第23話 「希望」との出会い
それは今から17年前、ヘリアテスとループスが、精霊達との生活に慣れてきた時の事だった。
住んでいる家の外から騒がしい声がしたので、「何だろう?」と気になったヘリアテスが外へと出ると、幼い精霊達が大人の精霊達と何やら揉めているようだったので、
(一体どうしたのかしら?)
と思ったヘリアテスが、その様子をジィッとよく見てみると、幼い精霊達の傍に、1つの大きな籠が置かれていた。
ヘリアテスは揉めている精霊達に向かって、
「あの、どうかしたのですか?」
と尋ねると、どうも幼い精霊達が、何処かからその大きな籠を見つけてきて、ここに持ち込んだのだという。
「ちょっと、中を見てもいいですか?」
と、ヘリアテスがその籠の中を除くと、
「……え? 赤ちゃん?」
そこには白い髪に狐の耳と尻尾を持つ赤ん坊がいたのだ。
(え、獣人!? いや、待って……)
と、驚いたヘリアテスがその赤ん坊に何かを感じたので、更に調べる事にした。因みよく見ると、赤ん坊は女の子だった。
幸いな事に僅かに「神」としての力が残ってた為か、スキル[鑑定]に近い能力を持っていたので、ヘリアテスはその能力を使って調べると……。
名前……レナ・ヒューズ。
性別……女。
種族……混血(獣人+妖精)。
「嘘……獣人と妖精の……ハーフ?」
その結果を見た瞬間、ヘリアテスの目から大粒の涙が溢れた。
そして、それをループスにも話した結果、ループスも目から大粒の涙を流した。
当然だろう、何せ封印から目覚めてからずっとその姿を見ていなかった獣人と妖精が生きていただけでなく、こうして子供まで作っていたという事実を知ったのだから、2柱の神々は、嬉しさのあまり涙を流してしまったのだ。
その後、ヘリアテスは涙を拭うと、
「この子、何処で見つけたのですか!?」
と、幼い精霊達に尋ねると、彼らは答えにくそうな感じで、
『川を流れてきたのを見つけた』
と、口を揃えて答えた。
そして、ヘリアテスは大人の精霊達に、この赤ん坊ーーレナが何処から来たのかを調べてほしいと頼んだ。
それから暫くすると、大人の精霊達は帰ってきたのだが、レナの故郷について調べた結果は、
「その子の故郷は、もうなくなってた」
だった。
ヘリアテスに頼まれて、大人の精霊達はレナが秘めている魔力の波長をもとに彼女に故郷へと向かった。そこは小さな村のようなのだが、既に何者かによる襲撃を受けて、調べてみるとそこに住む住人達も、その何者かによって殺された後だったという。そして、その中にはレナの両親も含まれていたそうだ。何故そんな事がわかったのかというと、その村の外れに、彼らを埋葬した墓があったそうだ。
その事実を聞いて、ヘリアテスとループスは悲しみの表情を浮かべたのだが、
「ーー」
と、赤ん坊のレナが、ヘリアテス達を見て笑っていたので、
「だったら、この子は私達で育てましょう」
と、ヘリアテスはそう決心した。
勿論、最初はこの決心に、
『え、マジで!?』
と、戸惑っていたループスと精霊達だが、
「この子をこのまま放っておくなんて出来ない。それに、私にはわかるの。この子はきっと、私達の『希望』になる子なんだって」
と、真剣な表情でそう言ったヘリアテスを見て、ループスと精霊達は最終的に、
『なら、自分達も協力しよう』
と、一緒にレナを育てる事にしたのだ。
それからというもの、ヘリアテス、ループス、そして精霊達は、レナに沢山の愛情を注ぎながら育てた。
この世界の事や、いざという時の為の戦い方、そして「人」としての倫理観など、自分達が出来るあらゆる方法を駆使して、レナに自分の足で立って、自分の力で生きられるようにと教育をしてきたのだ。
