゃなく、『始まりの悪魔』とも戦う機会も得られるとは! これも運命! いや、神の導きか!」
と、大声で叫んだ後、両腕を大きく広げながら、
「神よ! 偉大なる5柱の神々よ! 私は今、あなた方に感謝する!」
と、空に向かって更に大声でそう叫び、その後、「ふはは……!」とまた狂ったように大声で笑い出した。
そのあまりの様子に、周囲にいる誰もが何も言えずにいると、ギデオンはピタッと笑うのをやめて、
「『見習い賢者』と言ったな?」
と、春風に向かって真面目な表情でそう尋ねた。
いきなり尋ねられた春風はビクッとなったが、
「……ああ。『賢者』は『賢者』でも、力に目覚めたばかりの未熟な『見習い賢者』さ」
と、春風も真っ直ぐギデオンを見てそう答えた。
その答えを聞いて、ギデオンは「そうか」と呟くと、
「見習い……つまり、成長していずれは真の賢者になるという事か。ならば、そうなる前に貴様は、ここでこの私、断罪官大隊長ギデオン・シンクレアが、我が剣『聖剣スパークル』と、我が最大の奥義をもって直々に葬ってくれるわ!」
と、持っている剣、「聖剣スパークル」ーー以下、スパークルの切先を春風に向けながら言った。
その次の瞬間、スパークルを持ったギデオンの全身が、白銀の光に包まれた。
それを見た時、周囲の人達は「何かくる!」と感じて思わず身構えていると、ただ1人、春風だけは落ち着いた表情で一歩前に出て、
「やってみろよおっさん。そっちがそう来るなら……こっちはとっておきの技であんたに勝つ!」
と、ギデオンに向かってそう言い放った。
その言葉に「え、何『とっておき』って!?」と、レナ達が驚いていると、春風は左腕の籠手を見て、
「グラシアさん。あなたにどんな影響が出るかわかりませんので、レナ達と一緒にいてください」
と言った。
すると、籠手からスゥッとグラシアが出てきた。
突然現れた見知らぬ女性に、
「え、だ、誰!?」
とアメリアが驚き、
「む? あの女は……」
と、ギデオンが「はて?」と首を傾げている中、
「春風様、どうかお気をつけて」
と、グラシアはそう言ってレナの傍へと向かった。
春風はそれを見届けた後、腰の鉄扇にソッと触れて、
(師匠。彼岸花。ヘリアテス様。精霊の皆さん。俺に力を貸してください)
と、心の中でそう呟いて、ゆっくりと目を閉じると、
「風よ。炎よ。そして水よ。俺の声を聞き、俺のもとに集まれ」
と、唱えた。
すると、春風を中心に「円」が描かれ、そこから緑、赤、そして青い光が現れ、春風の全身を包み込み、それと同時に、春風の全身に何やら奇妙な紋様のようなものが浮かび上がった。
それを見たレナは「え、春風!?」と春風に声をかけたが、春風はそれを無視して更に唱え続ける。
「吹き抜ける風よ、天を舞う『翼』となれ。燃え盛る炎よ、敵を蝕む『痛み』となれ。湧き上がる水よ、友を救う『癒し』となれ!」
そう唱え続けていくうちに、春風の全身を包む3色の光が輝きを増していった。
そして、
「化身顕現……」
春風は閉じた目をカッと見開いて、叫んだ。
「羽ばたけ、フェニックスゥ!」
次の瞬間、春風の全身が3色の光によって完全に見えなくなったしまった。
その後、まるで弾けたかのように光がバッと消え去ると、そこに現れたのは……真紅の翼を持つ、1羽の大きな美しい鳥だった。




