第38話 激突、断罪官・4
以前にも少しだけ語ったと思うが、雪村春風(本名・光国春風)は、自身の「顔」があまり好きではなかった。
何故なら、春風自身の性別は「男」だが、その「顔」はどう見ても「女」のもので、それもかなり美しく、現在の春風の年齢なら「美少女」と呼べるくらいだった。
しかし、春風はこの「美少女」のような顔付きの所為で、小さい頃から近所の人達から女の子と間違えられたり、同い年の子供、特に男の子からは「女みたい」と揶揄われたりと、大変嫌な思いをしてきたが、それでも腐らずにいられたのは、今は亡き生みの親である両親と、現在の親である涼司をはじめとした多くの人達が、そんな春風を愛し、励ましてくれたからで、そのおかげでどうにか前向きに頑張って生きてこれたのだ。
そして現在、この「エルード」という異世界に来てからも、春風はフロントラルの住人や先輩ハンター達などから「女の子」呼ばわりされてきたが、レナや都市の中で知り合ってきた人達のおかげで、ここでも頑張って前向きになる事が出来た。
だが、断罪官のギデオン大隊長に女の子と間違われて、どうにか自身が「男」だと納得してもらえたが、
「そんな可憐な少女のような顔付きをした貴様が悪い!」
と、理不尽に怒鳴られ、終いには「ここで死んでもらう」と言われただけじゃなく、
「そうだそうだ!」
「貴様が悪い!」
「この男の敵が!」
と、隊員達にも怒鳴られてしまい、
(ちくしょう、こいつら! 俺だって好きでこんな顔してんじゃないのに!)
と、春風の心の中では、彼らに対する「怒りの炎」が激しく燃え上がっていた。
そして、挙げ句の果てには、
「まずは貴様からだ女顔!」
と、その1人である若い青年、断罪官副隊長のルーク・シンクレアにそう罵られてしまい、
「……あ? 今、なんて言った?」
その瞬間、春風の怒りが頂点に達してしまったので、
「もう勘弁ならねぇぞコラァ! あのギデオンのおっさんの前に、まずはテメェからボッコボコにしてくれるわぁ!」
と、完全にブチ切れた春風は、ルークに向かって怒りのままにそう怒鳴った。
そんな春風を見て、
「え、あ、あの、お兄さん……?」
と、ピートが(勿論、ディックとエステルも)戸惑いの表情を浮かべ、
「は、春風様?」
と、左腕の籠手に装着された魔導スマホ内のグラシアもオロオロしだしたが、春風はそれに構う事なく、
「アースハンマー!」
と、目の前の青年に向かって、土属性の魔術をお見舞いした。
「な、何!?」
突如、自分の頭上に現れた大きな土の塊に驚くルークだったが、その塊は彼めがけて勢いよく落ちてきた。
「くっ!」
当然、ルークは素早くその塊を回避したが、
「アースハンマー! アースハンマー! アースハンマー……!」
と、春風は何度もその土の魔術を唱え、それと同時に幾つもの土の塊がルークの上に現れ、その全てが彼に向かって勢いよく落ちてきた。
「うわ! くっ! こ、このぉ!」
と、ルークはその塊を間一髪のところで避け続け、
『る、ルーク副隊長ぉ!』
と、それを見た隊員達が悲鳴をあげた。
その後、
「お、おのれぇ……」
と、ルークが何度目かの回避に成功すると、
「よう」
「はっ!」
そのすぐに傍に春風が立っていた。
「き、きさま……」
と、ルークは驚きの声をあげたが、
「ぶっ飛べぇ!」
ーーズゴッ!
「ぶふぉあ!」
それを遮るかのように、春風は彼に向かって持っている杖のフルスイングをぶちかました。当然、その杖には風属性の魔力を纏わせている。
春風からの強烈な一撃を受けて、ルークは何度も地面に全身をバウンドさせた。
そして、最後のバウンドが終わると、またそのすぐ傍に春風が立っていた。
「トドメだ」
そう言って、春風は杖の先をルークの腹に当てると、
「ぜ〜ろ〜きょ〜り〜……ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール……!」
と、今度は炎属性の魔術をお見舞いした。それも、何発も。
激しい攻撃を受けて、
「ぐあああああああっ!」
と、ルークは断末魔の叫びをあげ、それを見た隊員達は、
「ふ、副隊長ぉおおおおおっ!」
「や、やめろぉおおおおおっ!」
と、それぞれ悲鳴をあげた。
そして、エステル、ディック、ピートは、
「「「う、うわぁ……」」」
と、春風のあまりの攻撃に頬を引き攣らせ、
「は、春風様ぁ……」
と、魔導スマホ内のグラシアも、春風を見て更にオロオロしていた。
やがて、何度目かの魔術攻撃を終えた春風は、
「ふん、参ったか!」
と、動かなくなったルークを、隊員達に向かって蹴り飛ばした。
飛ばされたルークのもとに、
『ふ、副隊長ぉおおおおお!』
と、悲鳴をあげた隊員達が集まってきたのを見て、
「ふぅ」
と、春風が一息入れると、
「次はお前らだ。かかってこいよ」
と、隊員達に向かってそう言った。
その時、
「貴様、よくもやってくれたな!」
という怒声がしたので、春風達が「っ!」と驚いてその声がした方へと振り向くと、そこにいたのは大隊長ギデオンと、
「ぐ……あ……」
彼に首を掴まれて、宙ぶらりんの状態になっている、
「アメリアさん!」
「ね、姉さん!」
傷だらけのアメリアだった。




