第2話 「ハンター」を目指す理由
消滅の危機に陥った故郷「地球」を救う為に、異世界「エルード」に来た春風が、何故、レナと同じ「ハンター」になる事になったのか?
その「理由」を説明する為に、時間を少し前に遡る事にしよう。
それは、春風達がヘリアテスの家で、今後について話し合っていた時の事だった。
「さてと。じゃ、話し合いの続きになるが……」
というゼウスの言葉に、春風、レナ、ヘリアテスがごくりと唾を飲むと、
「春風、『知識』と『装備』の他に、お前さんにはもう1つ『大事なもの』を身に付けてもらう」
と、ゼウスが春風に向かってそう言ったので、
「な、何でしょうか?」
と、春風はタラリと汗を流しながら緊張した表情になると、
「それは、『この世界を本気で守りたい』という『想い』だ。現状、今のお前さんにはそういう『想い』はない。それどころか、この世界……いや、正確には『ルーセンティア王国』とその背後にいる『悪の親玉』こと『偽ものの神々』に対する『怒り』しかねぇ。地球だけを救うならそれだけでもいけるとは思うが、地球とエルード、2つの世界を救うとなると、『地球だけじゃなくこの世界も守りたい』と心から思えるようにならなきゃ駄目だ」
「……」
真剣な表情でそう説明したゼウスに、春風は何も言えないでいた。
確かにゼウスの言う通り、今の春風自身には「この世界を救いたい」という「想い」はない。ルール無視の異世界召喚されそうになったところをアマテラス達に救われ、その異世界召喚の所為で地球が消滅の危機に陥ったと聞かされた時、春風の心の中には、「地球を救う」という「想い」と共に、「このエルードという世界を許せない」という「怒り」も芽生えていて、それを「神様」に見透かされてしまったので、春風は何も言えなくなってしまったのだ。
そんな状態の春風を、
「は、春風……」
と、レナは心配そうに見つめていると、
「……だったら、俺はどうすればよろしいのですか? 『怒り』以外のこの世界に対する『想い』を持てるようになるには……」
と、春風は辛そうな表情で口を開くと、
「あ、そうだ!」
と、レナは何かを閃いたかのようにパァッと表情を明るくした。
突然の事に「何事!?」と言わんばかりに春風、ゼウス、ヘリアテスが驚いていると、
「春風、『ハンター』になりなよ!」
と、レナは春風を見てそう言ったので、
「え、は、ハンター?」
と、春風は目をパチクリとさせながらそう返した。それは春風だけでなく、ゼウスとヘリアテスも一緒だった。
しかし、そんな彼らを無視して、
「うん! 『ハンター』っていうのはね、簡単に言うと、『報酬』と引き換えにいろんな仕事をする人達の事だよ! その中には『魔物退治』や『要人の護衛』とか、もっと言えば『家事手伝い』とか簡単な雑用とかも含まれているんだ!」
と、レナは「ハンター」についてそう説明した。それを聞いて、
(ああ、ゲームや漫画に出てくる『冒険者』みたいなものか)
と、春風は心の中でそう納得した後、
「……ん? ちょっと待って。つまり、俺にその『ハンター』になれと?」
と、首を傾げながらレナに向かってそう尋ねると、
「そうだよ! 『ハンター』になっていろんな仕事をしながら、いろんな人達と触れ合っていけば、今言ってた『怒り』以外の感情を持てる良いキッカケになれるんじゃないかなぁ!」
と、レナは目をキラキラと輝かせながらそう答えたので、
「「おお、なるほど!」」
と、その答えを聞いたゼウスとヘリアテスはポンと手を叩きながら納得したが、
「……俺に、出来るのでしょうか?」
と、逆に春風は不安になったのか、表情を暗くしながら下を向いた。
すると、レナは春風に近づいて、両手でその手を握りながら、
「大丈夫だよ、春風なら出来る」
と、優しくそう言った。
