第17話 そして、開幕の時・4
今回も、いつもより短めの話になります。
「そんじゃ、ここは俺が動きますか」
そう言うと、ヴィンセントは懐に手を入れて、そこから何かを取り出したのが見えたので、
(ん? なんだあれ? マイクか?)
と、春風は首を傾げた。
見たところ、それはマイクのようにも見えたので、
「ねぇ、水音。あれって……」
と、気になった春風が、隣の水音に小さく声をかけると、
「ああ、あれも魔導具で、春風が考えてる通り、マイクだよ」
と、水音はコクリと頷きながらそう答えたので、
(ああ、やっぱりマイクなんだ)
と、春風は納得の表情を浮かべた。
そんな春風を他所に、ヴィンセントはそのマイク型の魔導具に自身の魔力を込めると、
「あー、テステス……」
と、それに向かって呟いて、
「どーも、お集まりの皆様」
と、周囲の人達に向かってそう言った。
その言葉に反応したのか、周囲の人達が一斉にヴィンセントに視線を向けてきたので、それを見たヴィンセントは小さな声で「よし」と言うと、
「あー、ストロザイア帝国皇帝のヴィンセントだ。忙しい中、今日は集まってくれてありがとうな。で、何で今日はこんな宴を開いたかというと、みんなも知ってる通り、中立都市フロントラルに邪神が現れ、その邪神を異世界から召喚された『勇者』達が打ち破ったっつう事で、その祝いってな訳だ」
と、周囲に向かってそう説明した。
勿論、本当の理由は違うもので、その邪神ーーループスは今も生きてこのホールにいるのだが、この場には一部を除いて事情を知らない者が多く、彼らはヴィンセントの説明を聞いて、皆、「おお!」と声をあげた。
当然、春風をはじめとした事情を知っている者達はというと、
『は、ははは……』
と、ヴィンセントの説明に、皆、苦笑いを浮かべていた。
(ま、ある意味、嘘は言ってないんだけどねぇ)
そんな春風達を他所に、ヴィンセントは更に話を続ける。
「という訳で、説明は以上で終わり。堅苦しい話はこれくらいにして、それじゃあ各自、飲み物を手に取ってくれ」
と、ヴィンセントがそう言い終わってすぐ、会場内に複数人のメイド(?)達が現れて、客人達に飲み物が配られた。
当然、春風達にも配られて、
「これ、お酒じゃないよな?」
と、春風がそう疑問を口にすると、
「大丈夫。普通のジュースだよ」
と、水音はニコッと笑いながらそう言ったので、
「そ、そうなのか」
と、春風は若干疑いつつ、苦笑いを浮かべながらそう返事した。
その後、
「それじゃあ、邪神対勇者達の戦いの終わりを祝して……乾杯!」
と、ヴィンセントがそう宣言すると、
『乾杯!』
と、春風達もそれに続くようにそう言った。
そして、春風は配られた飲み物を一口飲むと、
「はは、美味しいや」
と、一言そう呟いた。
それから暫く、各々がご馳走を食べたり周りの人達と楽しげに会話していると、
「ん? なんだ?」
会場内に複数人の楽器を抱えた人達が入ってきたので、
「一体、何が起きてるんだ?」
と、春風がそう疑問を口にすると、
「ああ、そろそろダンスの時間だよ」
と、水音がそう口にしたので、
「……え?」
と、それを聞いた春風は小さくそう声をもらした。




