第36話 激突、断罪官・2
アメリアとギデオンの戦いが始まったその頃、ギデオンの放った攻撃(?)によって、アメリアと分断されてしまった春風達はというと、
(うおおおい! いきなりアメリアさんと分断されちまったんですけど!?)
と、まさかの事態に春風は内心ショックを受けていた。
そしてそれは、エステル、ディック、ピートも同様のようで、3人ともショックで顔を真っ青にしていた。
しかし、目の前にいるギデオン以外の断罪官の隊員達は、春風達を前にそれぞれ武器を構えて、今にも攻めてきそうな感じだったので、
(と、とにかく! 今はこの状況を切り抜けなきゃ!)
と、春風は気持ちを切り替える事にした。
断罪官達に睨まれる中、
「あー、ディック君だっけ? 君、人間を相手にした戦闘の経験、ある?」
と、春風は目の前にいる連中に視線を向けながら、隣にいるディックに小声でそう尋ねると、
「……ない」
と、ディックは若干気まずそうにそう答えたので、春風は「うーん、マジか……」と少し考え込んだ後、
「じゃあ、君が今持ってる矢はあとどれくらい残ってるの?」
と、チラッとディックが持ってる弓矢を見て、再びそう尋ねた。
すると、ディックも再び気まずそうな表情で答える。
「正直言うと、あいつら全員を相手にするには……足りないかも……」
その答えを聞いて、春風は「そっか。だったら……」と、腰のベルトに付けたポーチに左手を突っ込んだ、次の瞬間、
「今だ! 全隊員、突撃!」
と、断罪官の1人である若い青年が、他の隊員達に向かってそう命令すると、隊員達がその命令に従って、一斉に春風達に向かって突撃した。
それを見て、
「き、来たぁ!」
と、ピートが驚きの声をあげると、
「チィッ!」
と、春風は舌打ちをして、
「来い、『風』の魔力」
と、小さな声でそう呟いた。
すると、春風の持っている杖が「風」を纏い始めた。
その後、春風はその状態の杖を両手でグッと握り締めると、
「邪魔すんなぁっ!」
と、杖を力一杯横に振るった。
次の瞬間、春風の目の前に大きな竜巻が現れて、
『グアアアアアアアッ!』
と、突撃してきた隊員達を上空へと巻き上げた。
それからすぐに竜巻がおさまると、隊員達はぼとぼと地面に落ちた。
そんな彼らを見て、
「す、凄いやお兄さん! 今の魔術なの!?」
と、ピートが春風に向かってそう尋ねると、
「いいや。今のはこの杖に集めた風の魔力を竜巻に変えてだけだよ」
と、春風はピートに杖を見せながらそう答えた。
そう、春風がそう言ったように、今断罪官達に放ったのは魔術ではなく、杖に纏わせた自身の風属性の魔力を、竜巻に変えてぶっ放しただけのものだ。この技術はヘリアテスや精霊達との訓練で身に付けたものだが、詳しく語ると長くなってしまうので、今は置いておくとしよう。
まぁとにかく、その答えを聞いて、
「す、凄い」
と、エステルが関心する一方で、
「ば、馬鹿な、何だ今のは!? 風の魔術か!?」
と、目の前で起きた事に驚きを隠せない青年と断罪官達。
春風はそんな青年を含めた断罪官達を前に、
「よし、この隙に……」
と、再び腰のポーチに手を突っ込んだ。
そして、「よいしょ」とそこから取り出したのは、
「ディック君、これを使って」
「え、それは……弓矢!?」
と、ディックが驚いたように、春風が取り出したのは、ディックが持ってる弓よりも新そうな弓と、大きめの筒に入れられた数十本の矢だった。
「い、良いのか?」
と、春風が差し出した弓矢を見て、ディックが春風にそう尋ねると、
「ああ、構わないよ。で、矢の使い方なんだけど……」
と、春風はディックにとある「案」を出しながら、矢の使い方について教えていた。
その時、
「全員、動けるな!?」
『はっ!』
と、再び断罪官の隊員達が、春風達に向かって突撃してきた。
「うわぁ! また来た!」
と、再びピートが驚きの表情になると、
「ディック君、今だ! その矢であいつらの足元近くの地面を射抜くんだ!」
と、春風はディックに向かってそう指示を出した。
ディックはそれに対して、「え、ちょ……」と躊躇いの表情を見せたが、
「ええーい、わかったよ!」
と、半ばヤケクソ気味に矢の一本を取り出して、春風の指示通りに隊員達の足元近くの地面を射った。
そして、矢が地面に突き刺さった次の瞬間……。
ーードォンッ!
と、大きな音と共にその地面が爆発した。
その後、その爆発で起きた爆風によって、
『うわぁあああああっ!』
と、隊員達は皆、盛大に吹っ飛ばされた。
その状況を見て、矢を射たディックはポカンとしていると、
「お、オイ、アンタ! 一体この矢は何なんだ!?」
と、すぐに春風に詰め寄ってそう問い詰めた。
すると、春風は「あー」と若干気まずそうに、
「そいつはね、俺が作った特別製の矢だ」
と、親指を立てながらそう答えた。
それに対して、ディックが「おい……!?」と再び問い詰めようとしたが、そうこうしているうちに、
『うぅ……』
と、吹っ飛ばされていた隊員が、ゆっくりと立ち上がり、ぎろりと春風達を睨みつけた。
春風はそんな彼らを見て、
「ちぃっ! まだ来るってのか!?」
と、盛大に舌打ちをした後、
「ディック君、いけそうかい?」
と、春風はチラッとディックを見ながらそう尋ねた。
その質問に対して、
「……ああ、問題ない!」
と、ディックがそう答えると、春風は「わかった」と呟いて、
「よし! 俺達でこいつらをやっつけて、アメリアさんを助けに向かうぞ!」
と、目の前の隊員達に視線を向けたままそう言った。
それに対して、
「ああ、わかった!」
と、ディックも真っ直ぐ隊員達を見ながらそう返事をした。