春風はそれに対して、「え?」と頭上に「?」を浮かべると、
「もし春風の中に『怒り』しかないなら、ここに来た時点で王様相手に怒り狂って暴れてたと思う。でも、春風はそうはならないで、ちゃんと相手の『事情』を聞いてたじゃない。それってさ、春風の中には、『この世界の人達を信じたい』って気持ちがあったんじゃないかな?」
と、レナにそう言われて、春風は「あ……」となった。
そんな様子の春風に、レナは更に話を続ける。
「何よりさ……」
「?」
「私の事も、信じてくれたし」
「っ!」
レナのその言葉を聞いた瞬間、春風は心の中にある不安が薄れていくのを感じた。
完全に消えたという訳ではないが、それでも、「悩んでる場合じゃない」と思えるようになった。
それと同時に、春風の脳裏に、とある「記憶」が浮かび上がった。
ーーここからは、私の個人的な『お願い』なんだけど……。
それは、この世界に来る前にアマテラスから受けたお願いの「記憶」だった。
春風はその時の事を思い出す。
時は遡ってエルードへの出発前。
「わかりました。俺に出来る事でしたら……」
「ありがとう。えっとね、向こうの世界に着いたら何だけど……その世界の事をちゃんと見てほしいの」
「は? 『ちゃんと見る』……とは?」
「ああ、そんな難しい事じゃないよ! 向こうに着いたら、『あ、これ良いかも!?』と思ったものを見つけてほしいなってだけで……!」
大慌てでそう言ったアマテラスに、春風は「はぁ」と返事すると、もの凄く嫌そうな表情になったので、
「あはは。まぁ、そうなるよねぇ」
と、アマテラスは乾いた笑い声をこぼしながら言うと、
「春風君、あなたの気持ちはわかるんだけど、向こうの世界だって地球と同じように、『良い部分』がきっとある筈よ。だからね、春風君には地球と一緒に、その『良い部分』を見つけて、守ってほしいっていうのが私の『お願い』なんだ」
と、真面目な表情で説得に入った。その説得を聞いて、
「……俺に、出来るでしょうか?」
と、春風は不安な表情でそう尋ねると、
「大丈夫。春風君なら、きっと出来るから。この女神が保証するし」
と、アマテラスは笑顔でそう答えたので、
「……わかりました。その『お願い』、お引き受けします」
と、春風はその「お願い」を受ける事にした。
そして、時は現在に戻り、春風はその時の記憶を思い出して、
「……この世界の『良い部分』、か」
と、ボソリとそう呟くと、
「わかりました。俺、『ハンター』になります!」
と、レナに向かってそう言った。
それから更に時が流れ、
「さ、着いたよ春風」
「ここが……」
と、1週間ぶりに再会した春風とレナは、目的地である「中立都市フロントラル」に続く大きな門の前に着いた。
春風はその門を見上げながら、
(この門を潜った時、俺の異世界生活の、本格的なスタートって訳か)
と、心の中でそう呟くと、
「こっちこっち!」
と、レナに手を引っ張られながら、更に門の傍まで近づいた。
門に着くと、そこにはシンプルな形状の槍を持ち、簡素な鎧を纏った番人らしき男性が立っていたので、
「ただいま戻りました!」
と、レナはその番人の男性に向かってそう話しかけた。
「ああ、レナ。おかえり」
と、番人の男性がそう返したので、2人が顔見知りなんだなと春風が理解していると、
「ん? その隣の子は?」
と、門番の男性が春風を見てそう尋ねてきたので、
「ああ、この子が『知り合いのお子さん』です」
と、レナは笑顔でそう答えた。
それに続くように、
「ど、どうも、こんにちは」
と、春風が門番の男性に向かってペコッとお辞儀しながら挨拶をすると、
「へぇ、可愛いお嬢さんだね」
と、門番の男性は笑顔でそう言ったので、
「俺は男です!」
と、春風は門番の男性に向かってそう怒鳴った。
早速、前途多難の予感がした。




