第31話 「異端者」と「裏切り者」・2
今回も、いつもより短めの話になります。
アメリアが断罪官に配属されてから、数ヶ月の時が経った。
「異端者討伐」という名の殺人行為は、彼女の心をかなり壊していたのだが、それでも彼女は、
「大丈夫。私には守りたい大切な人達がいる。これは、それを守る為に必要な事なんだ」
と自分に言い聞かせながら、所属している小隊の隊長と仲間達と共に、数多くの任務をこなしていった。
そんな日々を送っていたある日、彼女が所属している小隊に、新たな「任務」が下された。
任務の内容自体は、普段アメリア達が受けている「異端者討伐」の任務と同じなのだが、問題はその「異端者」が現れた場所だった。
任務の目的地であるその場所とは、アメリアの生まれ故郷だったのだ。
時は少し遡り、そのアメリアの故郷の村で、ある「事件」が起きた。
彼女の村の住人達は基本的に良い人達なのだが、その村の村長の息子であるブレントは、その立場を利用して、日頃から取り巻き達と悪さばかりをしている厄介者で、その所為で村人達から嫌われていた。
村長である父親はそんなブレントをいつも叱ってはいるのだが、最後は母親が甘やかしてしまうので、ブレントの素行の悪さは良くなる事はなく、寧ろ年を重ねる毎に悪化していったのだ。
そして、そんなブレントが成人を迎えて職能を授かった時、彼の悪行は更に酷くなっていった。
彼が授かった職能は、「猛闘士」。
アメリアが授かった「聖闘士」と同じ、上位の戦闘系職能だ。
その職能が大変気に入ったのか、ブレントはいつも周囲の人達に見せつけるように、その力を存分に振るっていった。
更に悪い事に、ブレント本人の性格がその職能と相性が良過ぎた所為か、村に住む戦闘系職能保持者達を軽く超える力を発揮していたのだ。そのあまりの強さに、父親どころか村の大人達でも、彼の前には手も足も出なかった。
そしてそんなブレントを、母親は止めるどころかますます甘やかしていった。
そういった日々を過ごしていくうちに、だんだん調子に乗ったブレントは、とうとうあるとんでもない「事件」を起こした。
アメリアの妹エステルを、無理矢理自分の女にしようとしたのだ。
元々ブレントは、エステルに対して好意を持っていたのだが、いつも姉のアメリアと、エステルの幼馴染みであるディックに邪魔されてしまい、またエステル本人もブレントを嫌っていた為、中々手を出せないでいた。
しかし今、そのアメリアは村にはいなくて、エステルを守ってるのはディックのみ。弟のピートもいるのだが、こちらは全く眼中になかった。
おまけに自身には「猛戦士」の職能がある。
そしてそれに加えて、エステルは村にいる同年代の少女達の中でも一際美しく成長していた。
ならば、エステルを手に入れられるのは今しかないと考え、ブレントは口元を醜く歪めながら、取り巻き達と共に行動を開始した。
これにはディックだけでなく村人達も、怒ってブレント達に立ち向かったが、力はブレントの方が圧倒的に強く、また取り巻き達の中にはブレントと同じような職能を授かった者もいた為、ディックと村人達はなす術もなく彼らに敗北した。
それを見た瞬間、
「許せない……絶対に、許せない!」
エステルの心は、激しい「怒り」に染まった。
そして、
「だ、駄目だエステル! 『力』を使っちゃ駄目だ!」
と、止めようとしたディックを無視して、
「全員、呪われろ!」
エステルは怒りのままに「呪術師」の力を使い、ブレントとその取り巻き達を全員呪った。
それは、あまりにも凶悪な呪いで、それを受けたブレントと取り巻き達は、あっという間に戦闘不能に陥ってしまった。
こうしてブレントが引き起こした「事件」は幕を閉じたが、エステルの力は家族だけでなく村人全員にまで知れ渡り、その話は村にいた神官を通して五神教会に、そして断罪官にまで伝わり、その結果アメリアがいる小隊がエステルの討伐任務を受ける事になって、
「そんな、エステルが……嘘だ、嘘だ!」
アメリアは、ショックで膝から崩れ落ちた。




