第9話 「戦い」の後
その後、
「はいはい皆さん、2人の戦いは終わりましたので、本日はもう解散ですよぉ」
と、フレデリックが手をパンパンと叩きながらそう言うと、周囲の人達はぞろぞろとその場を後にした。
その際、
「ところでヴァレリーさん、右手の方は大丈夫ですか?」
と、フレデリックがヴァレリーの右手を見てそう尋ねると、
「ああ、大した事はないさ。こんなの唾つけとけば治る」
と、何事もなかったかのように右手をぷらぷらと振ったが、
「うぐっ!」
と、その手をピタッと止めたので、
「ヴァレリーさん」
と、フレデリックは顔こそ笑ってはいるがもの凄いプレッシャーをヴァレリーに浴びせた。
それを受けたヴァレリーは、
「……」
と、目の前にいる笑顔のフレデリックを見てたらりと冷や汗を流し、巻き込まれた形で同じくプレッシャーを受けた春風は、
「あわわ……」
と、蛇に睨まれた蛙の如くがたがたと体を震わせた。
そんな春風をちらっと見て、
「わかったわかった! ちゃんと医務室で診てもらうから!」
と、ヴァレリーは降参したかのように両手を上げながらそう言うと、大慌てでその場から歩き出した。
そして、彼女が小闘技場から出て行った後、フレデリックは春風の方へと振り向いて、
「ではハルさん」
と、話しかけてきたので、春風は思わず、
「は、はいぃ!」
と、ビシッと姿勢を正しながら返事した。
そんな春風を見て、フレデリックは「ふふ」と笑うと、
「あなたのご活躍、楽しみにしていますよ」
と言って、スタスタとその場から歩き出し、小闘技場から出て行った。
さて、残された春風はというと、
「……はぁ、怖かった。あの人には出来るだけ逆らわないようにしよう」
と、疲れた表情でそう決意した。
その時、
「春風!」
という声が聞こえたので、春風が「ん?」と頭上に「?」を浮かべると……。
ーーガバッ!
「うわ! れ、レナァ!?」
なんと、いきなりレナが抱きついてきたのだ。
「ちょ、ど、どうしたのさレナ!?」
と、春風は突然の事に驚きながらも、なんとか冷静な態度でレナに尋ねると、
「よかった。春風が無事で本当によかった」
と、レナはギュッと抱き締める力を強くしながら答えた。
どうやら春風が思ってる以上に、レナは春風の事を心配していたようで、それを理解すると、
「……ごめん、レナ。心配かけて」
と、少し躊躇ったが、春風もそっとレナを抱き締めながらそう謝罪した。
ただその際に、
(うぅ。これは浮気とかそんなではない! そんなではないけど……ごめん、ユメちゃん美羽さん師匠!)
と、この場にいない2人の少女と1人の女性に向かって、心の中でそう謝罪した。
すると、そんな事を知らないレナは、
「ううん、私こそごめんね、あの人を止める事が出来なくて」
と、春風の胸元に顔をつけながら謝罪した。
それを聞いた春風は、
「ん? 『あの人』って、ヴァレリーさんの事?」
と、首を傾げながら尋ねると、レナはこくりと頷いて、
「うん。私があの人を止められなかったばかりに……」
と、レナは更に春風を抱き締める力を強くした。
どうやら、ヴァレリーを止める事が出来ずに、春風を彼女と戦わせてしまった事を悔やんでいるようで、それを理解した春風は、
「あー、それなら『嫌だ』と断らなかった俺も同罪……」
と言いかけたが、
「いや、俺の方がかなり悪いな」
と、訂正すると、抱きついている状態のレナを優しく剥がして、
「うん。レナが気に病む事はないよ。全部『嫌だ』と言わなかった俺の自業自得って事でさ、そんなに気にすんなって」
と、真っ直ぐレナを見てそう言った。
それでも、レナは「でも……」と涙目で春風を見つめるので、春風は「うーん」と唸りながら考え込んだ。
その時、「グゥウ」という音が春風の腹から聞こえたので、
「あはは。いっぱい動いたら、お腹すいちゃったよ」
と、春風は顔を真っ赤にしてお腹を摩りながらそう言った。
それを聞いたレナは、「え?」と首を傾げたが、すぐに「あはは」と笑い出して、
「じゃあ、まずはご飯だね」
と言った。
そして、
「じゃ、行こっか春風……」
と、レナが春風の手を引こうとしたその時、
「あ、ちょっと待ってレナ」
と、春風は彼女の名前を呼んだので、レナが「どうしたの?」と再び首を傾げると、
「忘れたかな? 今の俺は……」
と、春風がそう言いかけたので、レナは「あ!」と驚きの表情になった後、「ごめんね」とまた謝罪して、
「じゃあ行こっか、ハル!」
と、レナは春風を偽名の方で呼んだ。
それを聞いて、春風が「うんうん」と頷いた後、2人は手を繋ぎながらその場を後にした。
ただ、
「……」
そんな姿を、物陰からジッと見つめる人影がいた事に、2人は気付いていなかった。
謝罪)
大変申し訳ありません。まことに勝手ながら、前々回の話の内容を一部修正させてもらいました。
本当にすみません。




