第20話 「魔術師ハル」のハンター生活
ルーセンティア王国で「勇者召喚」が行われ、1人の少年がその国を出て行ってから、1ヶ月が経った。
その間、召喚された「勇者」達はある程度訓練を受けた後、王都に住む人々に大々的に紹介された。
ただ、その前にとある出来事があったのだが、ここで語る話ではないので、その話は今は置いておくとしよう。
さて、「勇者」達が紹介された一方で、彼らのもとを去り、ルーセンティア国を出て行ったその少年、雪村春風はというと、
「ハル、『銅2級』への昇格おめでとう!」
「おめでとうございます、春風様」
「ありがとう、レナ、グラシアさん」
その国から離れた位置にある「中立都市フロントラル」で、ハンターのハルとして逞しく生きていた。
ギルドに登録した翌日から、春風はハンターとして数多くの仕事をこなしていった。
といっても、まだ登録したばかりの新人なので、受けられる仕事は主に都市周辺にある森で回復薬等の調合に必要な薬草の採取をしたり、都市内部で暮らす住人達のちょっとしたお手伝い(要するに使いパシリ)などといった、ハンターの仕事として最もランクの低いものに限られていた。
ランクが低いので得られる報酬も少なく、大抵の新米ハンター達は「はぁ」と皆、溜め息を吐いていたが、春風はそれらの仕事を決して侮ったりせず、どの仕事にもきちんと向き合い、その全てを全力でこなしていった。
ただ、その為に仕事をこなす早さは高くなく、寧ろ「遅い」と思われている方で、
「あいつ、この程度の依頼で何をもたついているんだ?」
と、周囲の人達(主に一部に先輩ハンター達)からは見下されていたが、
「やるからには、完璧にやる!」
と、春風はそんな声に負けずに、真剣に仕事に取り組んでいった。
そんな風に過ごしていくうちに、
「彼のおかげで家の事が助かった」
「彼がいてくれなかったら、うちは大変な事になってた」
「彼はここに必要な人間だ」
と、だんだんと春風を認める声があがるようになり、春風は着実に住人達からの「信頼」を得ていた。その結果、春風は初期ランクの「銅3級」から「銅2級」への昇格を果たしたのだ。
「ここまで結構大変だったなぁ」
と、春風はここまでの過程を思い出して遠い目をしていると、
「ハルが頑張った成果だよぉ」
「そうです。春風様はギルドの仕事以外でも頑張っていましたし」
と、レナとグラシアは笑顔でそう言った。
現在、春風達はフロントラル近くの森の中で、春風のハンターランク昇格のお祝いをしていた。幽霊であるグラシアがいるので、都市の中では春風の昇格を祝う事が出来ないからだ。
とまぁ、それはさておき、レナとグラシアに褒められて、
「あー、うん。ありがとう」
と、春風は照れくさそうに顔を赤くしながら言った。
グラシアの言うように、春風はハンターとしての仕事以外にも力を入れている事があった。
それは、「知識」を身に付ける事だった。
実はギルド総本部には、様々な資料が保管された「資料室」という部屋があり、外に持ち出す事は出来ないが、許可を貰えれば誰もが閲覧する事が出来るのだ。
つまり春風は、仕事以外の時はその資料室に籠って、簡単な歴史から都市周辺の地理、更には生息している魔物について勉強していたのだ。
(ヘリアテス様の所にも資料はあったけど、あそこも結構面白いものがあって、勉強しがいがあったなぁ)
と、春風はその時の事を思い出した後、
「さてと!」
と、スッと立ち上がって、
「それじゃあ、暗くならないうちにフロントラルに戻りますか」
と、レナとグラシアに向かってそう言った。
それに対して、
「うん!」
「はい、わかりました」
と、レナとグラシアも笑顔でそう返事すると、フロントラルへと戻った。
だが、それから更に数日後、春風は自身の運命が大きく動く事になる、とある出来事に遭遇する事になるのだが、この時の彼はそれを知らなかった。
どうも、ハヤテです。
今回、春風君がハンターになってから時が経った頃の話となりましたが、彼がどのような仕事をしていたかについては、別の形で語っていく予定です。




