第30話 「異端者」と「裏切り者」
「そして私は、妹を守る為に、断罪官を……仲間を裏切ったんだ」
そう言ったアメリアの言葉に、その場にいる誰もが沈黙している中、
「……えっと。それってつまり、アメリアさんも断罪官だったんですか?」
と、春風がゆっくりと口を開いてそう尋ねると、アメリアは黙ってコクリと頷いた。
それを見て、春風は「マジか」と言わんばかりに後ろに倒れようとしたが、「いかんいかん!」とどうにか踏ん張って「ふぅ」とひと息入れると、
「……取り敢えず、順を追って説明をお願いします」
と、アメリアに向かってそうお願いした。
それに対して、彼女は再びコクリと頷きながら「わかった」と言うと、エステル、ディック、ピートを交えて、自分達の事について話し始めた。
アメリア、エステル、ディック、ピートの4人は、元々はエルードの辺境にある小さな村に住む幼馴染みで、現在アメリアは20歳、エステルとディックは15歳、最後にピートは12歳だ。
アメリアと妹のエステルには優しい両親がいるのだが、ディックと弟のピートはというと、幼い時に父親を魔物に殺され、その後を追うように母親も病気で亡くなってしまい、それ以後はアメリアとエステルの両親、そして他の村人達の世話になりながら、穏やかな日々を送っていたという。
しかし、エステルには誰にも言えない、ある「秘密」があった。
それは、自身が「呪術師」の固有職能を持つ固有職保持者だという事だったのだ。
どういう職能かというと、エステル曰く、他者に良い影響もたらす「呪い」と、その反対に悪い影響をもたらす「呪い」を操る職能で、それは彼女が物心ついた時に既に持っていたものだという。
両親は共に五神教会に所属していて、日頃から彼らに固有職保持者がどういう存在かを教えられてきた為、エステルのこの職能の事は、他人どころか家族ーー姉のアメリアにも言えない「秘密」だったのだが、ただ1人、幼馴染みのディックだけは、この職能の事を知っていた。知っていて、彼は一緒に秘密にしてくれたのだ。
それから時が経って、アメリアが成人になった証として「聖闘士」の職能を授かった。アメリア曰く、聖なる光の力を扱う上位の戦闘系職能だという。
そして、その職能を授かってすぐに、アメリアは五神教会にスカウトされ、彼女は1人故郷の村を出て、教会の本部があるルーセンティア王国へと旅立ったのだ。
それから数年後、厳しい訓練が終わると、優れた能力を見出されたアメリアは、教会の「影」を司る部隊と言われている、異端者討伐部隊「断罪官」に配属された。
「神の名のもとに異端者を討伐する」
という信念を掲げる「断罪官」という部隊を、アメリアは最初、「素晴らしい」と思っていた。彼らと共に異端者と戦う事が、故郷にいる大切な人達を守る事に繋がっていると考えていたからだ。
しかし、配属されて間もなく、彼女はその部隊の恐ろしい真実を知る事になった。
配属される前の彼女は、その部隊の事を「悪人と戦い、捕まえる為の部隊」だと思い込んでいたが、実際彼らがやっているのは、明らかに「人殺し」だった。
しかも、ただ目的の「異端者」を殺すというだけじゃない。その周囲の人達、もっと言えば、ちょっとその異端者に関わっただけの人間まで殺していたのだ。
それが、アメリアにとってあまりにも衝撃的だった。
彼女は最初、人を殺すのに躊躇いを見せていたのだが、何度も何度も殺していくうちに、だんだんその感覚が麻痺していった。
いや、正しくは、彼女の心が壊れていったというべきだろう。
一方、村に残っているエステル、ディック、ピートはというと、その日、ディックはアメリアと同じように成人になった証として「弓闘士」の職能を授かった。
それは、亡きディックとピートの父親と同じ職能だったので、その職能を授かった事にディックとピートだけでなく、アメリアとエステルの両親までもが大喜びしていたのだが、エステルはというと、逆に不安に苛まれていた。
何故なら、エステルには既に「呪術師」の職能を持っていた為、彼女が成人になるという事は、この職能の事も周囲にバレてしまう事になるからだ。
この事はディックにも相談したかったのだが、下手をすると彼にも迷惑がかかってしまうと思い、エステルは1人思い悩む日々を送っていた。
そして、とうとうエステルが成人する日が近づいてきたまさにその時、村の中で「事件」が起きてしまう。
そう、彼女が大切なものを失う事になる「悲劇」のきっかけとなる「事件」が……。




