第8話 「総本部長」、登場
「いやぁ、中々素晴らしいものを見させてもらいましたよ」
と、パチパチと拍手しながら春風達の前に現れたのは、ロングコートをマントのように羽織った、スーツ姿の礼儀正しそうな初老の男性だった。
突然の新たな人物の登場に、
(誰だ、この人?)
と、春風は警戒しながら、
「あの……あなたは?」
と、尋ねると、男性は小さく両手を上げて、
「おっと失礼。これはこれは、申し遅れました。私、この『ハンターギルド総本部』の、総本部長を勤めております、フレデリック・ブライアントと申します。以後お見知り置きを」
と、その男性ーーフレデリックは丁寧なお辞儀をしながらそう自己紹介した。
「総本部長……?」
それを聞いて、春風は少しだけ警戒心を解くと、
「こちらこそ、大変失礼しました。自分は今日からハンターとしてギルドに登録しました、ハルと申します。よろしくお願いします」
と、フレデリックに向かって深々と頭を下げながら、丁寧な口調で自身も自己紹介した。ただし、偽名でだが。
しかし、そうとは知らないフレデリックは、春風の丁寧な姿勢を見て、
「ほほう、これはまた随分と礼儀正しいお嬢さんがハンターになりましたねぇ」
と、穏やかな笑みを浮かべながらそう言ったので、
「……自分、男ですが」
と、春風はフレデリックと同じように穏やかな笑みを浮かべながら、怒気を含んだかのような低い声で答えた。
それを聞いて、フレデリックは「えっ!?」と、驚愕に満ちた表情になったが、すぐにまた穏やかな表情になって、
「こ、これはこれは、大変失礼しました」
と、春風に向かって謝罪した。
その後、フレデリックは周囲を見回しながら「コホン」と咳き込むと、とある方向へと歩き出した。
そして少し歩くと、フレデリックはその場に立ち止まり、自身の足元を見た。
そこには、春風がヴァレリーの一撃を受けた際に落とした杖があったので、フレデリックは「よいしょ」と言いながらその杖を拾い上げると、
「ふむ、中々良い杖ですね。長さと重さもかなり手頃のようで、打撃武器としても使えるでしょう」
と、まじまじと杖を見ながらそう言ったので、
「ありがとうございます」
と、春風はお礼を言ったが、
「ですが……」
と、フレデリックはそう言って、杖の石突きの近くにある丸い飾りをカチッと押すと、ジャキッと音と共に小さな鎌の刃が現れた。
それを見て、
「んげっ!?」
と、ヴァレリーは驚いてその場から一歩退いた。ヴァレリーだけではない、レナをはじめとした周囲の人達も、
『う、うわぁ……』
と、皆、たらりと冷や汗を流した。
そんな彼らを無視して、
「この仕掛けは、ちょっとえげつないんじゃないですか?」
と、フレデリックは春風に向かってそう尋ねた。
「それは……」
春風はその質問に答えようとしたがそれよりも先に、
「そして、その左腕の籠手も、ただの籠手ではないのでしょう?」
と、フレデリックは春風の左腕につけられた銀の籠手を見て、そう尋ねてきた。
その質問を聞いて、ヴァレリーは「え?」と春風(というより春風の銀の籠手)を見た。
それに対して、春風はその銀の籠手に触れながら、
「最近は色々と物騒ですし、こちらも生きるか死ぬかがかかってますから、装備を充実しておかないと、不安で仕方ないんですよ」
と、今度は困ったかのような笑みを浮かべながら答えた。勿論、嘘である。
フレデリックはその答えを聞いて、
「ふむふむ、左様ですか」
と小さく呟いた後、杖を持ったまま春風に近づき、
「どうぞ」
と言って、春風に杖を返した。
春風もそれに対して、
「ありがとうございます」
と再びお礼を言うと、フレデリックはスッと右手を差し出して、
「改めまして、ようこそ『中立都市フロントラル』の『ハンターギルド総本部』へ。私はギルドの代表として、あなたを歓迎します」
と、また穏やかな笑みを浮かべながら言ったので、
「こちらこそ、今日ハンターになったばかりの新人ですので、よろしくお願いします」
と、春風もまた穏やかな笑みを浮かべながら、差し出されたその手を握った。
それと同時に、
『わぁあああ……!』
と、周囲からそう歓声が上がった……のだが、その時、フレデリックはスッと自身の顔を春風に近づけて、
「本当の事を話したくなったら、いつでも言ってください。その時が来るのを、楽しみに待ってますので」
と、やはり穏やかな笑みを浮かべたまま、誰にも聞こえないように小さな声でそう言った。
春風はその言葉を聞いて、
(この人……絶対腹が黒そうな人だ)
と、心の中でそう呟いた。