やがて、15歳になったレナはヘリアテス達のもとを離れて、報酬と引き換えに様々な仕事を請け負う「ハンター」として暮らすようになったのだという。
そして、現在。
「……なるほど、そういう事情だったのね」
ヘリアテスの話を聞いて、アマテラスは感動したと言わんばかりに目頭を押さえた。
一方、隣の春風はというと、
「……」
と、レナに関する話を黙って聞いていた。
すると、アマテラスは真面目な表情になって、
「ありがとう、おかげでだいぶわかったわ。500年前に何が起きたのか、そして、今のこの世界の状態もね」
と言うと、「よかった」とヘリアテスはホッと胸を撫で下ろした。
だが、
「ただ、やっぱりどうしてもわからない事があるわ」
と、アマテラスがそう言ったので、それを聞いた春風、レナ、ヘリアテスが「え?」と首を傾げると、
「おチビちゃんの話によると、敵の親玉5人は相当な『力』を持ってるって話なんだけど、そんなに強いって言うのなら、どうして『勇者召喚』なんてやらせたのかしら? いざとなったらこの世界を見捨てて逃げてしまえばいいのに」
と、アマテラスは腕を組みながらそう疑問を口にしたので、横で聞いていた春風も、
(ああ、確かにそうだ)
と、「一体何故?」と言わんばかりに、頭上に幾つもの「?」を浮かべた。
「……やっぱり、ウィルフレッド王が言ってた『予言』が絡んでるんでしょうか?」
と、レナが恐る恐るそう言ったので、
「ああ、確かウィルフレッド王が言ってたやつよね? 『悪魔によって神々が滅ぼされる』っていう」
と、アマテラスも口を開いた。
すると、
「あれ? アマテラス様、俺、予言の事と言ってませんでしたよね? どうして知ってるんですか?」
と、「おや?」と春風がそう尋ねてきたので、
「ああ、それは簡単よ。お城での一件は、春風君、あなたの『目』を通してずっと見てきたから」
と、アマテラスは答えた。
その答えを聞いて、春風が「はぁ?」と頭上に「?」を浮かべると、
「あのね、オーディンと契約した時、春風君の右目は、オーディンの右目と繋がってるの。だから、あなたが色んなものを見れば、それは、オーディンも見ているって事になる訳」
と、アマテラスがそう説明したので、
「ま、マジっすか」
と、春風はショックを受けて、
「じゃあ、俺が王城の中でしてしまった事も、アマテラス様達は知ってるのですね?」
と、顔を真っ青にしながらそう尋ねると、
「ええ、全部知ってるわ」
と、アマテラスはこくりと頷きながら答えた。
春風はその答えを聞いて、
「アマテラス様、俺は……」
と、表情を暗くしたが、そんな春風に、アマテラスは優しく話しかける。
「大丈夫よ。あなたがどんな思いであの子達のもとを離れる決意をしたのか、私達は充分わかっているわ。それに、あなたがいっぱい質問してくれたおかげで、私達もいっぱい情報を得る事が出来たんだから」
「それは……」
「だから、そんな顔しないで。あの子達を置いてった事を後悔しているなら、いっぱい力をつけて、あの子達が困った事になったら助ければ良いんだし、間違ってる事をしていたら、全力で止めれば良いんだから、ね?」
と、優しく言われたので、春風は泣きそうになりながらも、
「はい!」
と、力強く頷いた。
その後、春風はすぐに気持ちを切り替えて、
「それにしても予言かぁ。せめて、その予言を遺して死んだっていう女の人に会えればいいんだけど、無理だよなぁ」
と、そう言って、最後に「はぁ」と溜め息を吐いた。
その時だ。
「私をお呼びでしょうか?」
と、何処からともなく女性の声が聞こえたので、
「誰!? 何処にいるの!?」
と、アマテラスがリビング内を見回しながら言うと、
「こちらです」
と言って、春風達の前に現れたのは、2、30代くらいの女性……、
(……え、幽霊!?)
の、幽霊だった。




