第34話 理不尽な奴ら、現る
「お前達には……ここで死んでもらう」
突如、春風達の前に現れた断罪官。そんな彼らを前に、
(な、なんでこの人達がここに!?)
と、春風は表情を強張らせながら、タラリと汗を流した。
そして、ふとアメリア達をチラッと見ると、
「ぎ、ギデオン……大隊長」
と、アメリアは断罪官らの中心に立つギデオン・シンクレアを見て、春風以上に表情を強張らせていた。
そんなアメリアを、ギデオンはギロリと睨みながら口を開く。
「久しぶりだな、アメリア・スターク」
そう言ったギデオンに対して、
「ま、まさか大隊長がここに来るとは。ですが、何故……」
と、アメリアが質問しようとすると、ギデオンはそれを遮るように、
「何故ここがわかった、か? お前達がこの辺りに隠れているのはフロントラルに来た時点で調べはついていた。そして、漸く見つけたので、こうしてやって来たという訳だが……」
と答えた後、
「まさか、ここで貴様と出会うとはな」
と、今度はと春風をギロリと睨みつけた。
その視線を受けて、春風はビクッとなり、アメリア達は、「え、君何したの?」と言わんばかりに春風に視線を向けた。
彼女達からの視線も受けて、春風は「うぅ……」と若干気まずそうになると、
「貴様にはもう一度会って文句を言おうと思っていたが、まさか我々が探していた『異端者』と『裏切り者』と一緒にいるとはな。丁度いい、貴様も一緒にここで葬ってやろう」
と、ギデオンが春風を見てそう言ってきたので、春風は「ん?」となって、
「え、待ってください、『文句』って何ですか? 『文句』って」
と、頭上に「?」を浮かべながらそう尋ねると、
「勿論、昨日私と会った時の事だ」
と、ギデオンはそう答えたので、
(ですよねー)
と、春風が頬を引き攣らせていると、
「よくもこの私を勘違いさせてくれたな」
と、更にギロリと睨みながらそう言ってきたので、
「はあ!? ちょっと待ってください! 『文句』ってそういう事ですか!? 俺、ちゃんと『男』だって証明しましたよねぇ!?」
と、大慌てで再びギデオンに向かってそう尋ねた。
すると、ギデオンは表情を暗くしながら、
「ああ、そうとも。あの時、貴様があれを私に見せた事で、貴様が『男』だという事は証明された。だが、あれから冷静になった後、貴様に対する『怒り』が湧いたのだ。先程も言ったが、よくも私を勘違いさせてくれたな。本当なら色々と文句を言いたかったが、こうして貴様が『異端者』どもと一緒にいてくれて良かった。これで心置きなく、貴様を我々が崇める『神々』と、我々の『正義』の名の下に討伐する事が出来る」
そう言って、ギデオンは腰のベルトに挿した剣の柄に手を置いた。それと同時に、周りの断罪官の隊員達も、それぞれ自分の武器を手に取った。そしてよく見ると、皆、春風を激しく睨んでいるかのように見えた。
ギデオンの言葉に、春風は「そんなアホな」と言わんばかりに口を開けて呆然となったが、すぐに怒りが湧き上がって、
「ふ、ふざけんなぁ! そんな理由で俺殺されるとか冗談じゃねぇぞ! 大体、あんたが勝手に勘違いしたのが悪いんじゃねぇか!」
と、ギデオンに向かってそう怒鳴ったが、
「黙れ! 全ては『男』でありながら、そんな可憐な少女のような顔付きをした貴様が悪い! 貴様のような存在を生かしておけば、多くの罪なき男達が貴様によって弄ばれるだろう! ならば、ここで『異端者』と『裏切り者』のアメリア諸共、ここで死んでもらう!」
と、ギデオンに怒鳴り返されてしまったので、
「え、俺もの凄く理不尽な事言われてる!? ていうか酷い誤解だし! 俺、そんな事する気もねぇし!」
と、春風は「ま、負けるか!」と言わんばかりにギデオンに向かってそう言い返したが、
「そうだそうだ!」
「貴様が悪い!」
「この男の敵が!」
と、ギデオンの傍にいる断罪官の隊員達にそう言われてしまい、
「ええ、何こいつら超失礼……」
と、春風はショックでその場に膝から崩れ落ちそうになったが、すぐに踏ん張って、
「ちょっとアメリアさん! 本当にあなたあの連中の仲間だったんですか!?」
と、若干涙目になりながらアメリアを見てそう尋ねると、
「え、ええっとぉ……」
と、アメリアは滝のように汗をかきながらそっぽ向いた。それと同時に、
「うぅ。私は、あんな連中に殺されたの? あんな連中に、私は大切な人達を奪われたの?」
と、春風の左腕の籠手(もっと言えば内部に装着された魔導スマホ)の中から、グラシアの啜り泣く声が聞こえた。
そんな春風を無視して、
「あ、そうだアメリアよ」
と、ギデオンが急に何かを思い出したかのようにアメリアに話しかけたので、
「え、な、何でしょうか?」
と、アメリアは恐る恐る返事すると、
「ケネス小隊長とその隊員達は皆生きてるぞ」
と、ギデオンは真っ直ぐアメリアを見てそう言った。
その言葉を聞いて、
「え、それは、どういう……」
と、アメリアが尋ねようとしたが、
「さぁ、最後のおしゃべりはここまでにするとして……全員、覚悟するがいい」
と、ギデオンはそう言って、剣を鞘から引き抜き、それを構えた。
それと同時に、隊員達もそれぞれ武器を手に取って構え出した。
それを見てアメリア達も身構える中、春風はというと、体をプルプルと震わせながら、
「どいつもこいつも……もう、あったまきた!」
と言って、
「上等だよこんちくしょうが! お前ら、全員まとめて返り討ちにしてやる!」
自身の武器である杖を構えて戦闘態勢に入った。




