第6話 「戦い」の始まりへ
今回は、いつもより話が短いかもしれません。
「私と戦ってもらうからだよ」
「はぁ……はぁあああああああっ!?」
総本部内にある「小闘技場」と呼ばれる場所でヴァレリーからそう告げられて、春風は驚きの声をあげた。因みに春風だけでなく、レナも「えぇっ!?」と口をあんぐりしていた。
それから少しして、漸くハッと我に返った春風は、
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりこんな所に連れ込まれたと思ったら『戦ってもらう』って何ですか!? 全然意味がわからないんですが!?」
と、大慌てでヴァレリーに向かってそう尋ねて、それに続くように、
「そ、そうだよ! あんた、一体何考えてんのさ!?」
と、同じくハッと我に返ったレナもそう尋ねた。
そんな2人質問に対して、
「なぁに、ちょっとした好奇心って奴だよ」
と、ヴァレリーは落ち着いた表情で、手に持っている大剣で自分の肩をとんとんと叩かながら答えた。
「「は? こ、好奇心?」」
ヴァレリーの答えを聞いて、春風とレナは「ますます意味がわからん」と言わんばかりに再びそう尋ねると、
「私にはわかる。お前の中には可愛らしい顔に似合わない強い『意志』と『覚悟』、そして『目的が』あるのをな。ここに来たのだって、その目的を果たす為に必要だからじゃないのかい?」
「っ!」
真剣な眼差しを向けてきたヴァレリーの質問に、春風は何も言えず顔を下に向けたが、すぐに顔を上げて、
「……あなたが、知る必要のない事ですよ。あと、『可愛らしい顔』は余計です」
と、静かにヴァレリーを睨みながらそう答えた。
ヴァレリーはその答えを聞いて、「はは、そうかい……」と呟くと、
「そんなに身構えるなって、こっちは単純に、お前がどれくらい戦えるのか知りたいだけだからさ、難しく考えないで、ドーンとぶつかるつもりでかかって来なよ」
と、大袈裟に両腕を広げながら笑顔でそう言った。
それを聞いて、春風は「はぁ……」と溜め息を吐きながら、納得出来ないと言わんばかりの表情になると、
「というか、なんかもう逃げられない雰囲気になってるし」
と、ヴァレリーが周囲を見回しながらそう言ったので、春風とレナは「え?」と周囲を見回すと、
「「げっ!」」
なんと、自分達が立っている小闘技場を囲むように、大勢の人々が集まって、皆、春風とヴァレリーを見つめていた。
(え、えぇ? 何これ何これ何これぇ!? 何でいきなりこんな展開に!? こんなのラノベや漫画の中だけにしてくれよぉ!)
あまりの展開に、春風はだらだらと汗を流しながら、心の中でそう叫んだ。
しかし、そんな春風に構わず、
「さぁ、ハルとやら。こっち準備はとっくに出来ているぞ」
と、ヴァレリーは大剣を構えながら言う。
春風はそんなヴァレリーを見て、
「い、いやぁ、ちょっと待って……」
と、周囲をキョロキョロと見回すと、
「……あ」
不意にレナが視界に入った。
「……」
とても心配そうに春風を見つめるレナを見て、春風は両目を閉じて葛藤するかのように「ぐぬぬぅ……」と小さく唸った。
やがて観念したのか、春風は「はぁ」と再び溜め息を吐くと、
「……カッコ悪いとこ、見せる訳にはいかねぇか」
と、小さく呟いて、
「……あなたが悪いんですからね」
と、ヴァレリーを見つめながら、腰のホルダー納めた杖を抜いた。
長くもなく短いという訳でもない、緑、赤、青、オレンジ色の宝石がはめ込まれた、短めの槍にも見えるその杖を両手で持つと、まるで本当に槍を持っているかのように静かに構える。
すると、春風は「あ、そうだ」と左手を杖から離すと、周囲に気付かれないように「オープン」と呟き、その掌に自身の「ステータス」を出した。
雪村春風(人間・17歳・男) レベル:10
職能:見習い賢者
所持スキル:[英知][鑑定][風魔術][炎魔術][水魔術][土魔術][錬金術][暗殺術][調理][隠密活動][体術][杖術][槍術][棒術][鉄扇術][暗器術][鍛治][裁縫][細工][調合][嘘発見]
称号:「異世界(地球)人」「固有職保持者」「神(地球)と契約を結びし者」「神に鍛えられし者」
現在のステータスはこのような感じで、新たに入手したスキルについての説明は、違う形で語るとしよう。
表示されたそのステータスを見て、
(今の俺のレベルはこれだけ。対して向こうはかなり高いだろうな)
と、春風は心の中でそう呟きながら、ヴァレリーに向かって[鑑定]を使おうかと考えたが、
(やめておこう。こんなものは、所詮1つの基準に過ぎない。相手を知る為には……)
と、首を横に振りながらそう考え直した後、ステータスを消して、
(一戦交えるしか、ない!)
と、再び両手で杖を握り直した。
そして、春風はその状態のまま、ジッとヴァレリーを睨んで、
「……ちょっと質問ですが、これ、スキルや魔術の使用はありですか?」
と、尋ねた。
その質問に対して、
「ん? ああ、構わないよ。さっきも言ったように、ドーンとかかって来な」
と、ヴァレリーは静かに答えた。それも、ご丁寧に「ヘイ、カモン!」と言わんばかりに手をくいっくいっと動かして挑発までしてきたので、それを見た春風は落ち着いた表情で、
「わかりました。では、そうさせてもらいます」
と言った。
その瞬間、小闘技場内に緊張が走ったのを感じたのか、それまで「何だ何だ?」と騒がしかった人達が、皆、シーンと静まり返った。
そんな雰囲気の中、レナをはじめ、その場にいる誰もが、睨みあう春風とヴァレリーを見てごくりと唾を飲んでいると、審判役と思われる男性職員が2人の間に立ち、
「それでは2人共、用意はいいですね?」
と、春風とヴァレリーを交互に見ながら尋ねた。
それを聞いて、
「ああ、準備は出来てるよ」
「はい、こちらも出来てます」
と、ヴァレリー、春風の順にそう答えると、男性職員は「わかりました」と言って、
「それでは……両者、はじめ!」
と、声高々に叫んだ。




