第14話 春風、質問に答える
「お前、何処から来たんだ?」
と、ヴァレリーが春風に向かってそう尋ねてきた瞬間、食堂内は一気に緊張に包まれた。
周囲の人達が、ゴクリとと唾を飲みながらこっそりと見守る中、春風は落ち着いた様子で、
「遠い所ですよ。とんでもなく遠い所から来ました」
と、穏やかな表情を浮かべながら答えた。
その答えを聞いて、
「……随分と、ざっくりした表現をするんだな」
と、ヴァレリーは「納得出来るか!」と言わんばかりの表情でそう言うと、
「申し訳ありません。なにせかなり特殊な場所ですので、詳しい事を言うのは『掟』で禁止されているんです」
と、春風は「はは」と苦笑いしながらそう返した。
ヴァレリーはその言葉を聞いて、
「ふーん。掟……ねぇ」
と、目を細めながら呟くと、
「なら質問を変えよう。そんな特殊な場所から来たお前が、なんで『ハンター』をやる事になったんだ?」
と、尋ねてきた。
その質問を聞いて、
ーーさぁ、どう答える!?
と、周囲の人達がジィッと春風を見つめている中、
「『それは言えません』……じゃ、駄目でしょうか?」
と、春風は「参ったな」と言わんばかりの困った笑みを浮かべながらそう言ったが、
「勿論駄目だ。悪いが答えてもらうぞ」
と、ヴァレリーにそう返されてしまい、春風は「困ったな」と小さく呟きながら、ポリポリと自分の頭を掻いた後、「はぁ」と溜め息を吐きながら答える。
「理由は詳しく言えませんが、2つあります。1つは、とあるお方から、大切な『お願い』をされてましてね、その『お願い』を叶える為には、肉体的、精神的な『強さ』が必要なんです」
その答えを聞いて、
「ほう、『お願い』とな。で、もう1つは?」
と、ヴァレリーは目を細めながらそう尋ねると、
「そのお方の『お願い』を叶えたいという意志はありますけど、自分自身が『強くなりたいから』というのが大きいですね」
と、春風がそう答えたので、それを聞いて、
「驚いたな、あれでも結構強いと思ってるのにまだ強くなりたいのか?」
と、ヴァレリーが意外なものを見るかのような表情でそう尋ねてきたので、
「ええ、自分はもっと強くなりたいんです。知恵も、肉体も、そして精神も、ね」
と、春風はグッと握り締めた自身の両手を見ながらそう答えた。
それに対して、ヴァレリーはこれ以上聞くのを躊躇う素振りを見せたが、やはり気になったのか、ゴクリと唾を飲んだ後、
「……なんの為にだ?」
と、恐る恐る尋ねると、
「決まってるでしょ。自分と、自分の大事なものを守る為です」
と、春風は真っ直ぐヴァレリーを見てそう答えた。
そんな春風の雰囲気に、何やらただならぬものを感じたのか、その場にいる誰もがタラリと汗を流した。当然、その中にはヴァレリーも含まれていて、
「……それが、お前が『ハンター』になった理由か?」
と、ヴァレリーはゆっくりと口を開きながらそう尋ねると、
「ええ。『色んな人達と出会い、関わる事で、君は更なる強さを得るだろう』と言われまして。で、ハンターになる為に故郷を出る前に、そのお方から『レナのもとに行け』とも言われて……」
と、春風はヴァレリーの隣に座るレナを見ながらそう答えたので、ヴァレリーは「え、マジで?」と言わんばかりにレナの方へと振り向くと、
「ふふん。私、こう見えて色んなお知り合いがいるんですよ。で、そのお知り合いの1人から、『ハルを預かって欲しい』という依頼を受けまして、こうして一緒にいるというわけ」
と、レナは椅子に座った状態のまま、ヴァレリーに向かってドヤ顔で言った。
そんなレナの表情を見て、ヴァレリーが少しイラッとなったのが見えたが、春風はスルーする事にした。
その時、
「……お待ちどうさま」
と、奥の部屋から料理人のデニスが現れて、春風、レナ、タイラーの前に出来上がった料理を並べた。
それは、一見ビーフシチューのようなもので、そこから発せられた香ばしい匂いに鼻をくすぐられたのか、
「わぁ、凄く美味しそう!」
と、先程までのただならぬ雰囲気からがらりと表情を変えた春風は、そう声に出して喜ぶと、料理と一緒に用意された木製のスプーンを手にとって、
「いただきます」
と、目の前の料理を食べ始めた。当然、レナも一緒だ。
「あ、凄く美味しい!」
と、とても美味しそうに料理を食べる春風を見て、デニスは嬉しそうな表情を浮かべたが、レベッカやヴァレリー、タイラー、そしてその他の人達はというと、
『一体こいつは何者なんだ?』
と、皆、そう言わんばかりの視線を春風に向けていたので、デニスはそんな彼女達を見て、頭上に大きな「?」を浮かべた。




