第163話 精霊グラシアと……
「どうやら、私もランクアップしたみたいです」
『……はい?』
雰囲気が変わった(?)グラシアの言葉に、春風達が首を傾げていると、
「あーちょっと失礼」
と、アマテラスがグラシアの前に立ち、ジィッと彼女を見つめると、
「驚いたわね。あなた『精霊』になってるじゃない」
と、アマテラスは目を大きく見開きながら言った。
その言葉を聞いて、春風達が皆、「え?」とポカンとしていると、グラシアはニコリと笑って、
「はい、この度私、グラシア・ブルームは、『幽霊』から『精霊』にランクアップしました」
と、春風達に向かってそう言った。その瞬間、
『えええええええっ!』
と、春風達の叫びが響き渡った。
それから少しして、春風は「あ、あの」とゆっくりと口を開く。
「これってつまり、俺の所為で一緒にランクアップしちゃったって事で良いんでしょうか?」
恐る恐るそう尋ねてきた春風に、グラシアは優しく答える。
「うーん、そうなるんでしょうが、これは私の意志で決めた事の結果ですから、春風様は何も気にしなくて良いですよ」
その答えを聞いて、春風は「そんな……」と申し訳なさそうな表情になったが、
「もしかして、こんな私はお嫌いですか?」
と、グラシアに悲しそうな表情でそう尋ねられてしまったので、
「いいえ、そんな事はありません! 寧ろ、幽霊の時よりも存在がありまくりですし、結構美人になったと思います!」
と、春風は真顔でそう即答した。そしてそんな春風に続くように、他の男性陣も「うんうん!」と頷いた。
ただ、そんな彼らを、グラシアを除いた女性陣はジト目で見ていたが。
すると、グラシアは嬉しかったのか、顔を赤くしながら、
「ふふふ、ありがとうございます」
と、笑顔でお礼を言ったが、
「ですが、春風様だって随分と立派なお姿になってますよ」
と、春風に向かってそう言ってきたので、春風は「え?」と言って、改めて自分の姿を見ると、
「あ、本当だ! 確かに服装が変わってる!?」
と、春風は驚いて目を大きく見開き、
『いや、今頃気付いたのかよ!?』
と、周囲の人達はそんな春風にツッコミを入れた。
確かに、グラシアが言うように、春風の服装がループスとの戦い前と大きく変わっていた。
いつも着ている青いローブと黒いズボン、革製のグローブとブーツには、銀で出来ていると思われる装飾が各所に施されていて、それらには皆、赤、青、緑、オレンジ、黄色、紫の宝石が付いていた。
頭のゴーグルを外してよく見ると、それにもローブと同じような装飾が施されている。
そして左腕の銀の籠手も、戦い前までは多少ゴツい見た目をしていたが、今はスッキリした感じの見た目になっていて、寧ろ前よりもカッコ良くなってると春風はそう感じた。
最後に腰のベルトに触れると、革製の小さなポーチと愛用の杖が入っている革製のホルダーが付いているのがわかったが、
「あれ!? ない!」
と、何かに気付いたのか、春風は「ない! ない!」と言いながら、焦った様子で自身の全身を触りまくった。
そんな春風を見て、
「え、は、春風、どうしたの?」
と、水音が恐る恐る尋ねると、
「ない! 彼岸花がない!」
と、春風は焦った表情のままそう答えたので、水音は春風の全身を見て「あれ? そう言えば……」と呟いた後、
「師匠。あの刀、春風から受け取ったりしてませんか?」
と、凛咲に尋ねた。
その質問を聞いて、凛咲は「あーそれなら……」と返事すると、
「ハニー、大丈夫よ。彼岸花なら、そこにあるじゃない」
と、春風のある部分を指差しながらそう言った。
その言葉を聞いて、春風は「え?」と凛咲が指差した部分に視線を向けた。
それは、ホルダーに入った杖だった。
それを見て、春風は「まさか……」と杖を手に取った。
愛用の杖もまた、ランクアップによって少しだけ立派になっていたが、全体的には以前の杖と同じように短い槍に似た見た目のままになっている。
ただ、
「……ん?」
その杖に付いている銀の装飾が何故か気になってしまい、春風は恐る恐るその装飾を指でいじった。
すると、カチリと装飾が外れて、それからすぐに槍の穂先に似た握りと柄が外れた。
それを見て、春風は「もしや!」思ってその握りを掴んで思いっきり引っ張ると、次の瞬間、春風の髪が黒から赤に染まりながら長く伸びて、右目が真紅の炎に包まれた。
その姿を見て、
『あ!』
と、周囲の人達は驚き、
「やっぱり!」
と、春風はニヤリと笑いながら言った。
握りの先には、柄の代わりに真紅に輝く片刃の刀身が付いていたのだ。
反りのない真っ直ぐな直刀ではあるが、禍々しい雰囲気を持つその刀身を見て、春風はすぐにわかり、
「なんだよ。彼岸花までランクアップしちゃったのかよ」
と言うと、最後に「はは……」と笑った。
当然、その後、
「いや春風! 『はは』って笑ってないでそれしまってしまって!」
と、水音に怒鳴られてしまった。
因みに、
「あ、良かったこっちもちゃんと付いてる!」
杖の石突部分に仕込んだ鎌の刃も健在である。
さて、そんな状況の中、
「うーん。なぁ、ウィルフ」
「ん? 何だヴィンス」
「これで一応、この戦いは終わりって事で良いんだよな?」
と、ヴィンセントがウィルフレッドに向かってそう尋ねてきたので、
「……ああ、そうなるな」
と、ウィルフレッドが「え?」と首を傾げながら答えると、
「いよっしゃあ! それなら、帝国で祝杯をあげようじゃねぇか!」
と、ヴィンセントは声高々にそう言った。
それを聞いて、
『はぁあ!?』
と、ウィルフレッドだけでなく春風達までもがそう驚きに満ちた声をあげた。