第2話 飛空船内にて
異世界「エルード」の空。
現在昼間のそこには白い雲しかないのだが、その雲と雲の間を、1隻の船が飛んでいた。
その船の名は、魔導飛空船。
エルードに存在する2つの大国の1つ、ストロザイア帝国で作られたその空を飛ぶ船の中にある客室の1つで、
「ふい〜」
今、春風が部屋に備え付けられたベッドの上でグッタリしていた。
仰向けになって寝転がってる春風を見て、
「だ、大丈夫か雪村?」
と、傍で爽子がそう尋ねると、
「あ〜、はい、大丈夫です。ちょっと疲れただけですから」
と、春風は弱々しい笑顔でそう答えた。
その答えを聞いて、
「全く、ただでさえあれほどの戦いをしてきた後だっていうのに、それからすぐにこの船の中を探検するなんて……」
と、爽子の隣に立つ水音が呆れ顔でそう言うと、春風はガバッと上半身を起こして、
「だ、だって! この船本当に凄いんだよ! 中も綺麗だし結構広いし! 何より動力室! 見た事もない技術とか使われてるし! 一体どうやったらあんな凄いのが作れるんだろ……!」
と、目をキラキラさせながらこの魔導飛空船の感想を述べたが、
「あ……あれ?」
と、急に頭がクラクラとなったのか、春風は再びゴロンと仰向けになって寝転んでしまったので、
「ゆ、雪村!?」
「ああ、もう! 急に起き上がったりするから!」
と、それを見た爽子と水音はギョッとなった後、「良いから寝てろ!」と2人で春風を叱った。
そう、春風がベッドでグッタリしてた理由は、決して船に酔ったからではない。
ただでさえ世界から「邪神」として認定されていたループスとの激闘を繰り広げ、その後登場したラディウスら「五神」こと「敵の親玉」達の罠にかかってピンチに陥ったループスとヘリアテス、そして水音ら「勇者」達を助ける為に、かつて1度だけ振るった刀・「彼岸花」を再び振るい、その後ラディウスを退けると、今度は「見習い賢者」から「半熟賢者」へのランクアップなどというこの世界の人間達にとっても未知のイベントを経て、春風自身かなり疲労が溜まっている筈なのに、それから更にすぐに、みんなでストロザイア帝国に出発という事で、この魔導飛空船の中に乗った途端、
「何ここスッゲェ!」
と、春風は目をキラキラとさせると、
「俺、ちょっと探検してくる!」
「え、ちょっと待って春風……って早!」
「お、おい待て雪村!」
と、止める水音と爽子を無視して、そのまま全力で船の内部を探検し始めてしまったのだ。
そして、ひと通り内部を探検し終えると、
「あはは、この船スッゲェや……」
とボソリとそう呟き、それからすぐに、まるで糸が切れたかのようにその場にバタリと倒れてしまったので、
『は、春風ぁあああああ!』
『春風くーん!』
「フーちゃあああああん!」
『雪村(君)ー!』
と、水音やレナ、更には歩夢、美羽、爽子、そしてクラスメイト達の悲鳴があがった。
その後、春風は船内部に幾つかある客室の1つに運ばれて、その客室備え付けられたベッドに寝かされて、現在に至る。
因みにその際、
「私も春風の傍に!」
「私もフーちゃんの傍に!」
「私も!」
「あら、私だって……!」
と、レナ、歩夢、美羽、そして凛咲の4人も春風と一緒に部屋に入ろうとしたが、
「雪村がゆっくり休めないから駄目だ!」
と、爽子に止められてしまい、4人は「そ、そんなぁ!」とショックを受けて、今は皆違う客室にいる。
さて、それから3人で色々と話し合っていると、トントンと客室の扉がノックされたので、
「どちら様ですか?」
と、爽子が扉の向こうに向かって返事すると、ガチャリと扉が開かれて、
「よう! 入らせてもらうぜぇ!」
と、その向こうからヴィンセントが顔を出してきたので、
「あ、は、はい、どうぞ」
と、爽子がそう言うと、ヴィンセントは「失礼」と言って客室に入ってきた。
その後、ヴィンセントはベッドの上に寝ている春風に近づくと、
「お、春風はまだお疲れようだなぁ」
と、ヴィンセントはジィッと春風を見つめながらそう言ったので、
「す、すみませんヴィンセント陛下。こんな状態で……」
と、春風は謝罪しながら起き上がろうとしたが、
「おおっとっと! そのままで良いぞ!」
と、ヴィンセントはそこで「待った」をかけた。
それを聞いて、春風は再び「すみません」と謝罪すると、
「あの、ウィルフレッド陛下は一緒じゃないんですか?」
と、「おや?」となってヴィンセントに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「ん? ああ、ウィルフなら、キャリーやレオン達と一緒にいるぞ」
と、ヴィンセントはそう答えたので、春風は「そうですか」と返事すると、
「あと、ジェフリー・クラーク教主もな」
と、ヴィンセントは続けてそう答えたので、
「そ、そうですか。それで、あの人は今何してますか?」
と、春風は恐る恐るそう尋ねた。
その質問を聞いて、ヴィンセントは「あぁ……」と言い難そうに表情を強張らせた後、
「今でもループス様をモフモフしているぜ」
と、真剣な表情でそう答えたので、それを聞いた春風、水音、爽子の3人は、
「「「そ、そうですか」」」
と、盛大に頬を引き攣らせながらそう言うと、
(ま、あの人ならしょうがないよなぁ)
と、春風は1人、出発直前に起きた出来事を思い出し始めた。