第23話 「虐殺部隊」がやって来た
それから春風は、フロントラルに戻った後、ギルド総本部で「仕事終わりました!」と報告して報酬を貰うと、いつものように資料室に籠って勉強し、宿屋「白い風見鶏」で夕食を済ませて、部屋に戻って就寝した。
ただ、その際に、
(それにしても、あの子達は一体何者なんだ?)
と、昼間に出会った2人の少年達の姿が脳裏に浮かんだが、
「ま、考えてもしょうがないか」
と、気持ちを切り替える事にした。
その出来事が、後に「厄介な事態」に巻き込まれるきっかけになる事も知らずに。
翌日、朝起きて朝食を済ませた春風が、仕事を受けにギルド総本部へと向かおうとした、まさにその時、
「待ちな!」
「へ? うわぁ、何!?」
出入り口でいきなりレベッカに肩を掴まれ、食堂の中へと戻されてしまった。
突然の事に春風は、
「ちょっとレベッカさん、一体なん……!?」
と、レベッカに何事か尋ねようとしたが、
「しぃっ!」
「むが!?」
と、最後まで言い終える前にレベッカに口を塞がれてしまった。
(な、何!? 一体何なんだ!?)
と、春風は訳がわからないと言わんばかりに、頭上に幾つもの「?」を浮かべていると、
「……どうした?」
と、厨房から出てきたデニスが、レベッカに向かってそう尋ねた。
すると、レベッカは真剣な表情でデニスに答える。
「『断罪官』が来てる」
「っ!」
その答えを聞いて、デニスは顔を真っ青にすると、すぐにウェンディと共に厨房へと身を隠した。
デニス達だけではない、食堂にいる者達や、宿泊している者達も、大慌てで身を隠し始めた。
あまりの事に春風は、
「あの、『断罪官』って何ですか?」
と、恐る恐る小声でレベッカにそう尋ねると、
「っ!? アンタ、知らないのかい!?」
と、レベッカは大きく目を見開いて、
「ちょっと来な」
と言うと、春風を食堂の窓へと誘い、
「あれを見るんだ。ただし、静かにな」
と、窓の外を見ろと言った。
それを聞いて、春風は「ますます訳がわからない」と思いながらも、レベッカに従って、静かに窓の外を見た。
すると、窓の外に馬に乗った黒い鎧を纏った集団が、ゾロゾロと通りを走っていくのが見えた。
(な、何あれ?)
その異様な雰囲気を纏った集団を見て、春風はタラリと汗を流した。
その時だ。
ーーむず。
「っ?」
左腕……というより銀の籠手に何やら妙なものを感じた春風は、思わず銀の籠手に触れたが、気持ちに余裕がないのか、春風はゆっくりと視線をレベッカに移して、
「……もしかして、あの人達が?」
と、恐る恐るそう尋ねると、
「そうさ、あれが『断罪官』。五神教会お抱えの『異端者討伐部隊』で、別名『虐殺部隊』とも呼ばれているのさ」
と、レベッカは真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「ぎゃ、虐殺部隊……ですか。随分と物騒な異名ですね」
と、春風がゴクリと唾を飲みながらそう言うと、
「そうさ。『偉大なる5柱の神々の名の下に異端者を討つ』という名目で、その名の通り神に背く存在ーー『異端者』を問答無用でぶっ殺しまくっている部隊さ。それだけでもやばいのに、少しでも『異端者』に関わる者が現れたら、そいつも問答無用でぶっ殺したりもしているのさ。それこそ、老若男女問わず、な」
「え、す、少しでも関わるって、それってちょっと話すだけでもですか?」
「ああ、そうとも。連中曰く、『異端者は世界の穢れ。その穢れに少しでも触れれば、その者も穢れの一部となるだろう』ってな。それ故に、少しでも異端者に関わったら、そいつも異端者としてぶっ殺されてしまうって訳さ」
そう答えたレベッカに、春風は「そんな……」とデニスと同じように顔を真っ青にすると、
「なぁ、ハル。所持金に余裕はあるかい?」
と、レベッカがそう尋ねてきたので、春風は「は?」と首を傾げたが、
「は、はい、大丈夫です。まだ余裕はあります」
と、すぐにハッと我に返って、レベッカに向かってそう答えると、
「なら、今日は仕事はよしてここにいな。何処であんな連中に目をつけられるかわからないからね。アンタ、連中の事知らないみたいだし」
と、レベッカは春風の肩に手を置きながらそう言った。
春風はそんなレベッカを見て、
「……はい、そうします」
と返すと、ゆっくりと立ち上がって静かに自分の部屋に戻った。
その後、春風は部屋のベッドの上で膝を抱えて座りながら、
「断罪官……か」
と、先程見た「断罪官」という集団を思い出して、
「ユメちゃん、美羽さん、水音、先生、みんな……」
と、ルーセンティア王国にいる同郷の者達の事を考えだした。
その時、
「春風様」
と、左腕の籠手からグラシアが出てきた。
「あ、グラシアさん」
その姿を見た時、春風は「断罪官」を見た時に感じた妙なものを思い出して、
「あの、さっきは一体どうしたんですか? 何か妙なものを感じたんですが」
と、グラシアに向かってそう尋ねた。
すると、グラシアは「それは……」と答えるのを躊躇ったが、やがて意を決したのか、
「実は、春風様に話さなきゃいけない事があるのです」
と、真っ直ぐ春風を見ながらそう答えた。
その答えに、春風は首を傾げながら「?」を浮かべていると、
「先程見た断罪官達の、先頭にいた男の事なのですが」
と、グラシアはそう答えたので、
「え? 先頭って……あぁ、あの凄く威厳に満ちてそうな男の人ですか?」
と、春風は断罪官達の先頭にいた男性を思い出した。
それにグラシアは無言でコクリと頷いたので、
「グラシアさんは、あの男の人の事を知ってるんですか?」
と、春風は恐る恐るそう尋ねると、グラシアは表情を暗くして、グッと自分自身を抱き締めながら答える。
「あの男は……私を殺した男です」
「……え?」




