第162話 半人前の賢者
ーー固有職能「半熟賢者」へとランクアップしました。
『……は?』
ウインドウ画面に表示されたその文章の内容に、春風をはじめ、その場にいる者達全員が首を傾げた。
その後すぐに、
「……え、ちょっと待って。半熟? 『半熟賢者』って何!?」
と、ハッと我に返った春風はすぐにその部分に触れた。
すると、その部分の上に新たなウインドウ画面が現れたので、春風は目を大きく見開いて、そこに記された文章を読んだ。
半熟賢者(固有職能)……ある程度「能力」を使いこなせるようになった半人前の賢者。「見習い賢者」以上の魔力を誇り、より強い魔術と魔力を用いた秘術・技術を駆使した更なる活躍を行う事が出来る。
ランクアップ条件……①レベルが50に達している。②スキルを一定数取得している。③この世界の「神」に認められる。
「……」
ウインドウ画面に記された文章を読み終えて、春風はその場に固まったまま動かなくなった。そんな春風に、
「ふ、フーちゃん?」
と、歩夢が恐る恐る話しかけると、春風は空見上げて、
「ふっざけんなぁあああああああ!」
と、頭を抱えて思いっきり叫んだ。
その叫びを聞いて、周囲の人達は思わず「うわぁ!」と驚いたが、春風はそれを無視して、
「何だよ『半人前』って!? 『神様』に認められて漸く『半人前』ってどういう事だよ!? じゃあ、俺はどうすれば一人前の『賢者』になれるんだよぉおおおおお!?」
と、怒りのままにそう叫び続けた。
その叫びを聞いて、周りがだんだん困ったようにオロオロしだすと、
「ま、いっか。続き見よっと」
と、何事もなかったかのようにケロッとした様子でウインドウ画面に視線を移すと、
『ズコーッ!』
と、周囲の人達がそう叫びながら、思いっきりその場にズッコケたので、
「え!? どうしたのみんな!?」
と、驚いた春風がそう尋ねると、
「は、春風君。受け入れるの早すぎない?」
と、ゆっくりと起き上がった美羽がそう尋ね返してきたので、
「え? だって、なっちゃったんだから、今更どうこう言っても仕方ないでしょ?」
と、春風は首を傾げながらそう答えた。その答えを聞いて、
『は、はぁ。そうですか』
と、美羽をはじめ、周囲の人達は「はは……」と盛大に頬を引き攣らせた。
そんな彼・彼女達を無視して、
「さーて続きはなんて書いてあるのかなぁ……?」
と、春風は文章の続きを読み始めた。
ーーランクアップに伴い、上位の[炎魔術][水魔術][土魔術][風魔術][錬金術]が使えるようになりました。
ーー新たなスキル、[光魔術][闇魔術]を入手しました。
ーーランクアップに伴い、あなたのオリジナル魔術「化身顕現」が正式にスキルとなりました。
ーー固有職能スキル[化身顕現]を入手しました。
ーー称号「神に認められし者」「妖刀の主」を入手しました。
「おお、なんか新しいスキルを手に入れたぞ」
と、全ての文章を読み終えた春風がそう呟くと、
「むむ、何だと!? 一体どんなスキルを手に入れたんだ!?」
と、ヴィンセントがすごい勢いで詰め寄ってきたので、春風は「ええっと……」と新たなスキルの説明を読んだ。
[光魔術]……光を操る魔術。消費する魔力は多いが、強力な攻撃、防御、回復魔術を使用する事が出来る。発動するには専用の魔導具を必要とする。
使用可能魔術
・ライトアロー……光で矢を形成して敵を射抜く。
・ライトウォール……強固な光の壁を作って敵の攻撃を防ぐ。
・キュアライト……癒しの光で体力と一部の状態異常を回復する。
[闇魔術]……暗闇を操る魔術。強大な攻撃魔術の他に、敵を弱体化させる魔術を得意とする。ただし、大変危険なので頼りすぎに注意する事。使用するには専用の魔導具を必要とする。
使用可能魔術
・ダークファング……闇の力で鋭い牙を形成して敵を噛み砕く。
・ダークチェイン……闇の力で作った鎖で敵を縛る。
・パワーロスト……敵の攻撃力・防御力を下げる。制限時間は3分。
化身顕現……固有職能「半熟賢者」の専用スキル。自身の魔力と「世界の力」を用いて伝説上の生物に変身する。
使用可能化身
・フェニックス……炎、水、風の属性を持つ化身「フェニックス」に変身する。高い攻撃力と癒しの力を持ち、攻撃と回復両方を得意とする。また、敵の攻撃を吸収して自身の力に変える事が出来る。
「……とまぁ、こんな感じですね」
と、春風が新たに入手したスキルについて、ヴィンセントらにそう説明すると、皆、「おぉ!」と目を大きく見開いた。
「光属性だけでなく、闇属性の魔術まで操れるとは……」
「ああ。そして、春風オリジナルの『化身顕現』もスキルになったって事は、この世界に認められたって事だよな」
「す、凄いわ! 流石は春風ちゃん!」
「ぐぬぬ。ウィルフレッド陛下達をここまで感心させるとは。おのれ、雪村春風……」
と、歯軋りをしながら春風睨むジェフリーを他所に、ウィルフレッドらがそんな話をしていると、
「……あれ?」
と、春風は何かに気付いたのかキョロキョロと辺りを見回し出したので、
「ん? 春風、どうしたの?」
と、気になったレナがそう尋ねると、
「ぐ、グラシアさんがいない!」
と、春風は焦った様子でそう答えた。
その答えを聞いて、
「あ! そういえば!」
と、レナも春風と同じように焦った様子で、
「ぐ、グラシアさーん!」
と叫びながら、春風と一緒になって辺りを見回した。
すると、
「ここですよ」
と、春風とレナの背後でグラシアの声がしたので、
「「グラシアさん!」」
と、ハッとなった2人が後ろを向くと、
「……グラシア……さん?」
そこには確かにグラシア本人がいたが、雰囲気が今までと違うものを感じたので、
「えっと……何かあったんですかグラシアさん?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、グラシアは「あーそのー……」と、気まずそうな表情になって、
「どうやら、私もランクアップしたみたいです」
と、「はは……」と苦笑いしながら答えた。
『……はい?』
と、春風とレナだけでなく、その場にいる者達全員が首を傾げた。