第164話 新たな出発?
「いよっしゃあ! それなら、帝国で祝杯をあげようじゃねぇか!」
『はぁあ!?』
ヴィンセントの突然のセリフに、春風達がそう驚きの声をあげると、
「ちょっと待てヴィンス。戦いが終わったお祝いをしたい気持ちはわかるが、何故それを帝国でやろうとするんだ?」
と、ウィルフレッドが「オイオイ……」と言わんばかりの表情でそう尋ねてきた。
その質問を聞いて、
「いや、何故ってお前、帝国は今エレン1人で留守番している状態だからな、早く帰ってあいつにもこの話を教えたいっていう親心なんだよ」
と、ヴィンセントは「何言ってんだお前」と言わんばかりの表情でそう説明したが、ウィルフレッドはジト目でヴィンセントを睨むと、
「なるほど、父親としての自覚はあるようだな」
と、その目つきを崩さずにそう言ったので、それを聞いてヴィンセントが、
「そうともそうとも! 俺は『皇帝』であると同時に、1人の『お父さん』だからな!」
と、「はっはっは……!」と笑いながらそう返事した。
だが、その後すぐに、
「で、本心は?」
と、ウィルフレッドがジト目でそう尋ねてきたので、
「勿論、この勢いで春風を帝国に招き入れてそのままこっちのものに……」
と、ヴィンセントはそう即答しかけたが、すぐにハッとなって、
「て、テメェ、ウィルフ! 誘導尋問とか汚ねぇぞ!」
と、ウィルフレッドに向かって文句を言ったが、
「ヴィンセント……」
と、ジト目のウィルフレッドに本名で呼ばれてしまい、ヴィンセントはダラダラと滝のように汗を流した後、
「だ、だってよぉ『賢者』なんだぞ! 半人前だけど『賢者』なんだぞ! しかも、『ランクアップ』っつう訳のわからないイベント付きなんだぞ! これはもう是非うちに来てほしいじゃねぇかよ!」
と、開き直ってそう喚いた。
それを聞いて、ウィルフレッドは「はぁ……」と呆れ顔で溜め息を吐き、
『え、えぇ?』
と、春風達が盛大に頬を引き攣らせていると、
「ちょっと待てこの腐れ皇帝! 勝手な事抜かしてんじゃねぇぞ!」
「そうですよ! 春風君は僕達の大事なメンバーなんです! 『渡せ』と言われて『はいわかりました』なんて出来る訳ないでしょう!」
と、春風が所属している大手レギオンのリーダーであるヴァレリーとタイラーが、怒り顔でヴィンセントに詰め寄ってきたので、
「えー? 良いじゃんかよぉ。お前らじゃ絶対に弄んじまうと思うからうちにくれよぉ」
と、ヴィンセントは子供じみた態度で2人に向かってそう言った。勿論、
「「断る!」」
と、ヴァレリーとタイラーはそう拒否したが。
一方、そんな彼らのやり取りを見ていた肝心の春風本人はというと、
「……ねぇ、水音」
「……何?」
「本当に、あの人がストロザイア帝国の皇帝なの?」
そう尋ねる春風に、水音は「はぁ」と溜め息を吐いた後、
「信じられない気持ちはわかるけど、あの人が皇帝陛下なんだよね」
と、暗い表情で「はは」と自嘲気味に笑った。そして、そんな水音に続くように、進、耕、祭、絆、祈も表情を暗くした。
すると、
「おーい、水音ぉ!」
と、ヴィンセントが「ちょっと来てぇ」と手を動かしながら水音を呼んだので、
「ごめん、ちょっと失礼」
と、水音はそう言って春風達のもとからヴィンセントのもとへと駆け出した。
その後、ヴィンセントは水音を連れて春風達から少し離れた位置へと移動すると、水音に顔を近づけて何やらゴニョゴニョと話し始めた。
勿論、会話の内容は春風達には聞こえないので、「何だろう?」と思って自分達もヴィンセント達のもとへと移動しようとしたが、ヴィンセントにギロリと睨まれたので、その場から動けずにいた。
そして、話しが終わったのか、水音は無言でヴィンセントからはなれて、スタスタと春風の傍へと歩き出した。
そして、
「ど、どうしたの水音?」
と、尋ねてきた春風を無視して、水音が春風の前に立つと、水音はガシッと春風の腕を掴んで、
「春風、一緒に帝国に行こう」
と言ってきた。
その言葉を聞いて、春風はポカンとした表情で「え?」と言って首を傾げたが、すぐにハッとなって、
「え、待って水音。一体何を言ってるのかなぁ!?」
と、水音を問い詰めようとしたが、
「今行こうすぐに行こうとっとと行こう! なぁに、春風ならきっと帝国を気にいると思うから!」
と、水音はもの凄い形相でそう言ってきたので、春風はそれ以上何も聞く事は出来ず、
「あー、うん。わかったよ」
と、返事した。
その言葉が嬉しかったのか、水音は表情を明るくして、
「陛下、行くそうです!」
と、報告するかのようにそう言った。
そして、その言葉を聞いたヴィンセントも表情を明るくして、
「いよっしゃあああああ! それじゃあ、すぐに帝国に出発だぁ!」
と、拳を勢い良く空へと向けた。
その言葉を聞いて、春風が「え、ちょ……!」と何か言おうとしたが、それを遮るかのように、
「諦めなさい春風ちゃん」
「ああ。あの状態の父上は誰にも止める事が出来ないんだ」
「ごめんね」
と、ヴィンセントの家族であるキャロライン、レオナルド、アデレードが、春風の肩に手をポンと置きながらそう言ってきたので、
「え、えぇマジですか?」
と、春風はまた盛大に頬を引き攣らせた。
こうして、なんやかんやで春風のストロザイア帝国行きが決定するのだった。
一応予告ですが、次回で今章最終話の予定です。